2019年12月2日月曜日

銘柄を明かさない理由R287 無敗の個人投資家たち~キミシマ ユウトの場合~(中編)

第287話 無敗の個人投資家たち~キミシマ ユウトの場合~(中編)

通称"21世紀少年"とも呼ばれている無敗の個人投資家、キミシマ ユウト。
無料の株式投資セミナーを終えたキミシマは、ホテル近くのカフェへ向かっていた。
人工照明に照らされた街には、家路を急ぐ会社員やOLが多かった。
待合せ場所のカフェは、落ち着いた造りの店構えだった。

キミシマは数日前の記憶を思い起こした。
新宿でテレビによく出ているバラエティアイドルが、キミシマに質問した。
「おにいさんの東京らぶらぶを教えてください」
マイクを差し出されたキミシマは両手を上げると、胸の前で小さな×印を作った。

「残念ですぅ~」、バラエティアイドルとスタッフは、別の通行人に向かっていった。
キミシマに、インカムをつけたカジュアルな番組スタッフらしき男が近づいてきた。
「申し訳ないです、放送しませんが、念のため、名前と連絡先を教えていただけますか」
キミシマは男に名前と連絡先を伝えると、その場を立ち去った。

先日、番組スタッフを名乗る男から、会って渡したい物があると連絡があった。
キミシマは、カフェのドアを開けると、店内に入った。
キミシマは番組スタッフの男を見つけると、男の席へ歩み寄った。
「こんばんわ」、キミシマは番組スタッフの男に、にっこりと微笑んだ。

新聞を読んでいた番組スタッフの男は、慌てて顔を上げると立ち上がった。
「約束の時間より早いんですね、後片付けがあるのでもっと遅いのかと思ってました」
キミシマが番組スタッフの男にいった。
「後片付けはホテルに任せています。テレビ局の方が忙しいんじゃないですか」

オフィスカジュアルの番組スタッフの男が、キミシマにいう。
「ははは、確かにそうかもしれませんね。
そういえば、まだ名刺をお渡ししてなかったですよね」
番組スタッフの男は、キミシマへ"Kazuya Tanaka"と書かれた名刺を差し出した。

キミシマは名刺を受け取ると、男の向かいの席に座り、名刺を目の前に置いた。
番組スタッフの男も席に座ると、店員を呼び、キミシマへオーダーするよう促した。
キミシマのドリンクが届くと、番組スタッフの男が話し出した。
キミシマはポケットに忍ばせたリモコンを使い、メガネの送受信機能をONにした。

キミシマがかけているメガネは、ハイテク仕様の特注品だった。
機能をONにすると、特定の動画サイトに目の前の光景を送信できた。
それに対するネットユーザーからの情報も受信することができた。
番組スタッフの男に重なるように、男に関する情報が表示され始めた。

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