2020年10月12日月曜日

銘柄を明かさない理由R356 怪物たちの創造主(前編)

第356話 怪物たちの創造主(前編)

ニューヨークのマンハッタンにある高級アパートメントの一室。
"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマはシャワーを終えた。
アンザイは、舞台で鍛えたスリムで筋肉質な身体に残った水滴を、バスタオルで拭った。
全裸の上に、高級なバスローブを羽織ると、アンザイはキッチンでカクテルを作った。

アンザイはカクテルを手に、マンハッタンの夜景を一望できるリビングのソファに座った。
カクテルを飲みながら、窓越しにマンハッタンの夜景を見ると、雨が降っていた。
街のネオンはぼやけて、色の塊にしか見えない。
アンザイは、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウと出会った日のことを思い出した。

アンザイの家は、父親は地方都市の会社員、母親は専業主婦、弟が1人の平凡な家庭だった。
何不自由なく育てられたアンザイは、都内の大学に入学、演劇サークルに入った。
演劇サークルに入った理由は、先輩たちに美男美女が多かったという単純なものだった。
だが、その演劇サークルで、アンザイは演劇の虜(とりこ)になった。

アンザイが、演技で怒りを露(あらわ)にしたり、悲しむと、観客が感情移入してくれた。
やがて、先輩たちは演劇以外の道を選択、演劇サークルを卒業していった。
同期生の就職先が次々と決まる中、就職先が決まっていないのは、アンザイだけだった。
俺は演劇で生きていく、卒業したアンザイは、親の反対を押し切り、小さな劇団に入った。

小さな劇団だったので、すぐに役を与えられたが、劇団での収入は少なかった。
バイトで生活費を稼ぐ日々だったが、好きな演劇ができるだけで、幸せだった。
気づくと、小さな劇団で古株になっており、団長以外は年下ばかりになっていた。
ある日のこと、アンザイは、下北沢の居酒屋で、劇団の若手数人と飲んでいた。

演劇論を語るアンザイに、若手の1人が「あんたの演劇論は古いんだよ」といって笑った。
頭にきたアンザイは、自分の飲み代をテーブルに叩きつけると、居酒屋を後にした。
誰かと肩がぶつかったところまでは覚えている。
気がつけば、路地裏に横たわって、雨に打たれていた。

身体の節々が痛むし、殴られたのか片方の眼は塞がっている。
たぶん、肩がぶつかった相手に殴られたのだろう。
地面に横たわって見上げる世界は、今まで見たことがない世界だと、アンザイは思った。
気づくと、傘を差し、コートを着た巨躯の男が、傍に立っていた。

「夢は何だ」、コート姿の巨躯の男が、アンザイを見下ろしながら聞く。
「日本一、いや、世界一の舞台俳優になりたい」、アンザイが答える。
「なぜ、世界一の舞台俳優になりたい」
コート姿の巨躯の男、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウが聞いた。

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