2016年4月19日火曜日

銘柄を明かさない理由R60 戦友からの依頼

第60話 戦友からの依頼

ある証券会社の取締役を兼ねる営業責任者の男は、ある法人の応接コーナーにいた。
先ほどの受付の対応、洒落た応接コーナー、さすが、世界有数の法人だ。
我が社なんて足元にも及ばないな、男は思った。
やがて、ラフな格好をしたノンフレームメガネの男が現れた。

「お待たせ、久しぶりだな、立たなくていい」
立ち上がろうとする男を手で制し、ラフな男はイスに腰掛けた。
「すまない、急に押しかけてしまって」、男はいった。
「気を使わなくていい、同じ釜の飯を食った戦友だ」、ラフな男はいった。

取締役を兼ねる営業責任者の男とラフな男は、高校時代の同級生だった。
同じサッカー部に所属し、男はキーパー、ラフな男はフォワードだった。
「早速だが本題に入る、ある男たちの身辺調査を請け負ってもらえないか」、男はいった。
「身辺調査とは穏やかじゃない話だな、詳しい話を聞こうか」、ラフな男はいった。

男は、自分が取締役である会社が何者かから不正アクセスを受けていること。
どうやら業界関係者が関与しているらしいことを話した。
話を聞いたラフな男は、しばらく考えたあとにいった。
「単に不正アクセスを受けているだけで、被害はないのだろう」

「ああ、今は被害は出ていない」、男は答えた。
「なら難しいな、ウチは保険法人だ。
被害がなければ動くことはできない、それは会社の指示なのか」、ラフな男はいった。
「いや、個人的な依頼だ、調査費用は俺が自腹で払うつもりだ」、男はいった。

「おいおい、仮に請け負ったとして、調査費用にいくらかかるかわかっているのか。
そこいらの探偵事務所とは比べ物にならない金額だぞ」、ラフな男はいった。
「ああ、覚悟の上だ」、男はいった。
話を聞いたラフな男は、しばらく男を見た後にいった。

「いい目をしているな、現役時代と同じ目だ。
直接は力にはなれないが、その手の調査に秀でた男がいる委託先を紹介しよう。
その男は委託先の調査員だが、趣味は株式投資らしいから適任だろう。
後で、委託先の連絡先をメールで送るよ」、ラフな男はいった。

「ありがとう、恩に着るよ」、男はいった。
「ところで関与しているかもしれない業界関係者は外資系か」、ラフな男はいった。
「ああ、そうだが、何か」、男はいった。
「もし事実なら、ウチにとっても見過ごせないな、情報に感謝する」、ラフな男はいった。