2016年9月9日金曜日

銘柄を明かさない理由R126 ジョーカーの正体

第126話  ジョーカーの正体

第二次世界大戦で、この国は敗戦国になったといわれている。
だが、一部の男たちにとっては勝利だった。
開戦前の彼らはある危機感を持っていた。
欧米列強による東南アジアとこの国の植民地化だった。

このままでは、この国は欧米列強に包囲され、やがて植民地となる。
彼らの出した結論は、植民地となっている東南アジア各国の独立だった。
最終的にこの国は敗れる、だが包囲網を崩すことはできる。
彼らはこの国のために、欧米列強に自由の戦いを挑んだ。

敗戦国にはなったが、彼らの当初の目標は達成された。
東南アジア各国は独立、包囲網はなくなった。
次は経済発展による国力の増強だ、彼らはある組織を作ることにした。
戦後の高度成長は、その組織によるものだったといっても過言ではない。

彼らは、有望な人材に目をつけると、次々と組織の一員とした。
国内における組織のネットワークは完璧だった。
ありとあらゆる官公庁や大手企業に、彼らの組織の人間がいた。
この国に進出してくる外資系企業も例外ではなかった。

大手の外資系証券会社に勤める年齢不詳の男も組織の一員だった。
男は大手外資系証券会社に新卒で入社した。
男がその組織の一員になったのは、入社数年後のことだった。
組織は数年間、男の行動を観察した上で採用を決定したのである。

大手外資系証券会社の動向を報告することが、男の主要なミッションだった。
ある日、男は大手外資系証券会社が相場を作ろうとしていると報告した。
数日後、男にあるミッションが与えられた。
「国内の相場師に情報をリークしろ、ただし決して正体は悟られるな」

ストレートに情報をリークしても、人は信用しない。
あえて不自然な点を気づかせることによって、人は情報を信用する。
男は会社から、ある大物相場師にGPIF職員を装い、コンタクトを取るよう命じられた。
男が用意したのは、GPIFの職員名簿にない氏名の名刺だった。

組織は国内のあらゆる通話記録を入手することができる。
男は、大物相場師の家にいる若い男がクラブホステスへ真相究明を依頼したのを知った。
あとはクラブホステスの店で、情報をリークするだけでよかった。
ミッション完了、誰もいない部屋で、年齢不詳の男は不敵な笑みを浮べた。