2016年9月27日火曜日

銘柄を明かさない理由R141 ゴールデンクロス(後編)

第141話 ゴールデンクロス(後編)

銀座にある高級クラブのホステス、ウィッグの女は出勤途上だった。
ゴールデンクロスが近いと察知していたウィッグの女は、すでに大量の株を仕込んでいた。
ついに、ゴールデンクロスが現れたわ、本当、株ほど簡単なお金儲けはないわね。
株を教えてくれた先生に感謝しなくちゃね、ウィッグの女は1人で笑いそうになった。

店へ出勤すると、黒服のボーイが寄って来ていった。
「マネージャーが事務室へ来て欲しいとのことです」
何かしら、ウィッグの女は事務室へ向かった。
ノックをして事務室に入ると、キツネに似たマネージャーと見知らぬ女性がいた。

「どうしたの、マネージャー」、ウィッグの女が聞く。
「どうしても、ウチで働きたいっていう女の子が来たんだ。
業界未経験なので、お断りしたんだが諦めてくれないんだよ。
君からうまくいってくれないかなと思ってね」、キツネに似たマネージャーがいう。

またか、ウィッグの女は思った。
この業界、憧れだけでやっていけるほど甘くない。
しかも未経験でいきなり、この店に来るとは。
世間知らずもいいとこね、ウィッグの女は思った。

ウィッグの女はマネージャーの横に座ると、女性を見た。
整った気品のある顔立ちだわ、でも業界では平均点というところかしら。
わるいけど容姿だけでは不採用ね。
ウィッグの女は、女性の履歴書を手に取った。

女性は都内の聞いたこともない会社に勤めていた。
志望動機は、ありきたりの「この業界で自分の可能性を試してみたい」だった。
頭脳明晰なウィッグの女は、ふと学歴が気になりたずねた。
「なぜ、名門の私立校から公立校へ変わったの」

「父が勤めていた証券会社が破綻して、学費が払えなくなったんです」、女性がいった。
「お父さんは、その後、どうしたの」、ウィッグの女が聞く。
「父と母はまもなく離婚しました、それから母と2人暮らしです。
父の消息はわかりません」、女性がいった。

この女、おもしろい、ゴールデンクロスとともに現れたのも、何かの縁かもしれないわ。
ウィッグの女がキツネに似たマネージャーにいった。
「なかなかの過去を持っているみたいだし、試しに使ってみてあげてもいいんじゃない」
ウィッグの女の一言で、都内にある調査会社に勤める女性社員の採用が決まった。