第055話 似た者同士(前編)
アルカディアでは、アレスによりペアになった者同士が打合せをしていた。
アルカディアには、クジョウ、安東、蓮華、神崎、赤石、出水、石田、鮎川がいる。
ペアになったのは、クジョウと安東、蓮華と鮎川、神崎と石田、赤石と出水だった。
それぞれのペアの打合せはすぐに終わり、各自が自分の席に戻った。
似た者同士なので打合せも早いな、楢崎は思った。
今回のアレス改修で、最も時間がかかったのは、自動でペアを作るプログラムだった。
直近の取引データから、個別の入力、確認、発注の平均時間を計算。
それらの平均時間が近い者同士の端末を連携し、画面に表示するプログラム。
このプログラムは、"行動が同じなら思考も同じ"というクジョウの考えを元にしていた。
アンタはさすがだよ、取引前の気配を確認しているクジョウを見ながら楢崎は思った。
そういや、アンタも母子家庭だったな、同じ母子家庭育ちでもエライ違いだな。
楢崎は自らの過去を思い返し始めた。
楢崎秀樹は神奈川県出身で、父親はいなかった。
兄弟姉妹もおらず、派遣社員の母親によって育てられた。
中学時代は、地元の素行のよくない仲間と悪さばかりしていた。
補導されたりするたびに、母親が迎えにきてくれていた。
中学では好き勝手にやっていたが、高校に入るとできなくなった。
中学では学校カーストの上位だったが、高校では下位になったためだった。
高校では、親が金持ちでなければ、学校カーストの上位に入れなかった。
次第に高校に行かなくなり、高校二年の秋から部屋に引きこもるようになった。
ある日、母親が最新型のノートパソコンを買ってくれた。
母親によると、父親は外資系企業のITエンジニアだったらしい。
「あなたもきっと頭はいいはずよ、物理学者と同じ名前だしね」、母親がいってくれた。
その日から、独学でプログラミングの勉強を始めた。
半年も経たないうちに、基本的なスキルは身につけることができた。
当時、話題になっていたハッカーに憧れ、さらにスキルを高めようと思った。
最初に行ったのは、企業のサーバーへの不正アクセスだった。
ファイアウォールを潜り抜け、内部情報にアクセスできたことは自信になった。
だが、誰にも気づかれないのは、自己満足でしかなかった。
次からはアクセスしたときに、わずかな足跡を残すことにした。
5社目のサーバーに不正アクセスした5日後。
楢崎の家に警察の家宅捜索が入り、取り調べを受けたのちに在宅起訴された。
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