2019年12月10日火曜日

銘柄を明かさない理由R290 無敗の個人投資家たち~テンマ リナの場合~(中編)

第290話 無敗の個人投資家たち~テンマ リナの場合~(中編)

平日の正午過ぎ、都内のある証券会社。
総務課の女性は、自社の資産運用を手がけている部署"アルカディア"の前にいた。
来てやったわよ、クソ天然のテンマ。
総務課の女性は、"アルカディア"のドアを開けた。

ドアを開けた瞬間、警報が鳴り、"アルカディア"内に電子音声が流れた。
「フホウシンニュウ、フホウシンニュウ。
60ビョウイナイニ、リセットシテクダサイ。
リセットサレナイバアイ、ケイビガイシャヘツウホウシマス」

総務課の女性は慌てて、"アルカディア"のドアを閉めた。
だが、"アルカディア"の警報は鳴り止まなかった。
"アルカディア"の中から、60秒の残りを告げるカウントダウンが聞こえてきた。
「フィフティセブン、フィフティシックス、フィフティファイブ」

「何かあったんですか」、背後から声をかけられた総務課の女性は振り返った。
振り返ると、コンビニ袋を持った小柄な女性社員、テンマ リナがいた。
「ドアを開けたら、警報が鳴って、カウントダウンが始まったの、どうにかして」
総務課の女性は、テンマ リナに頼んだ。

「大丈夫ですよ、安心してください。
"アルカディア"から出る時は、セキュリティをONにしてドアの鍵をかけるんです。
でも、私がドアの鍵をかけ忘れて、その間に誰かがドアを開けると警報が鳴るんです。
すぐにセキュリティをリセットしますから」、テンマ リナがいう。

オマエがドアの鍵をかけ忘れなければよかったんだろ、何が大丈夫で、安心しろだ。
総務課の女性は思ったが、顔には出さなかった。
テンマ リナは両手で口を囲うと、大声で叫んだ。
「リーダー、リーダー、聞こえてますか、セキュリティをリセットしてください」

「叫ばなくても、あなたが中に入って、リセットすればいいじゃない」
総務課の女性はドアをこじ開けようとしたが、ドアを開けることはできなかった。
「警報が鳴ると、ドアはロックされて、中からしか開くことができないんです。
中にリーダーがいるんですが、この時間は寝ていることが多いんです。

でも、叫んでいれば、必ず起きてくれるはずです」、テンマ リナがいう。
「セブン、シックス、ファイブ」、唐突にカウントダウンが止まった。
しばらくすると、"アルカディア"のドアが開いた。
「また、鍵をかけ忘れたのか」、クジョウ レイコがドアから端正な顔をのぞかせた。

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