2016年11月25日金曜日

銘柄を明かさない理由R167 場違いな女

第167話 場違いな女

早朝、スーパーが見える通りに、場違いな1人の女性がいた。
高級ブランドの服をまとい、サングラスをかけた女性はファッションモデルのようだった。
出勤途中のサラリーマンたちは、女性を興味深そうに見ながら通り過ぎた。
気安く見るんじゃないわよ、ウィッグの女は軽く舌打ちした。

それにしても眠いわ、いつもは寝ている時間なのに。
どうして、引き受けちゃったかな。
でも、あの人に頼まれたら断れないわ。
ウィッグの女は、天使の笑顔をもつ男から頼まれた日のことを思い返した。

数日前のことだった。
天使の笑顔をもつ男から、ウィッグの女に電話があった。
「久しぶりだね、儲かっているかい」天使の笑顔をもつ男がいう。
「当たり前じゃない、そこそこ儲かっているわよ」ウィッグの女が答える。

「1つ頼みがあるんだけどいいかな」天使の笑顔をもつ男がいう。
「どんな頼み、また情報収集かしら」ウィッグの女が答える。
「今回の仕手戦で勝利したのは、研究会に参加している中学生のおかげだったんだよ。
ついては、彼にお礼をしたいと思ってる」天使の笑顔をもつ男がいう。

「ええっ、あの子が、ウソでしょ」ウィッグの女がいう。
「詳しいことはいえないが、本当だよ。
彼は今、母親の再婚相手の暴力を見かねた祖母に引き取られているらしい。
彼と一緒に暮らすように彼の母親を説得してもらえるかな」天使の笑顔をもつ男がいう。

「未婚女性が、既婚女性を説得できるわけないでしょ」ウィッグの女がいう。
「君ならできるよ、君は銀座の高級クラブで1、2を争うホステスだ。
人の心を解きほぐすことにかけては、誰もかなわない」天使の笑顔をもつ男がいう。
「でも男と女は違うから、できるかしら」ウィッグの女がいう。

「交渉成立でいいかな」天使の笑顔をもつ男がいう。
「まだよ、条件があるわ、成功報酬は2人で海外旅行よ」ウィッグの女がいう。
「いいだろう、交渉成立だな」天使の笑顔をもつ男が笑いながらいう。
天使の笑顔をもつ男は、ウィッグの女に中学生の母親に関する情報を伝えた。

中学生の母親は、スーパーで早朝から働いているらしい。
ウィッグの女はスーパーに歩いていく女性の姿を捉えた。
あっ、あの女の人だ、どう話しかけよう、まっ、いっか、なんとかなるか。
ウィッグの女はサングラスを外すと、中学生の母親に向かって歩き出した。