2018年10月3日水曜日

銘柄を明かさない理由R218 恐るべきベイビーの計画(後編)

第218話 恐るべきベイビーの計画(後編)

頭を抱えていた21世紀少年に、ある記憶が甦った。
それは忘れたくても忘れられない小学生時代の記憶だった。
当時、21世紀少年は母親と2人、古い木造アパートの1室で暮らしていた。
決して、裕福とはいえない生活だったが、不満に思ったことはなかった。

ある日、21世紀少年が小学校から帰ると、家に知らない男がいた。
「新しいお父さんよ」、母親が台所で食事の支度をしながらいった。
「よろしくな」、派手なシャツを着た知らない目つきの悪い男がいった。
その日から、21世紀少年にとって地獄ともいえる日々が始まった。

新しい父親だというその男は、定職に就いていなかった。
母親がパートで働いている時間は、家に男と2人きりでいることが多かった。
「格闘技の練習でもするか、相手になってくれるか」、男がいった。
男は勉強机に向かっていた21世紀少年を立たせて、無理やり練習相手にした。

新しい父親の格闘技の練習相手にさせられていることは、母親にはいわなかった。
新しい父親にとって自分が邪魔な存在であることが、21世紀少年にはわかっていた。
格闘技の練習相手をしないと、家にいさせてもらえないんだ。
格闘技の練習は容赦なく、21世紀少年の身体には痣が増え続けた。

やがて、21世紀少年は男の攻撃パターンが同じなことに気づいた。
男はいつも、最初にジャブで様子を伺ってくる。
ジャブで様子を伺ったあと、ストレートか回し蹴りを放ってくる。
ストレートか回し蹴りを放つ前、男はいつもかすかな笑みを浮かべる。

男がかすかな笑みをうかべたときこそ、反撃のチャンスなのかもしれない。
やられているだけじゃ、相手のためにならない。
ある日、いつものように男が「格闘技の練習するぞ」といってきた。
男は21世紀少年を立たせると、顔面にジャブを何発かくらわせた。

やがて、男がかすかな笑みを浮かべた。
今だ、21世紀少年は身体を低くすると、男に全力で体当たりした。
男は転倒し、タンスの角に頭をぶつけて気を失った。
21世紀少年は、身の回りの品をまとめると家を出て、祖父母の元へ向かった。

現状を打破するには、あのときのように行動するしかない。
まだ、自分は行動していないじゃないか。
あのときと同じように、ベイビーに体当たりすればいいだけだ。
21世紀少年はPCを起動すると、ある男に向けたメールを作り始めた。

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