2016年9月5日月曜日

銘柄を明かさない理由R123 魔窟

第123話 魔窟

今や、カリスマ相場師となった嗤う男はタクシーに乗っていた。
横には、世話役の年齢不詳の男がいる。
「先生、もうすぐ着きますから」、年齢不詳の男がいう。
「銀座の高級クラブなんて何年振りだろう、すまないね」、嗤う男がいう。

「先生あっての我々です、今夜は気持ちよく接待させてください。
運転手さん、次の角を右に曲がったところで降ろしてもらえるかな」、年齢不詳の男がいう。
「かしこまりました」、運転手が答える。
やがてタクシーが停まり、ネオンが煌く夜の銀座に嗤う男と年齢不詳の男が降り立った。

店に入ると、黒服のボーイが出迎えた。
「いらしゃいませ、いつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます」
「今日は大事なお客様をお連れした、よろしく頼むよ」、年齢不詳の男がいう。
「存じ上げております、どうぞ、こちらへ」、ボーイは2人を奥へと案内した。

席に着いた2人のテーブルに、2人の女がやってきた。
「いらっしゃいませ」、女たちは嗤う男に名刺を渡して自己紹介した。
「お隣に座らせていただいて、よろしいかしら」、ウィッグの女が笑顔でたずねる。
「どうぞどうぞ」、嗤う男がにやけた笑顔で答える。

嗤う男はウィッグの女との会話を楽しんでいた。
気づくと、世話役の年齢不詳の男ともう1人の女の姿がなかった。
「あれ、2人はどこへ行ったのかな」、したたかに酔った嗤う男がたずねる。
「聞くだけ野暮よ、先生」、ウィッグの女は嗤う男にグラスを手渡しウインクした。

「なるほど、そういうことか」、嗤う男は納得した。
「なぜ先生は騰がる株がわかるの、超能力でも持ってらっしゃるの」、ウィッグの女が聞く。
「ははは、超能力なんかじゃないよ、今までの経験でわかるようになったんだよ。
企業の業績とかチャートを詳しく見ることで、わかるようになるんだよ」、嗤う男がいう。

気づくと、明るかったはずの店内は闇に包まれていた。
闇の中から、ウィッグの女の声が聞こえてきた。
「誰が先生の勧めた株を買っているの」
「だ、誰って、読者、たち、だよ」、嗤う男は朦朧とする意識の中、答えた。

「読者はどこにいるの」、ウィッグの女の声が聞こえてきた。
「ど、読者、は、え、円卓の、部屋」、嗤う男は何とか答えた。
「円卓の部屋は、どこにあるの」、ウィッグの女の声が聞こえてきた。
嗤う男は、あるオフィスビルの所在地を告げると意識を失った。