2024年6月30日日曜日

【小説】まとめ屋~vol.380~

ある日の深夜、あるチャットスペースで会話が始まった。

X:お疲れ
B:おつかれ
X:Bしかいねえのか
B:さっきまでZがいたよ
X:何かネタあったか
B:Zの相手について新情報があったよ
X:どんな情報だ
B:相手の奥さんらしきSNSを見つけたらしい
X:どうやって見つけたんだ
B:マンション名や車のナンバーで検索したらヒットしたらしいよ
X:あいかわらず特定スキルたけえな
B:以前からの読み通りだったみたいだよ
X:何が読み通りだったんだ
B:相手のSNSには奥さんに関する記事があった
B:内容からある国の出身じゃないかって噂されてた
B:見つけたSNSにその国の言葉があったらしい
X:言葉があっても、その国の出身とは限らねえだろ
B:もちろんそうだけど、可能性は高いと思うよ
X:出身がどこだろうが、どうでもいい話だろ
B:ただ知っておいて、損はないんじゃないかな
X:今もそのSNSを見ることできんのか
B:見ることはできるけど、記事や画像は削除されてたらしい
X:何で削除してんだ
B:特定されたら、拡散されると思ったんじゃないかな
X:ってことは、奥さんかもしれねえな
B:家族は関係ないから、拡散したりしないんだけどね
X:相手のSNSも削除したりしてんのか
B:匿名と実名があるけど、どちらも削除してないよ
X:奥さんは賢明かもしれねえな、さてとそろそろ寝るわ、おやすみ
B:おやすみ

彼らのネット歴は長く、法に抵触しない範囲で遊んでいた。
彼らは遊んでいたが、その遊びはいつも誰かのためだった。
そんな彼らが愛読しているのは「予告犯」というタイトルのマンガだった。
チャット画面を閉じた彼らは、ネタ探しのため、ネットサーフィンを始めた。

彼らのネット歴は長かったが、そんな彼らにも知らないことがあった。
彼らは、関わった一部の人から、「まとめ屋」と呼ばれていた。

同時刻、警視庁サイバー犯罪対策課
「交替の時間ですよ」、1人の男がPCを観ている男の背後から声をかけた。
「もう、そんな時間か」、声をかけられた男が振り返っていう。
「また、まとめ屋のサイト見てたんですか」、声をかけた男がいう。
「不起訴になったZに対して、相手は何かしたのか」、声をかけられた男がいう。
「その件ですが、えらいことになってるようです」、声をかけた男がいう。
「検察審査会へ申し立てでもしたのか」、声をかけられた男がいう。
「Zが略式起訴されたと、SNSで騒いでいるそうです」、声をかけた男がいう。
「おいおい名誉毀損でアウトだろ」、声をかけられた男がいう。
「Zから訴えられるかもしれませんね」、声をかけた男がいう。
「だから個人間の争いは民事でさせるべきなんだ」、声をかけられた男がいう。
「まずは当事者同士の話し合いからですよね」、声をかけた男がいう。
「しかし常識のない奴だな、あとはよろしく」、声をかけられた男がいう。
「了解」、声をかけた男はいうと、席を立った男と入れ替わりに席に座った。

定年退職後、5年間の嘱託勤務を終えて今年2月に完全リタイアしたOさん。趣味の競馬で友達を作ろうと、さっそく入門書を読んでフェイスブックを始めた。大好きなサラブレッドの写真やレースの予想を投稿するうちに同好の士が増え、知り合った若者や同世代と競馬場に集まるようになった。
8月のある日の朝、歴史問題についての議論に関連して「自分の歴史観を投稿したところ、若者から絵文字付きで反論が来た。絵文字は失礼だと説教したら、今度は『本質的な議論をしろ』とのシニアからの批判が止まらなくなった。友達の友達と称する知らない人からも罵声を浴びた」。Oさんは、かっとなった当時の自分を反省する。
「SNSで政治問題を熱く議論するのはシニア、特に男性シニアならではの傾向」。公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団(東京・新宿)の主任研究員でシニアのライフスタイルに詳しいSさんは指摘する。定年後、行動範囲が狭まり友達が減る人もいる。自分を認めてもらいたい、自分の考えを誇示したいという欲求が根底にある。それが相手の顔が見えない仮想現実の世界で、感情をコントロールできず爆発するわけだ。
スポーツ選手のブログ執筆を指導するスポーツメディアトレーナーのKさんは、「ネットで自分の思想信条を表明するのは悪くない。ただ相手を中傷してはダメ。炎上したら家族にも被害が及ぶこともある」と警告する。無料対話アプリのLINE、短文サイトのツイッターも同様。投稿は世界中に発信されることをシニアにも分かってほしいと付け加える。
(『広がるSNS、シニア「炎上」どう防ぐ』日本経済新聞2014年10月21日)
「予告犯」筒井哲也氏より
-------------------------------------------------------
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ネットの誹謗中傷をなくすにはどうしたらよいかをテーマに書いています。
誹謗中傷された場合の法的手続きですが、費用対効果は決してよいとはいえません。
また、相手から虚偽告訴罪で訴えられる可能性もあります。
誹謗中傷されたら、やり返さずに弁護士に相談されることをオススメします。
相談すれば、どのような罪に問えるかなど、アドバイスしてもらえることが多いです。
「まとめ屋」の方法はリーガルチェックを受けていないため、行わないでくださいw

0 件のコメント:

コメントを投稿