2024年10月29日火曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R030 兵どもが夢の跡(後編)

第030話 兵どもが夢の跡(後編)

1997年11月24日、創業100年の名門企業、山井証券が自主廃業を発表した。
1998年3月4日、元社長と元役員が、証券取引法違反容疑で東京地方検察庁に逮捕された。
同年6月の株主総会で、解散決議に必要な株主数を確保できず、自主廃業を断念。
1999年6月2日、東京地方裁判所より破産宣告を受け、事実上経営破綻(倒産)した。

2009年7月、東京都中央区日本橋。
かって、山井証券本社があった場所近くの居酒屋に、天馬と速水がいた。
「この辺りも変わったな、兵(つわもの)どもが夢の跡だな」、天馬がいう。
「全くだ、天馬コンツェルンの今後の方向性を教えてくれないか」、速水がいう。

「これからは量より質、規模は拡大せずに中身を充実させていく。
あと後継者の育成に着手したいと考えている」、天馬がいう。
「具体的な後継者候補はいるのか」、速水がいう。
「ペガサス電子は長女の瑠奈、ペガサスエクスプレスは次女の葉月だよ」、天馬がいう。

「昨年、立ち上げた天馬リゾートはどうするんだ」、速水がいう。
「将来的には三女のリナに任せたいと考えている、ただ」、天馬の言葉が途切れた。
「ただ、どうした」、速水がいう。
「まだ中学生なんだが、常識がないというか、落ち着きがないというか」、天馬がいう。

「おいおい、中学生なら、そんなもんだろ」、速水がいう。
「甘やかしすぎたのかと思ったりしている」、天馬がいう。
「そういえば、長女と次女は奥さんの連れ子だったな。
自分の子を可愛がるのは、自然なことじゃないか」、速水がいう。

「本人のためには、一度、外の世界を経験させた方がいいかなと思ってる。
まだ先の話だが、愛誠証券で社会経験させてくれないか」、天馬がいう。
「本人さえよければ、ウチとしては問題ない。
ウチで仕事したら、戻ってこないかもしれないぞ」、速水が笑いながらいった。

同時刻、都内の高級住宅地にある天馬家。
「彼氏からもらったスイーツがない!」、風呂上がりに冷蔵庫を開けた瑠奈が叫んだ。
リビングでテレビを観ている母親と葉月が、瑠奈を見て、首を左右に振った。
「天然オタクの妹め~食べてたらコロス」、瑠奈は2階にあるリナの部屋へ向かった。

リナは部屋でネットニュースを見ながら、冷蔵庫にあったスイーツを食べ終えていた。
ニュースは、バトルオンストリート国際大会の初代王者が獅子神兄弟だと伝えていた。
国際大会がホントにあったなんて知らなかった~出場してたら私が優勝してたのに~。
リナはスイーツが入っていた紙箱を叩いて潰すと、ゴミ箱に投げ捨てた。

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