第030話 兵どもが夢の跡(後編)
1997年11月24日、創業100年の名門企業、山井証券が自主廃業を発表した。
1998年3月4日、元社長と元役員が、証券取引法違反容疑で東京地方検察庁に逮捕された。
同年6月の株主総会で、解散決議に必要な株主数を確保できず、自主廃業を断念。
1999年6月2日、東京地方裁判所より破産宣告を受け、事実上経営破綻(倒産)した。
2009年7月、東京都中央区日本橋。
かって、山井証券本社があった場所近くの居酒屋に、天馬と速水がいた。
「この辺りも変わったな、兵(つわもの)どもが夢の跡だな」、天馬がいう。
「全くだ、天馬コンツェルンの今後の方向性を教えてくれないか」、速水がいう。
「これからは量より質、規模は拡大せずに中身を充実させていく。
あと後継者の育成に着手したいと考えている」、天馬がいう。
「具体的な後継者候補はいるのか」、速水がいう。
「ペガサス電子は長女の瑠奈、ペガサスエクスプレスは次女の葉月だよ」、天馬がいう。
「昨年、立ち上げた天馬リゾートはどうするんだ」、速水がいう。
「将来的には三女のリナに任せたいと考えている、ただ」、天馬の言葉が途切れた。
「ただ、どうした」、速水がいう。
「まだ中学生なんだが、常識がないというか、落ち着きがないというか」、天馬がいう。
「おいおい、中学生なら、そんなもんだろ」、速水がいう。
「甘やかしすぎたのかと思ったりしている」、天馬がいう。
「そういえば、長女と次女は奥さんの連れ子だったな。
自分の子を可愛がるのは、自然なことじゃないか」、速水がいう。
「本人のためには、一度、外の世界を経験させた方がいいかなと思ってる。
まだ先の話だが、愛誠証券で社会経験させてくれないか」、天馬がいう。
「本人さえよければ、ウチとしては問題ない。
ウチで仕事したら、戻ってこないかもしれないぞ」、速水が笑いながらいった。
同時刻、都内の高級住宅地にある天馬家。
「彼氏からもらったスイーツがない!」、風呂上がりに冷蔵庫を開けた瑠奈が叫んだ。
リビングでテレビを観ている母親と葉月が、瑠奈を見て、首を左右に振った。
「天然オタクの妹め~食べてたらコロス」、瑠奈は2階にあるリナの部屋へ向かった。
リナは部屋でネットニュースを見ながら、冷蔵庫にあったスイーツを食べ終えていた。
ニュースは、バトルオンストリート国際大会の初代王者が獅子神兄弟だと伝えていた。
国際大会がホントにあったなんて知らなかった~出場してたら私が優勝してたのに~。
リナはスイーツが入っていた紙箱を叩いて潰すと、ゴミ箱に投げ捨てた。
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