2019年12月31日火曜日

銘柄を明かさない理由R294 無敗の個人投資家たち~ヨドヤ コウヘイの場合~(後編)

第294話 無敗の個人投資家たち~ヨドヤ コウヘイの場合~(後編)

大阪難波のタワーマンションの一室。
ヨドヤ コウヘイの自宅兼オフィスには、2人の男と1人の女性がいた。
2人の男は、ヨドヤ コウヘイと秘書兼運転手の佐々木だった。
女性は芦屋出身の女性実業家、理沙で1人だけソファに座っていた。

家主であるヨドヤと佐々木は、なぜか床に座らされていた。
「昨夜、街でばったり佐々木に会ったのよ。
私を見た途端、逃げ出そうとするから、周囲の通行人に捕まえてもらったの。
捕まえた佐々木に、逃げようとした理由を問いただしたの」、理沙がいう。

なんで逃げようとしたんや、適当に話合わせたらええやろ、ヨドヤは佐々木を見た。
「佐々木は、言えません、ヨドヤさんから口止めされていますと言ったの。
佐々木は真面目な男なので、これ以上、聞いても時間のムダだと思ったの。
で、口止めした本人に、佐々木が逃げた理由を聞きに来たってワケ」、理沙がいう。

真面目にもほどがあるやろ、ヨドヤはうなだれている佐々木に心の中でいった。
「佐々木が私から逃げ出そうとした理由は何かしら」、理沙がいう。
「理沙はんとは、共同で経営しとった会社を売り渡すまでは仲間やった。
会社を売ってからは、お互い干渉するのはやめとこっていうたんや」、ヨドヤがいう。

「何だ、そういうことだったの」、理沙が笑っていう。
「そ、そ、そういうこと、何も深い意味はあらへんねん」、ヨドヤも笑っていう。
「そういえば、この前、面白いことがあったのよ」、理沙がいう。
「なんでっしゃろ」、ヨドヤが笑いながら聞く。

「私たちが売った会社だけど、売った後に私が安い値段で買い戻したの。
私が買い戻すとき、他の人からも売ってくれという話があったらしいの。
おかげで他の人の条件よりも高く買う羽目になったわ。
売値よりは安く買えたので、儲けにはなったけどね」、理沙がいう。

ヨドヤは、音を立てて血の気が引いていくのを感じた。
「ところが、買い戻した後で、不思議に思ったの。
なぜ、私が買おうとしたときに、他にも買おうとした人がいたのか。
あの会社の価値を知っている人は、極めて少数で限られている。

売った誰かが、買ったくれた相手にある提案をしていたのかもしれない。
もし、買おうとする人が現れたら、連絡くれれば、値段を吊り上げますよ。
高く売れたら、その分の儲けは折半しましょうとかね」、真顔になった理沙がいう。
「すんまへん」、理沙に高く買わせたヨドヤは、理沙に謝罪する羽目になった。

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