2020年10月1日木曜日

銘柄を明かさない理由R353 反撃の狼煙(前編)

第353話 反撃の狼煙(前編)

休日の夜、家族が寝静まった都内のマンション。
書斎部屋で、1人の男がPCに向かい、メールの受信トレイを確認していた。
男の名は内海、日本一の株屋のチーフトレーダー。
だが、財務省にも属している日本証券界の守護者(ガーディアン)でもあった。

内海の受信トレイに、いくつかの新しいメールがあった。
新規メールの大半は、ダイレクトメールだったが、1通はダイレクトメールではなかった。
内海は、ダイレクトメールではないメールを開いた。
送信者は、"無敗のジャック"こと、ジョウシマ ユウイチだった。

先日、内海はジョウシマにあることを依頼しており、メールはその回答だった。
劉宋明(りゅうそうめい)が、何らかの方法を用いて、全市場を暴落させた。
方法がわからなかった内海は、ジョウシマに方法を調べるよう依頼していた。
メールには、劉宋明が暴落させた方法が書かれており、証拠の画像が添付されていた。

劉宋明は、自らのネットワークを用いて、各国の証券取引所にドラゴンの絵を描かせた。
描かせたドラゴンの絵は、"SELL(売れ)"という英単語で描かれていた。
カリスマトレーダーのニック・ライアンを含む各国のトレーダーは、その絵を見た。
絵を見たトレーダーたちは、無意識の内に売らされ、全市場が暴落した・・・。

内海は、ジョウシマのメールに添付されていた画像を確認した。
画像は、各国の証券取引所に黒で描かれていた9匹のドラゴンの絵だった。
9匹のドラゴンは、こちらを睨みつけており、迫力のある構図だった。
画像を拡大すると、たしかに絵は、"SELL"という英単語で描かれていた。

デジタルな情報化社会に、あえてアナログな手段を使った訳か、内海は思った。
米国にある証券取引を監督・監視する証券取引委員会(SEC)。
今回の暴落後、SECを含む各国機関は、暴落の原因を調査したが、いまだに掴めていない。
このようなアナログな手段では、どこの機関もわからないはずだ。

ジョウシマからのメールの最後には、あるお願いが書いてあった。
今回の真相を突き止めたのは、ジョウシマではないこと。
突き止めたのは、"無敗のクイーン"と呼ばれる女性で、彼女にお礼をしたいこと。
"反撃の狼煙(のろし)"があがったら、知らせて欲しいという内容だった。

"反撃の狼煙"か、内海はわずかに笑みを浮かべた。
内海は、どのように劉宋明への"反撃の狼煙"をあげるべきか、思考をめぐらせた。
目には目を、歯には歯を・・・、アナログにはアナログ、だな。
内海は、受信トレイにある1通のダイレクトメールを開いた。

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