2019年8月22日木曜日

銘柄を明かさない理由R266 買いの奥義(中編)

第266話 買いの奥義(中編)

福澤桃介という偉大なる相場師がいた。
彼こそは眉目秀麗にして大胆不敵、「黄金の化身」と称された天才相場師である。
1868年(明治元年)に貧農の家に生まれ、苦学の末、慶応義塾へ入学する。
若くして米国へ留学した彼は、帰国後、福澤諭吉の娘と結婚する。

1895年、肺結核の療養中に数冊の投資本と仲間の手ほどきを元に、株式投資を始める。
1906年、日露戦争後の国内株式市場に伝説となる大相場が始まる。
当時165円だった東京証券取引所株が800円近くまで値上り、世間は熱狂に包まれる。
翌1907年1月に相場は下落相場に転じ、東京証券取引所株は230円まで下落する。

彼はこの相場に買いで参戦、ピーク前に売り抜けた後、売りを仕掛けて巨万の富を得る。
その後、株式投資で得た資金を元手に実業界へ進出、「電力王」と呼ばれるまでになる。
晩年は慶応義塾在学中に知り合った日本人女優第1号とされる貞奴と静かに余生を送った。
彼の葬儀には妻、妹、貞奴の姿があったという。

彼は、株式投資において注意すべきこととして、以下の言葉を残している。
「第一は、預金利子を標準として売買し、理屈外に相場が上がって世の中が馬鹿騒ぎをしているときには決して手を出さないこと、第二に、株は会社が安全な物のみを選ぶこと、第三に、決して借金までして株を買わないことの三点である」

元号が変った年。
国内相場は、昨年から下がり続けていた。
下がり続ける相場の中、驚くべきことに1人の男は利益を出していた。
利益を出している男は無敗の個人投資家で、無敗のジャックと呼ばれていた。

下がり続ける相場の中、ジャックは10年来の安値水準にあった株を仕込んだ。
仕込んでから二割以上の益が出ると、ジャックは元本引上げ売りを行った。
タダ株を手に入れたジャックは思った。
3年前と同じ値動きの相場、仕込みの本番はこれからだ。

ある夏の日、ジャックが待っていたときがついに来た。
狙っていた2銘柄の配当利回りが、場中に5%を超えたのである。
翌日の早朝、起床したジャックはPCを起動、昨日のNYダウを確認した。
確認すると、昨日のNYダウは今年最大の下落幅を記録していた。

「いざ、参ろうか」ジャックは不敵な笑みを浮かべるとつぶやいた。
ジャックは狙っていた2銘柄へ過去最高額となる買い注文を入れた。
会社へ向かうべく、身支度を始めたジャックはつぶやいた。
「2銘柄への集中投資、これぞ、まさしく二刀流の買いの奥義なり」

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