2016年5月2日月曜日

銘柄を明かさない理由R63 再会

第63話 再会

ある証券会社の応接室。
取締役を兼ねる営業責任者の男は、調査を委託した会社の男に経緯を話し終えた。
「被害を受けている訳ではないのですが、何かあってからでは遅いと思いましてね」
取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。

「いや、賢明だと思います、確かに何かあってからでは遅いですからね。
ところで不正アクセスに対して、何か手は打っているのですか」、男は聞いた。
「担当部署の責任者を呼ぶのでお待ちいただけますか」
取締役を兼ねる営業責任者の男は、内線でアルカディアの責任者を呼ぶようにいった。

「担当部署の名前は、アルカディアというのですか」、男はたずねた。
「創設時からアルカディアという呼び名です。
女性社員だけで構成されている部署ですから、固い呼び名はイヤだったのでしょう」
取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。

ほどなくして、応接室のドアがノックされた。
取締役を兼ねる営業責任者の男が入るようにいった。
入ってきたのは、端正な顔立ちのスーツ姿の女性だった。
男の顔を見るなり、女性社員は目を見開いていった、「なぜ、貴様がここにいる」

「どこかでお会いしてましたでしょうか」、男には覚えがなかった。
「先日、河川敷で酔っ払っていただろう」、女性社員がいった。
「ああ、あのときの、自分に酔ってたさんか、これは奇遇ですね」、男は思い出した。
「なんだ、2人は知り合いだったのか」、取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。

アルカディアの責任者、無敗のクイーンへの男のヒアリングが始まった。
「不正アクセスに対して、何か手は打っているのですか」
「架空の個人投資家の取引口座を作って、そちらにアクセスさせている」
「効果は出ていますか」、男が続けて聞く。

「面白いように効果が出ている、注文を出すと、奴らも追随してくる」
「注文を出す銘柄は複数の銘柄ですか」
「いや、1銘柄のみで、その株は仕手株になりつつある」
「その銘柄の証券コードを教えていただけますか」

無敗のクイーンは証券コードを告げた。
「貴重な情報をありがとうございました、できるだけ早急に調査を終えます」、男はいった。
「こちらは何とかするので、必ず首謀者を突き止めてくれ」、無敗のクイーンがいった。
「必ず突き止めるよ」、男はいった。