2024年12月10日火曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R059 Buy when others sell(中編)

第059話 Buy when others sell(中編)

2011(平成23)年3月12日土曜日、朝の東京駅。
大勢の人で混雑する構内に、地下のホームから上がってきたジョウシマユウイチがいた。
新幹線の切符売り場を見ると、切符を買い求める長蛇の列ができていた。
前もって買っておけばよかったな、どうするかな、ジョウシマは思った。

ジョウシマの目の前を、サングラスにビジネススーツ姿の女性が足早に通り過ぎた。
さっき、切符売り場の列を見ていたな。
あの女性も切符を買ってなかったのか、どこへ行くんだろう。
ジョウシマは女性の後をつけることにした。

女性の後をついていくと、改札が見えてきた。
改札は開放されており、自由に出入りができるようになっていた。
改札の外にある自動券売機は空いていた。
女性は改札を出ると、自動券売機の列に並んだ。

なるほど、ここなら空いていると思ったのか、助かった。
ジョウシマも改札の外へ出ると、自動券売機の列に並んだ。
ジョウシマの列の方が早く進んだので、女性より先に買うことができた。
並んでいる女性に心の中で礼をいい、ジョウシマは改札の中へ戻った。

夕方、ジョウシマは名古屋駅から東京行の新幹線に乗車した。
訪問先で大変でしたねといわれたが、そんなに地震の話にはならなかった。
メディアが東北の被災地のことしか報じてないからだろう。
ジョウシマは、このことが週明けの相場に与える影響について考え始めた。

3月14日月曜日、東京都新宿区の坂木原調査事務所。
ジョウシマは定時前に出社したが、誰も来ていなかった。
しばらくすると、ジョウシマの携帯に所長の坂木原から着信があった。
「今、駅だがえらく混雑してる」、坂木原がいう。

「私は家が近いので来れましたが、いつ頃、来れそうですか」、ジョウシマがいう。
「いつ電車に乗れるかわからん、今日は留守電のまま自宅待機してくれ」、坂木原がいう。
「わかりました、上原にも伝えます」、ジョウシマがいうと電話が切れた。
上原に自宅待機と伝えたジョウシマは、自宅マンションに帰った。

自宅マンションに帰宅したとき、8時30分だった。
そういえば、相場はどうなっているのか。
ジョウシマはPCを起動すると、証券会社のサイトにログイン、朝の気配を確認した。
確認すると、今まで見たこともない売り気配だった。

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