2016年8月20日土曜日

銘柄を明かさない理由R117 カリスマ相場師の誕生

第117話 カリスマ相場師の誕生

「数週間前、我々はある重大な運用方針を決定した。
どうする、ここから先の話を聞いたら後戻りはできない、聞きたいかね」
左右に座った2人の男は、黙ったまま嗤う男を見ていた。
嗤う男は、背中に冷や汗が流れるのを感じつつ答えた。

「き、聞かせていただけますか」
中央奥に座った男は無表情にいった。
「我々が相場を作ることにしたのだよ。
ターゲットにした銘柄へ集中投資を行い、株価を釣り上げて売り抜ける。

保有株公開時期までに売り抜ければ、世間に知られることもない。
だが短期間で株価を釣り上げるためには、広報役が必要だ。
その役目を君に担ってもらいたい。
君が推奨した銘柄に、我々は集中投資する。

君は、推奨した銘柄が必ず騰がるカリスマ相場師になるのだよ。
すでに君のオフィスも用意してある。
あるルートを使って、業界紙のコラム等、メディアも抑えてある。
もちろんタダでとはいわない。

君の現在の負債をゼロにすること、生活に困らないだけの報酬も約束しよう。
どうだね、カリスマ相場師になってみるかね」
「は、はい、喜んでお受けします」、嗤う男は即答した。
左側に座っている男が、内線で契約書を持ってくるように命じた。

部屋のドアがノックされ、年齢不詳の男が契約書を持ってきた。
先ほどの条件が記載された契約書に、嗤う男はサインした。
「これで君の負債はゼロだ、これからは思う存分、君の実力を発揮してくれたまえ」
「はい必ずや、ご期待に沿えるよう努めます」、嗤う男は答えた。

「彼をオフィスに案内してやってくれ」、右側に座っている男が年齢不詳の男に命じる。
「かしこまりました、さあ、こちらへ」、年齢不詳の男と嗤う男は退室した。
「スムーズでしたな」、左側に座っている男がいう。
「断る理由は見当たらないからな」、右側に座っている男がいう。

「もう1人の男から連絡はないのか」、中央奥に座った男が問う。
「今日の時点で、連絡はありません」、左側に座っている男がいう。
「最後の相場師の弟子であれば、最大の効果を得られたのだが仕方あるまい。
もともと引き受ける可能性は低かったからな」、中央奥に座った男がいった。