2024年12月4日水曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R056 似た者同士(中編)

第056話 似た者同士(中編)

楢崎が起訴されて、しばらくすると刑事裁判が始まった。
問われた罪は、刑法234条の2の電子計算機損壊等業務妨害罪だった。
未遂の場合も含め、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される罪だった。
楢崎の弁護は、母親が探してくれた弁護士が行うことになった。

検察側は、楢崎には中学時代に補導歴もあるとし、有罪判決を求めた。
楢崎の弁護士は、アクセスされた企業に実質的な損害がないこと。
アクセスされたのは、セキュリティに不備があったからだとし、無罪を主張した。
やがて出された判決は、罰金100万円の有罪判決だった。

裁判が終わってから、担当してくれた弁護士に事務所に呼び出された。
事務所を訪れた楢崎に、弁護士はいった。
「引き受けたのは、君の父親に頼まれたからで、裁判費用や罰金は父親が払ってくれた。
君の父親からは、裁判が終わってからも、君のサポートをして欲しいと頼まれている」

弁護士によると、楢崎の父親は母親と別れた後、米国企業の本社へ異動になった。
現在は本社の役員になり、新しい家族と一緒に米国で暮らしている。
ただ、楢崎のことを気にかけており、母親とは連絡を取り合っている。
大学へ進学するのなら、学費を援助したいとのことだった。

自宅へ帰った楢崎は、これからの人生について考えた。
自分には、自分のことを見守って、支えてくれる人がいる。
なのに、自分のことしか考えず、多くの人に迷惑をかけてきた。
これからは人の役に立つことをしたい、楢崎は思った。

高校を退学させられた楢崎は働くことにした。
求人誌に掲載されていたITエンジニアの求人に、片っ端から応募した。
やがて、応募した中の一社から連絡があり、面接を経たのちに採用された。
採用されたのは、愛誠証券という小さな証券会社だった。

「高校中退の学歴しかないのに、本当に採用していただけるんですか」
面接の際、採用だといってくれたジツオウジ社長に質問した。
「中卒のワシからすると高学歴だが、証券業界で学歴は何の役にもたたない。
肝心なのは、何を学び、どう活かすかだ」、ジツオウジ社長はいってくれた。

愛誠証券に入社後、楢崎は一人で社内システムを構築してきた。
過去の経験を活かしたファイアウォールの防御力は高いと自負している。
アレスは、他社のシステムと比べても見劣りしないシステムだと思っている。
今は妻子もいる楢崎は、会社や社会の役に立っているよなと思った。

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