2016年9月16日金曜日

銘柄を明かさない理由R131 仮面の男(後編)

第131話 仮面の男(後編)

黙っている男に、コートを着た巨躯の男がいった。
「世界一の舞台俳優になる理由がわからないのか。
わからないのなら教えてやる。
世界一の舞台俳優は、金を手に入れるための手段であって目的ではない。

この世の中、全ての価値観を決めるのは金だ。
もし金を手に入れたいのなら、ここに来い」
コートを着た巨躯の男は、手帳にホテルの会場と日時を走り書きした。
走り書きしたページを破ると、横たわった男に渡した。

立ち去ろうとする巨躯の男に、横たわった男がいった。
「見捨てるのか、こちらは怪我人なんだぞ」
巨躯の男は立ち去りながらいった。
「甘えるな、助けが欲しいなら自分で助けを呼びにいけ」

何だ、あの男は、しかし身体が動かない。
このまま、朝までここに転がっているのか。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
救急車、こっちに来ねえかな、男の意識はそこで途切れた。

男が気づいたのは、病院のベッドの上だった。
「ここはどこだ」、男が聞く。
「あなたが運ばれてきた病院ですよ。
昨夜はあなたのおかげで大変だったんですよ」、ショートヘアの若い看護婦がいう。

あの救急車で、俺は運ばれたのか。
誰かが救急車を呼んでくれたのか。
いったい、誰が呼んでくれたのだろう。
ふと、ベッドサイドのテーブルを見ると、真っ白な封筒が眼にとまった。

「その封筒は」、男が看護婦に問う。
若い看護婦は真っ白な封筒を手に取り、中を改めた。
「昨夜、付き添いで来られた男の人が置いていかれた封筒ですよ。
カードが1枚だけ入っています、これって王様のカードかしら」

退院した男は、巨躯の男が指定したホテルでの研究会に出席した。
研究会に参加した男は思った、こんなに簡単に金を稼ぐことができるのか。
今や男の本業は相場師で、仮面の相場師と呼ばれていた。
久々のキングからの指令だ、思う存分、暴れてやる、男は凄みのある笑みを浮べた。