2016年9月25日日曜日

銘柄を明かさない理由R139 ゴールデンクロス(前編)

第139話 ゴールデンクロス(前編)

株価が底値から上昇に転じると、短期線が上向きに転じる。
更に株価の上昇が続くと、中期線、長期線が上向きに転じる。
中期線が長期線を上回ることを、「ゴールデンクロス」という。
「ゴールデンクロス」は、上昇相場始まりのシグナルとされている。

都内の吹き抜けのアトリウムがあるオフィスビルの1室。
嗤う男は、背中に冷や汗が流れるのを感じていた。
「誰かに薬物のようなものを飲まされ、この場所を白状させられた話は本当か」
円卓の左側に座った男が無表情にいった。

「はい、銀座の高級クラブだったので、つい油断してしまいました」、嗤う男がいう。
「白状したのは、この場所だけか」、円卓の右側の男が聞く。
「お、おそらく、正直いって途中から覚えていないのです」、嗤う男がいう。
「一緒にいながら、お前は何をしていたのだ」、中央奥に座った男が問う。

「申し訳ありません、別のホステスから店外へ呼び出されたのです。
非常階段で身の上話を聞いていました。
テーブルに戻ると、先生はすでに意識を失っていらっしゃいました」
嗤う男の横に立つ年齢不詳の男が答える。

「あらかじめ、周到に用意された計画だったようだな。
誰の仕業か突き止めなくてはならない」、中央奥に座った男がいう。
「汚名返上の機会をいただけないでしょうか」、年齢不詳の男がいう。
「どう、返上するのだね」、円卓の右側の男が聞く。

「この手の調査を得意としている調査会社を知っています。
その調査会社を使って、誰の仕業か突き止めます」、年齢不詳の男がいう。
「失敗したら、後はないと思え」、中央奥に座った男がいう。
「かしこまりました」、年齢不詳の男と嗤う男は退室した。

「ついにゴールデンクロスが出ましたな」
円卓の左側に座った男が無表情にいう。
「計画は予定通りでよろしいでしょうな」
円卓の右側に座った男が、中央奥に座った男に聞く。

円卓の中央奥に座った男が不敵な笑みを浮べた。
「計画は予定通り、次のステージへ移行する。
今や相場は我らの意のままだ。
今回のゴールデンクロス、多くの者にとって終わりの始まりになるだろう」