2019年12月12日木曜日

銘柄を明かさない理由R291 無敗の個人投資家たち~テンマ リナの場合~(後編)

第291話 無敗の個人投資家たち~テンマ リナの場合~(後編)

平日の正午過ぎ、都内のある証券会社。
証券会社には、自社の資産運用を手がけている部署"アルカディア"があった。
他部署より広い執務スペースのあるアルカディア"は、白を基調とした内装だった。
"アルカディア"の隅にある応接コーナーで、2人の女性が話をしていた。

1人は、"アルカディア"の創設者で責任者でもあるクジョウ レイコ。
クジョウ レイコは、連戦連勝の無敗であることから"無敗のクイーン"と呼ばれていた。
クジョウ レイコは容姿端麗で、近寄りがたい雰囲気をもつ女性社員だった。
「総務が、"アルカディア"に何の用事だ」、クジョウ レイコが聞く。

向かいの席に座っている総務課の女性が話し始めた。
「お伺いしたのは、あそこにいるテンマさんのことです」
クジョウが見ると、テンマことテンは壁一面に設置されたモニターの前に立っていた。
"アルカディア"の壁一面には、床から天井まで、いくつものモニターが設置されている。

モニターには主要国の市況から、各種指標のデータがリアルタイムで表示されている。
テンは立ったまま、腕組みをして、真剣な表情でモニターを見ていた。
総務課の女性がいう。
「コピー用紙など備品の発注は、テンマさんが担当されているんですよね」

「ああ、テンに任せているよ、それが何か」
真剣な表情でモニターを見ているテンから目を離すことなく、クジョウ レイコがいう。
「備品の発注については、社内規定があります。
当該部署の担当者が、システムに必要項目を入力して発注するよう決められています。

ところが、テンマさんはシステムで発注してくれないんです。
備品が必要になると、他部署に頼んで、分けてもらうことを繰り返していました。
会社の経費は、各部署が負担するようになっています。
どの部署が負担するのか、明確にするためにもシステムでの発注が必要なんです。

テンマさんには何度か注意しましたが、一向に改善されませんでした。
一向に改善されないので、備品の発注は必ず総務課を通すようにいいました。
すると、あのクソ・・・いや、テンマさんはどうしたと思いますか。
総務課が使っている備品を勝手に持っていったんですよ」、総務課の女性がいう。

「それは申し訳なかった。
"アルカディア"は多額の運用益を出しており、その多くはテンによるものだ。
他部署の備品の支払いも"アルカディア"に回すよう、経理に伝えておくよ」
絶句する総務課の女性に視線を戻すと、"無敗のクイーン"は優雅な笑みを浮かべた。

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