2016年5月5日木曜日

銘柄を明かさない理由R67 戦いのあと

第67話 戦いのあと

ある証券会社で、取締役を兼ねる営業責任者の男は、調査報告書を読み終えた。
不正アクセスに関与していたかもしれない3人は、いずれも証拠を掴めなかった。
よって、今回の調査費用に関しての請求はありません、という報告内容だった。
本当に証拠を掴めなかったのだろうか、取締役を兼ねる営業責任者の男は思った。

調査報告書の写しを読んだアルカディアの責任者、無敗のクイーンがいった。
「この調査報告書は、あえて重要な事実を伏せているように思います。
おそらく、あの男は首謀者を特定したのでしょう。
だが、何らかの理由から、あえて首謀者を明かさなかったように思います」

「なぜ、そう思う」、取締役を兼ねる営業責任者の男がたずねた。
「あまりにも報告書の内容が薄すぎます」、無敗のクイーンが答えた。
「なら、再調査を依頼するか」、取締役を兼ねる営業責任者の男がたずねた。
「敗者を探しても時間のムダです、業務に戻ります」、無敗のクイーンは答え、席を立った。

ある調査会社で、太った社長が女性社員にたずねていた。
「あいつはどこへいった、調査費用を請求しないと勝手に依頼主に送りやがったあいつは」
「行きつけの店に行くといって、とっくに帰りましたよ」、女性社員がいった。
「けしからん」、太った社長は依頼主からの礼状を握りしめて悔しがった。

定食屋の引戸が引かれ、男が店内に入った。
厨房から女性店主が、「いらっしゃいませ」という。
男は空いている席に座り、店内のテレビを見ていた。
注文を取りにきた女性店主が、男に気づいた。

「誰かと思ったら、来るなら来るで連絡してよね」、女性店主がいった。
「忙しくてな、いつものやつを頼むよ」、男はいった。
「何がいつものやつをよ」、女性店主がいった。
「あのさ」、男がいった。

「もし、俺が不慮の事故で命を落としたら、どう思う」、男はたずねた。
「そうねえ、先ずは怒るわよ、このバカってね」、女性店主はいった。
「やはり、怒られるのか、どうすれば怒られないんだろう」、男はいった。
「あんたは誰かに怒られていないと、ダメなのよ」、女性店主が怒った顔でいった。

そのとき、引戸が引かれ、新たな客が現れた。
天使の笑顔をもつ男と、花見で一緒にいた女性だった。
「あら、久しぶりね、いらっしゃい」、女性店主は笑顔で迎えた。
「お約束どおり、彼女を連れてきましたよ」、天使の笑顔をもつ男は微笑んだ。