2016年8月30日火曜日

銘柄を明かさない理由R122 神コラム

第122話 神コラム

ある業界紙で「銘柄診断」というコラムが始まった。
毎週、金曜日にこれから騰がりそうな銘柄を紹介するコラムだった。
コラムを書いている筆者の経歴は華やかだった。
破綻した大手証券会社を退職後、外資系証券会社で取締役を勤めた男だった。

今はフリーの株式評論家らしい男の銘柄分析は緻密だった。
ファンダメンタルズとテクニカルをベースにした分析には、説得力があった。
そのコラムには、他のコラムにはない独特の決まり文句があった。
「いつ急騰してもおかしくない株だ、週明け、すぐにでも買うことをお勧めする」

驚くべきことに、彼の予言どおりに週明けから株価は急騰した。
今までにない出来高を伴いながら、株価は5営業日連続で急騰したのである。
その週の金曜日、そのコラムは別の銘柄を取り上げた。
「いつ急騰してもおかしくない株だ、週明け、すぐにでも買うことをお勧めする」

コラムの予想どおり、その株も5営業日連続で急騰した。
その後も推奨した銘柄が、必ず急騰するコラムとして、業界の注目するところとなった。
証券取引等監視委員会は、いち早く内偵を開始した。
だが、男が推奨するのは大型株だったこともあり、違法性はないと結論づけた。

嗤う男は、オフィスで次回の推奨株について執筆していた。
一部のネットユーザーの間で、「銘柄診断」は神コラムと呼ばれていた。
先日は、業界紙の編集長自らが手土産を持って挨拶に来た。
「先生のおかげで、我が社の売上げは右肩上がりです」、手をもみながら編集長はいった。

嗤う男は株式評論家として、いくつかのマネー雑誌で連載を持つようになった。
「この株を買え」、「チャートはこう読め」、「勝ち組の投資家になる方法」など。
刺激的なタイトルの連載は、それぞれの雑誌の発行部数を大幅に伸ばした。
嗤う男は、名実ともにカリスマ相場師になりつつあった。

「少しは仕事をセーブされた方がよろしいかと」、世話役の年齢不詳の男がいう。
「まだ、大丈夫だ、考えてもみたまえ。
私が発信する情報で相場が動くのだ、休んでいるヒマなどないよ」、嗤う男がいう。
「くれぐれもムリはなされぬよう、先生あっての我々ですから」、年齢不詳の男は退室した。

退室した年齢不詳の男は思った。
大型株ばかり推奨するとは、あの男、思っていたより利口だな。
大型株を上昇させるのは、小型株を上昇させるより、はるかに難しい。
もはや国内相場は、あの男の思い通りということか、男は不敵な笑みを浮べた。