2024年10月27日日曜日

【小説】銘柄を明かさない理由R029 兵どもが夢の跡(中編)

第029話 兵どもが夢の跡(中編)

1997年(平成9年)11月24日、山井証券が自主廃業を発表した。
発表後、顧客保護を理由に、無担保で最大1兆2千億円もの日銀特融が実施された。
同年12月13日、業務監理本部長が委員長となり、今でいう第三者委員会が発足した。
翌年3月4日、元社長と元役員が、証券取引法違反容疑で東京地方検察庁に逮捕された。

同日夜、山井証券本社近くの居酒屋に、天馬と速水がいた。
「同期の多くは、外資系証券会社へ転籍するらしい」、天馬がいう。
「らしいな、天馬は決まったのか」、速水がいう。
「嫁の父親が経営しているホテルチェーンに就職することにした」、天馬がいう。

「規模はでかいのか」、速水がいう。
「でかくない、関東でビジネスホテルしか展開してない」、天馬がいう。
「親族が経営している会社なら、いい就職先かもな」、速水がいう。
「嫁が一人娘だから、俺を跡継ぎにしたいんだろ、速水は決まったのか」、天馬がいう。

「愛誠証券に転職することにした」、速水がいう。
「あの相場師が創った会社か」、天馬が驚いていう。
「"無敗のキング"と呼ばれたジツオウジコウゾウが社長の会社で社歴も浅い。
そのためか、証券会社として足りない部分が多くあるからな」、速水がいう。

「例えば、どんなことだ」、速水がいう。
「ウチは"法人の山井"と呼ばれ、最も多くの企業を上場させてきた。
愛誠証券には、企業を上場させたりする法人営業のノウハウがない。
俺がそのノウハウを教えてやろうと思ってな」、速水がいう。

しばらく考え込んでいた天馬が口を開いた。
「実は、ホテルチェーンに就職したら、事業を多角化したいと考えている。
企業買収とか行うかもしれないが、その際は力になってくれるか」
「同じ釜の飯を食った仲間だ、喜んで協力させてもらうよ」、速水がいった。

天馬はホテルチェーンに入社、速水は愛誠証券に入社した。
天馬は山井証券時代の人脈を生かし、積極的に買収を仕掛けた。
業績が低迷している企業の財務内容を精査、買収を提案した。
買収に伴う株式譲渡などの手続きは、愛誠証券の速水が一手に請け負った。

天馬が買収したのは、エレクトロニクス事業や物流事業などの企業だった。
これらの集合体を"天馬コンツェルン"と称し、天馬が総帥として率いることになった。
速水は、天馬の企業買収に伴い、愛誠証券の業績に大きく貢献した。
やがて、ジツオウジの会長就任に伴い、速水が社長に就任した。

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