2016年5月31日火曜日

銘柄を明かさない理由R72 難波の女帝

第72話 難波の女帝

そろそろ参戦しまひょか、淀屋が参戦しようとしたとき、それは起こった。
ストップ安だった株が、大幅な上昇を始めたのである。
なんや、これは、何が起こったんや、こんなんありえへんやろ。
ストップ安からストップ高となった株を、淀屋は信じられない面持ちで見ていた。

ほんまに危ないとこやったで、参戦してたら大損するとこやった。
ストップ安にした奴は、えらい損したんやろな。
出来高と取引値からすると、どえらい金が動いたんやな。
どこのどいつが、ストップ安だった株をストップ高にしたんやろ、気になるわ。

淀屋は独自の情報網を使って調べることにした。
やがて、ストップ高にしたのは、東京のある証券会社だとわかった。
その証券会社は、ある相場師が創業した会社だった。
しかも驚くべきことに、女性トレーダーがストップ高にしたことがわかった。

相場師が作った会社、しかも女がストップ高にしたやと。
おもろい会社や、全てにおいて型破りな会社や、今まで聞いたことあらへん。
東京にこんなおもろい会社があるとは、いつか話を聞きたいもんや。
淀屋は会ったこともない東京の証券会社に思いをはせた。

同じ頃、大阪の難波。
オフィスビルの1室で、1人の女が報告書を読んでいた。
その報告書は、ある株がストップ安からストップ高になった経緯をまとめていた。
なるほど、仕手戦やったんやね、しかし思い切った仕手戦しはるわ。

報告書には、コンビニで買い物する2人の女性を隠し撮りした写真もあった。
無敗のクイーンと無敗の天然と呼ばれている女性2人だった。
しかもストップ高にしたのは、ウチより若い女の子たちやんか。
ウチくらいの歳になったら、どんなトレードするんやろ、将来が楽しみやわ。

報告書の細部まで記憶した女は、報告書をシュレッダーにかけた。
女性2人の写真をシュレッダーにかけながら、女は思った。
かわいいお嬢ちゃんたちは、ウチの味方なんかな、それとも敵なんかな。
もし敵になるんやったら覚悟しときや、かっての幕府みたいに潰してあげるよってに。

その女は、淀屋の一族で本家だった。
淀屋の一族で本家だということは、公にはしていない。
女は代々、受け継いできた資産を管理する傍ら、相場を張ってきた。
相場で巨額の利益を叩き出してきた女は、「難波の女帝」と呼ばれていた。