2024年9月8日日曜日

銘柄を明かさない理由R027 電脳空間の女子中学生(後編)

第027話 電脳空間の女子中学生(後編)

都内の高級住宅地にある白亜の邸宅の一室。
ゲーミングPCからは、エドワード安田の興奮した声が聞こえていた。
「獅子神兄弟ダウン!ダメージMAXのため、起き上がることができません!
バトルオンストリート日本ブロック決勝戦、勝者はりなっち!りなっちです!」

そこまで聞いたりなっちはオンラインの接続を切った。
"JKムーン"のお面を外し、鍵盤型キーボードに置くと、大きく背伸びした。
背伸びを終えると、机にあるスポーツドリンクのペットボトルを手に取った。
スポーツドリンクを一口飲むと、ふぅ~と一息ついた。

りなっちの素顔は、まだあどけなさの残る少女の顔だった。
小さな顔に大きな瞳の彼女は、リスなどの小動物を連想させた。
昨年、トーナメントモードができたことを知った彼女は、クリアするため練習してきた。
数か月前、特定のコマンドを繰り返すことで、瞬間移動できることを知った。

攻略本にも出ていない瞬間移動なら、トーナメントモードをクリアできると思った。
だが、瞬間移動を使うには、ある問題があった。
ある問題は、瞬間移動する前に、アバターが光るということだった。
一度、瞬間移動すると、そのことが知られ、次に光ると警戒されることになる。

瞬間移動を使うのは一度だけ、ここしかないというときだけ。
りなっちは、トーナメントモードの最終戦でしか使わないと決めていた。
予定通り、トーナメントモードをクリアしてやったわ。
りなっちはペットボトルを手にしたまま、ドヤ顔で勝利の余韻に浸っていた。

りなっちは、日本ブロック戦を、ゲームのトーナメントモードだと思い込んでいた。
クリア条件は日本ブロック決勝戦で勝つことで、勝ったら終わりだと思い込んでいた。
翌月から世界大会が始まったが、知らなかったりなっちはエントリーしなかった。
りなっちは棄権扱いとなり、繰り上げ出場した獅子神兄弟が優勝、初代世界王者となった。

りなっちの本名はテンマリナで、天馬コンツェルンの総帥である天馬明人の娘だった。
企業集団である天馬コンツェルンを率いる明人には3人の娘がいた。
長女が瑠奈(るな)、次女が葉月(はづき)、三女がリナだった。
明人は、天馬コンツェルンの更なる発展のため、娘たちへ事業承継したいと考えていた。

決断力がある瑠奈には、ペガサス電子を中核とするエレクトロニクス事業。
洞察力がある葉月には、ペガサスエクスプレスを中核とする物流事業。
努力家であるリナには、天馬リゾートを中核とする観光事業。
このとき、リナが証券界伝説のトレーダーになるとは、夢にも思っていなかった。

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