2019年6月4日火曜日

銘柄を明かさない理由R263 或る組織の誕生(中編)

第263話 或る組織の誕生(中編)

1918年(大正7年)、ドイツ人高級将校の邸宅を使用した青島守備軍司令部。
御用商人の張が帰った後の応接室で、神尾司令官が部下の結城中佐にいう。
日本最強の師団、第十八師団でも、遊興に耽る軍人がいるとはな。
所詮、己を律することのできる人間は、少ないのかもしれんのう」

「誠に仰るとおりです」、結城中佐がいう。
「結城中佐、これからの日本に必要なものは何だと思う」、神尾司令官が尋ねる。
植民地から外国人を一掃、人々を解放することかと」、結城中佐が答える。
「これからの日本には、もっと必要なものがある」神尾司令官がいう。

「もっと必要なこととは何でしょうか」、結城中佐が答える。
「これからの日本を守り続けることができる組織だ。
何年、何十年、何百年まで先の日本を守り続けることができる組織。
たとえ、国の指導者が変ろうが、日本を守り続ける組織があれば、日本は安泰だ」

何もいえない結城中佐に神尾司令官が尋ねる。
「国への反逆なんぞは考えておらんので安心しろ。
結城中佐、日本を守り続ける組織に必要なことは何だと思う」
「恐れながら、私には思いつきません」、結城中佐が答える。

「誰にも、そのような組織は存在しないと思わせることだ。
組織を維持するためには金が必要だ、金の動きにより組織の存在は明らかになる。
だが、同じ志を持つ者が金を自分で工面すれば、組織の存在を知られることはない。
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちが集まれば、最強の組織になる」
言葉を発することができない結城中佐に、神尾司令官は続けた。

「結城中佐、貴様が同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない奴なのかは知らん。
もし、貴様がそうであるのなら、自分で行動を起こせ」
「司令官はどうされるおつもりなのでしょうか」、結城中佐が尋ねる。
神尾司令官は結城中佐に笑みを浮かべるといった。

「おいおい、今、話したのは冗談だよ、
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちがいる訳がない。
そんな、夢物語みたいな組織を作れる訳がなかろう。
冗談はこの位にして、接待を強要している軍人を調べ上げた方法を聞かせてもらおうか」

報告するための資料を鞄から取り出しながら、結城中佐は思った。
さっきの話は神尾司令官の本音だ、冗談を装いつつも、俺に組織を作れといっている。
軍の記録によると、神尾司令官は東京衛戍総督に就任しているはずだ。
目の前にいる神尾司令官は本物なのか、もし本物なら青島にいる目的は何なんだ。

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