第028話 兵どもが夢の跡(前編)
創業100年になる名門企業が、バブル崩壊の中で経営破綻した。
日本の金融危機を象徴する戦後最大の倒産だった。
1997年(平成9年)11月24日、山井証券本社では多くの社員がテレビを見ていた。
11時30分、東京証券取引所の会議室で、社長の記者会見が始まった。
3か月前に就任したばかりの社長が自主廃業を伝えた後、涙ながらにいった。
「私ら(経営陣)が悪いんであって、社員は悪くありませんから。
善良で能力のある社員たちに申し訳なく思います。
一人でも再就職できるよう、支援してやってください。お願いします」
周囲の社員がざわつく中、天馬明人は冷めた目で記者会見を見ていた。
1987年入社の天馬は、名古屋支店に営業として配属された。
営業成績がよかった天馬は、昨年、本社にある関東第一営業部に異動していた。
しばらく忙しくなりそうだな、天馬は思った。
「今夜、付き合えよ」
天馬が振り返ると、同期入社の速水がいた。
速水は入社してから、本社の法人営業部にいたが、天馬とはウマが合った。
「わかった」、天馬は短く答えると、再び記者会見に目をやった。
同日夜、本社近くの居酒屋で二人は飲みながら話していた。
天馬は速水から、経営破綻の原因が、簿外債務であることを聞かされた。
法人営業部が、複数の得意先に利回り保証して、株を買わせていたが、含み損が拡大。
含み損となった株を、子会社に買い取らせていたことが原因だった。
「内部監査でわからなかったのか」、天馬がいう。
「決算前に別の子会社に売り、決算後に買い戻せば、表には出ないだろ」、速水がいう。
「経営陣は知っていたのか」、天馬がいう。
「当然、知っていたさ、知っているのに隠し続けてたんだ」、速水がいう。
「いったい、どれくらいの損失なんだ」、天馬がいう。
「俺が担当してた得意先だけで100億は超えてる」、速水がいう。
「100って・・・」、天馬が絶句する。
「他も合わせると、2000億は超えてるだろうな」、速水がいう。
「国は救済してくれなかったのか」、天馬がいう。
「断られたらしい、粉飾決算したんだ、当然の報いだろ」、速水がいう。
「速水はこれからどうするんだ」、天馬がいう。
「就職活動でもするかな」、速水はいうとグラスの酒を飲んだ。
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