2024年12月4日水曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R057 似た者同士(後編)

第057話 似た者同士(後編)

8時50分、取引開始時間が迫る中、クジョウのインカムに安東の声がした。
「各銘柄とも売り気配で、東電(東京電力)はストップ安になる可能性大。
前場は様子見にするかもしれません」
「了解」、クジョウは答えると、自分と同じ見立てだと思った。

クジョウとペアになった安東は、2007年選考試験の仮想トレードで1位だった。
アルカディアメンバーになってからも、成績は上位をキープしていた。
普段は営業だが、判断に迷いがなく、入力から発注までの時間が速かった。
クジョウは、安東を自分と似たタイプだと思っていた。

3月11日14時46分の地震発生で、福島第一原発の1号機から3号機が自動停止した。
その後、東京電力により、1号機から3号機までの全交流電源の喪失が判明。
1号機と2号機の非常用炉心冷却装置による注水不能も判明した。
12日に1号機が水素爆発と思われる爆発、13日に3号機の原子炉冷却機能喪失も判明した。

取引時間になると、相場の先行きを懸念した国内外の投資家の売り注文が殺到した。
機関投資家の利益確定売りを増やす動きもあり、日経平均株価は急落。
取引終値は前週末比633円安の9,620円で、1万円の大台を割り込んだ。
3号機の爆発が報じられたこともあり、東電株はストップ安となった。

3月15日、福島第一原発の放射線量の異常な上昇が伝わると、換金売りが加速した。
午後になると、日経平均株価の下げ幅は1,400円に迫った。
東証一部銘柄の97%が値下がりし、取引終値は1,015円安の8,605円。
-10.55%の下落率は歴代3位の下落率で、東証一部の売買高は過去最高に達した。

3月11日の東電株は、2,130円台近くで推移していた。
14時46分の揺れの後、売りが殺到したことから急落、2,121円が取引終値だった。
同日夜間のPTS(私設取引システム)では、1,900円台で取引されていた。
3月14日の取引開始前、東電株には売り注文が殺到していた。

3月14日はストップ安の1,621円で、取引成立は177万5,800株。
3月15日もストップ安の1,221円で、取引成立は212万5,400株。
3月16日もストップ安の921円で、取引成立は625万1,000株。
3月17日になって、ようやく場中に取引成立、株価は741円だった。

3月14日から16日の相場で、安く買って高く売るトレードができたペアは以下だった。
3月14日:クジョウと安東。
3月15日:クジョウと安東、蓮華と鮎川。
3月16日:クジョウと安東、蓮華と鮎川、神崎と石田、赤石と出水。

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