2018年9月25日火曜日

銘柄を明かさない理由R212 日本一の株屋(後編)

第212話 日本一の株屋(後編)

応接室へ向かいながら、支店長の男は考えていた。
淀屋初代本家13代目当主、浪花の相場師こと淀屋が何の用や。
淀屋は業界では知らん奴はおらへん有名人、特に関西では。
アポイントなしで乗り込んできた奴の目的は何や。

支店長の男は、応接室のドアを開けた。
応接室の中には、さえない身なりの男、淀屋がソファに座っていた。
ソファから立ち上がろうとする淀屋を手で制し、支店長の男はソファへ座った。
この男が淀屋初代本家13代目当主、浪花の相場師こと淀屋か。

支店長の男は、色あせたスタジャンを羽織った目の前の男をしげしげと見た。
思うてたより若い男やな、歳は俺とタメかもしれんな。
愛嬌のある顔立ちで、とてもやないが巨額の金を動かす相場師とは思われへん。
ホンマに、この男が浪花の相場師こと淀屋なんか、支店長の男は思った。

支店長の男は懐から名刺入れを取り出すと、名刺を出し挨拶した。
「大阪支店、支店長の村野です」
淀屋は名刺を受け取ると、いった。
「名刺は持ってまへんねん、ワテは淀屋、浪花の相場師と呼ばれとります」

「お目にかかるのは初めてですよね。
今日はどういったご用件でお越しになったのでしょうか」、支店長の村野がいう。
「日本一の株屋と話がしとうなった、それだけですわ」
淀屋はそういうと愛嬌のある笑みを浮かべた。

「どのような話なのか、お聞かせ願えませんでしょうか」、支店長の村野がいう。
「単刀直入にいうわ、ベイビーって知っとるか。
過去に世界恐慌を起こしてきたベイビーちゅうAIが、活動を開始したんや。
ベイビーは再び、世界恐慌を起こそうとしとるんや」、淀屋がいう。

支店長の村野は思った。
はぁ、ベイビーやと、この男、阿呆ちゃうか、何がベイビーや。
AIが世界恐慌を起こすって、起こせるわけないやろ。
浪花の相場師はホラ吹きのペテン師、とんでもない阿呆やったってことか。

支店長の村野は淀屋にいった。
「ベイビーですか、知りませんね。
ベイビーというAIがあるなんて、存じ上げませんし。
AIが世界恐慌を起こそうとしているとは、いやはや淀屋さんは想像力が豊かですね」

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