2016年9月26日月曜日

銘柄を明かさない理由R140 ゴールデンクロス(中編)

第140話  ゴールデンクロス(中編)

都内のある調査会社に勤める男は依頼先との打ち合わせが終わり、帰社していた。
ようやく、ゴールデンクロスが出現した。
これから上昇相場が始まる、これからの買いはなしだ。
あとはいつ元本引き上げの売りをするかだな、男は思った。

帰社した男に、女性社員が声をかけた。
「社長がお呼びです、今すぐ社長室へ来てくださいって、また何かよくないことされました」
「いつもいっているだろう、心当たりは山ほどあると」
笑う女性社員を残し、男は社長室へ向かった。

社長室に着いた男は、軽くノックをした。
「入りたまえ」、男が社長室に入ると、社長は窓の外を見て、しばらく黙っていた。
「遠慮は要らん、掛けたまえ」、太った貫禄ある社長が振り向きながらいう。
とっくに、男はソファに座っていた。

「また、す、座っていたのか、まあいい」、社長がバツがわるそうにいった。
「また仕事の依頼ですか」、男はたずねた。
「ああ、そうだ、我が社のお得意様を通じての依頼だ」、社長がいう。
「依頼主と調査内容を教えてもらえますか」、男が聞いた。

「我が社のお得意様は、世界有数の保険法人だ。
そこを通して、大手の外資系証券会社から依頼があった」、社長がいう。
「大手の外資系証券会社からの依頼ですか」、男がいう。
「そうだ、しかも金に糸目はつけないらしい」、社長は嬉しそうにいった。

社長が話した依頼内容は以下だった。
著名な株式評論家が、銀座の高級クラブでホステスに薬物らしいものを飲まされた。
連れの男が別のホステスに店外へ呼び出された間に、意図的に行なわれた。
誰の仕業なのか調べて欲しいという依頼内容だった。

「もし薬物を飲まされたのが事実なら、警察へ届け出た方が話は早い」、男はいった。
「そうはできない何らかの事情があるのだろう」、社長がいう。
「仕方ありませんね、どうせ断れないんでしょう」、男がいう。
「当たり前だ、お客様は神様だからな」、社長が笑いながらいった。

席へ戻った男に女性社員が声をかける。
「何かお手伝いできることがあったら、何なりと仰ってください」
「今回ばかりは、君の助けが必要になるかもかもしれない」、男がいう。
「わかりました、お力になれるよう頑張ります」、女性社員がいう。