2016年5月24日火曜日

銘柄を明かさない理由R68 男と女のルール

第68話 男と女のルール

にぎやかな店内、女性店主は厨房で1人、思い返していた。
最初に、初詣に行かないかと誘ったのは女性店主だった。
「別に構わないが、そっちは大丈夫なのか」と、男はいった。
「大丈夫だから誘っているんじゃない」女性店主は笑って返した。

何かいいかけて、男は止めた。
女性店主は既婚者で、男も既婚者だった。
既婚者の男女が2人きりで初詣に行く。
互いの家族が知れば、決していい気はしないだろう。

だが、2人は自分たちの気持ちに抗わなかった。
家族には友達と会ってくるといい、初詣に行った。
やがて、女友達との旅行だと偽って、2人で旅行に行くようになった。
2人でいろんなところへ旅行した。

「さあ、お待たせ、今日のメインディッシュよ」女性店主が大皿を持ってきた。
下町の定食屋では、あり得ない大皿のパエリアだった。
「わあ、美味しそう」天使の笑顔をもつ男の彼女がいった。
「本当に美味しそうだ、ありがとうございます」天使の笑顔をもつ男が礼をいった。

男は女性店主を見ながら思った。
お互い独身のときに知り合えたら、よかったかもしれない。
でも、独身のときに知り合っていても、君には相手にされなかっただろう。
男には女性店主にはいえないことがあった。

2人がいろんなところへ旅行している頃だった。
女性店主の主人に、2人の関係が知られた。
ある日、男の元に女性店主の主人から電話がかかってきた。
この時にどのような会話があったかは、誰にもいわないし、いうつもりもない。

既婚者が恋愛して、何が悪いと男は思う。
だが、既婚者の恋愛の場合、互いの家庭を壊さないことがルールだ。
特に相手に子どもがいる場合、相手の家庭を壊すようなことは絶対にしてはならない。
そう思い、男は自ら女性店主と距離をおくことにした。

その夜、下町の定食屋はにぎやかだった。
天使の笑顔をもつ男の彼女は厨房に入り、愉しそうに調理を手伝い始めた。
男と天使の笑顔をもつ男は、熱心に相場について話をしている。
「あんたたち、相場だけをみていたら、大切なものを失うわよ」女性店主はいった。