2016年9月19日月曜日

銘柄を明かさない理由R135 予知夢

第135話 予知夢

天使の笑顔をもつ男は、全焼した実家の焼け跡に立ち尽くしていた。
家族を全て失った、父も母も妹も。
都内の大学に進学せずに、自宅にいたなら助けられたかもしれない。
天使の笑顔をもつ男は地面に崩れ落ち、声を殺して泣き続けた。

「あら、誰かと思えば、お兄さま、何してらっしゃるの」、聞き覚えのある妹の声がした。
顔を上げると、制服姿の妹がにんまりした笑顔で立っていた。
「えっ、みんな、火事に巻き込まれたんじゃないのか」
天使の笑顔をもつ男は泣き濡れた顔でたずねた。

「ええっ、そんな話になっているの、ひどい誤報ね」、妹がいう。
「ということは」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「お父さんもお母さんも病院よ、命に別状はないって」、妹が笑顔でいう。
「そうか、よかった」、天使の笑顔をもつ男は安堵した。

「どこの病院だ、父さんや母さんに会いたい」、天使の笑顔をもつ男がいう。
妹の顔から笑みが消えた。
「おい、教えろよ、どこの病院だ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「大事なことを伝えるから、よく聞いて」、妹がいう。

「敵は、まだ手の内を明らかにしていない。
このままだと、お兄さまたちは壊滅するわ。
目に見えるものを信じちゃいけない。
勝利のカギは、1人の男の子の手にあるわ」、妹が真剣な顔でいった。

「ちょっと待て、いきなり何の話だ、父さんと母さんはどこにいるんだ」
天使の笑顔をもつ男はいった。
妹の周囲が闇に包まれ始めた。
漆黒の闇の中、赤く光る目が天使の笑顔をもつ男を見ていった。

「今、聞いたことは忘れろ、ルールを守れない奴の戯言だ」
その声は、地獄の底から響いてくるような声だった。
「きさま、何者だ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「我は死者を統べるもの」、赤い目がいい、闇が天使の笑顔をもつ男に襲いかかった。

天使の笑顔をもつ男は、大声をあげてベッドから飛び起きた。
「びっくりした、どうしたの」、ウィッグを外した女が驚いた顔で見ている。
「恐ろしい夢を見たような気がする」、天使の笑顔をもつ男はいった。
「忘れさせてあげる」、ウィッグを外した女は天使の笑顔をもつ男をベッドに押し倒した。