2016年9月14日水曜日

銘柄を明かさない理由R129 ジョーカーとエース

第129話 ジョーカーとエース

年齢不詳の男と天使の笑顔をもつ男は、次の駅に着くと電車を降りた。
「ついてこい」、年齢不詳の男はそういうと改札の外へ出た。
年齢不詳の男は地上へ出ると、路地にある古びた立飲みの店に入った。
まだ早い時間にも関わらず、店には多くの客がいた。

「とりあえず、生でいいか」、年齢不詳の男が聞く。
天使の笑顔をもつ男がうなずくと、年齢不詳の男は生ビールとつまみを何品か注文した。
生ビールとつまみが運ばれてくると、2人は軽くジョッキを合わせ、飲み始めた。
「なぜ、尾行した」、年齢不詳の男がいう。

「あなたが意図的に情報をリークしてくれたからです」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「あのホステスの女が、そういったのか」、年齢不詳の男がいう。
「そうです、意図的としか考えられないと、なぜ情報をリークしてくれたのですか」
天使の笑顔をもつ男が聞く。

「もし聞けば、君は生涯、監視対象となる、それでも聞きたいか」
年齢不詳の男は、つまみをつつきながらいった。
「それって脅しですか、脅しは通用しませんよ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
年齢不詳の男は、2杯目の生ビールを注文した。

そして、天使の笑顔をもつ男のことを話し始めた。
天使の笑顔をもつ男のフルネームと生年月日。
大学入学後、実家が全焼し、家族を全て亡くしたこと。
家族との思い出の品を、貸金庫に預けていること。

今は大学を中退し、大物相場師の家に住んでいること。
在学中から付き合っている交際相手がいること。
だが最近になって、銀座の高級クラブのホステスともいい仲になっていること。
最後に、現在の保有資産を正確に言い当てた。

天使の笑顔をもつ男は、驚きのあまり、何もいえなかった。
「大物相場師が監視対象になると、自動的に周囲の人物も監視対象となる。
わるいことはいわない、これ以上、深入りするな」
運ばれてきた2杯目の生ビールを飲みながら、年齢不詳の男はいった。

「わかりました、1つだけ教えてもらえませんか。
あなたは我々の味方ですか、敵ですか」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「味方でも敵でもない、はるかに高度な目的のために動いている」
年齢不詳の男はいい、2杯目のジョッキを飲み干した。