2016年9月7日水曜日

銘柄を明かさない理由R125 ジョーカー・ゲーム

第125話  ジョーカー・ゲーム

都内にある高級マンション。
天使の笑顔をもつ男を見送ったウィッグの女は1人くつろいでいた。
結局、GPIFを名乗った男はGPIFではなかった。
GPIFではなく、大手の外資系証券会社だった。

天使の笑顔をもつ男から依頼のあった数週間後のこと。
女は偶然にも、隣のテーブルの客の話を聞いた。
「あの株式評論家の勧めた株が騰がるのには理由があるらしい。
噂では、大手の外資系証券会社が買っているらしい」

なぜ外資系がと聞く連れに、男は答えていた。
「GPIFが保有株の公開を決めただろう。
いくら大手の彼らでも、世界最大の機関投資家であるGPIFには敵わない。
よって、自分たちで相場を作ることにしたという噂だ」

数日後、偶然にも株式評論家の男が店にやって来た。
連れの男が席を外した隙に、女は自白効果のあるカクテルを作った。
株式評論家の男は、あるオフィスの所在地をいい、意識を失った。
調べると、その所在地には大手の外資系証券会社のオフィスがあった。

今回は運がよかったわ、女はワイングラス片手に思った。
ふと女は思った。
何かおかしい、あまりにも偶然が続いた。
まさか、そんなことはあり得ない。

もし、隣のテーブルの客の話が偶然でなかったとしたら。
もし、株式評論家の男が店にやって来たのが偶然でなかったとしたら。
隣のテーブルで話していた客は、どんな男だった。
思い出せない、どこにでもいる会社員だったような気がする。

株式評論家の男を連れてきた男。
特徴のない年齢不詳の男だった。
あとで確認すると、男は常連客ではなかったらしい。
高額で予約してきたので、入店間もないボーイはすっかり店の常連だと思ったらしい。

まさか、隣のテーブルの客と、株式評論家の男を連れてきた男は同じ男。
もし、そうだとすると、変幻自在のジョーカーの男。
考えるのよ、いったい、何が起きているのかを。
静かな夜のなか、頭脳明晰なウィッグの女の思考はフル回転を始めた。