2019年12月3日火曜日

銘柄を明かさない理由R288 無敗の個人投資家たち~キミシマ ユウトの場合~(後編)

第288話 無敗の個人投資家たち~キミシマ ユウトの場合~(後編)

通称"21世紀少年"とも呼ばれている無敗の個人投資家、キミシマ ユウト。
無料の株式投資セミナーを終えたキミシマは、ホテル近くのカフェにいた。
店内は、今風にアレンジされたシックモダンな内装だった。
目の前にはテレビ局の番組スタッフ、"Kazuya Tanaka"がいた。

キミシマは目の前の男に、ある違和感を感じていた。
先日、会った男は、こんな顔してた人だったかな。
"Kazuya Tanaka"と名乗る男は、どこにでもいそうな顔の男だった。
誰かにどんな人かと問われても、どこにでもいそうとしかいえない顔の男だった。

キミシマのメガネには、男に関する情報が次から次へと表示されていた。
「同級生キター」、「誰かと思えば、職場の先輩www」などなど。
キミシマは、今まで何度か初対面の人物をネット配信したことがあった。
だが、この男に関する反響は、かってないほどの反響だった。

人間の顔に最大公約数があるならば、目の前の男の顔は最大公約数かもしれない。
メガネが受信する情報量に圧倒されているキミシマに、目の前の男がいった。
「先日、放送しないといいましたが、別の場面であなたの後姿が映っていました。
おそらく、特定されないと思いますが、お詫びの商品券です」

番組スタッフの男は懐から取り出した封筒を、キミシマの方にすべらせた。
受け取ろうとしないキミシマに、番組スタッフの男が聞いた。
「どうして受け取ろうとしないのですか」
キミシマは、深くため息をつくといった。

「申し訳ないですが、この封筒を受け取ることはできません。
あの番組が放送されてから、録画して何度も入念に確認しました。
でも、僕の後姿なんて映っていませんでしたよ。
あなたとはこれ以上、話すことは何もなさそうだ、失礼します」

キミシマは取り出した紙幣をテーブルに置くと、席を立った。
席を立ったキミシマに、番組スタッフの男がいう。
「私の名刺をお忘れですよ」
にっこりと微笑むと、キミシマはいった。

「忘れたのではありませんよ、お返しするんですよ。
お返しする理由は、あなたがよくご存知のはずですよね」
番組スタッフの男は、カフェを出て行くキミシマを見送った。
やるな、番組スタッフの男に扮した組織の男、"ジョーカー"は笑みを浮かべた。

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