2016年8月12日金曜日

銘柄を明かさない理由R115 予期せぬ訪問者(中編)

第115話 予期せぬ訪問者(中編)

都内にある立派な邸宅。
帰宅して、名刺を受け取った巨躯の男は驚いた様子で家政婦にたずねた。
「本当にこの男が来たのか」
「はい、間違いございません」、家政婦はかしこまって答えた。

「どう思う」、巨躯の男は天使の笑顔をもつ男に名刺を渡して、たずねた。
名刺を見ながら、天使の笑顔をもつ男はいった。
「実に興味深い訪問者ですね。
是非、お会いする際には同席させて、いただきたいものです」

「よかろう、この件は君に任せる、相手の真意を突き止めてこい」
巨躯の男は、天使の笑顔をもつ男に命じた。
「仰せのままに」
天使の笑顔をもつ男は、まさしく天使のような笑みを浮かべて答えた。

同席していた男性秘書は思った。
この若い男、やはり只者じゃない。
この名刺に驚くどころか、1人で会うことを承諾するとは。
やはり、この男は最後の相場師の後継者なのか。

駅へ向かう道の途中、嗤う男は予期せぬ訪問者と対峙していた。
「あなたの受けている損害賠償請求がゼロになる話です」、スーツの男はいった。
「なぜ、そのことを、それにそんなことできる訳がない」、男はいった。
「詳しい話を聞きたいのであれば、こちらへご連絡ください」、スーツの男は名刺を渡した。

「な、なぜ、私に・・・」、嗤う男はスーツの男にたずねる。
スーツの男は笑みを浮かべていった。
「我々はあなたを必要としている、連絡をお待ちしています」
スーツの男は背中を向けると、颯爽と駅の方角へ歩いていった。

数日前のこと、都内某所で3人の男が円卓で話し合っていた。
「破綻した大手証券会社の元エリート会社員」、右手前の男がいう。
「その後、外資系証券会社で取締役まで登りつめた」、左手前の男がいう。
「今は株式取引で巨額の損失を出し、損害賠償請求をされている」、右手前の男がいう。

「文句なしの経歴だ」、左手前の男がいう。
「我々の起死回生の切り札になるかもしれない」、右手前の男がいう。
「その男こそ本命だ、どんな手を使っても落とさなくてはならない」、中央奥の男がいう。
「かしこまりました」、左右の男は同時に答えた。