2021年1月21日木曜日

銘柄を明かさない理由R399 挑戦状(中編)

第399話 挑戦状(中編)

「しゃ、しゃ、社長はいません」、山崎が目に涙を浮かべ、震える声でいった。
「そうか」、坊主頭で巨体の着物姿の男が、山崎に向かって、一歩踏み出した。
お、お願い、誰か助けて、山崎が思ったとき、玄関の外から聞きなれた社長の声がした。
「約束の時間より早いやろが、エロ坊主」

坊主頭で巨体の着物姿の男の後ろに、グレーのスーツ姿の淀屋勝利がいた。
淀三証券が出陣する前から、東京証券取引所には、坊主頭で巨体の着物姿の男がいた。
坊主頭で巨体の着物姿の男は、東北出身の本間大蔵(ほんまたいぞう)だった。
無類の女好きで、株取引で勝ち続けている大蔵は、淀三証券を敵視していた。

昨日、大蔵に話があるといわれた勝利は、淀三証券で会う約束をしていた。
「約束の時間まで10分以上ある、ウチの事務員に我慢できへんかったんか」
背後を振り返った大蔵に、勝利がいう。
大蔵の顔が、怒りでみるみる真っ赤になった。

「誰がエロ坊主や、お前みたいな関西の田舎者にいわれる筋合いはないわ」
真っ赤な顔になった大蔵が、勝利にいった。
「ほう、関西のワテが田舎者やったら、東北のエロ坊主はド田舎もんやな」
勝利が涼しい顔で、大蔵にいった。

「時間には早いけど、中で話を聞いたろか、エロ坊主の本間大蔵」
あまりの怒りで言葉が出ない大蔵に、勝利が続けていった。
「ふ、ふざけるな、ここまで愚弄されて、話し合いもないわ。
関西の田舎者への用件は、この書面の通りじゃ」

大蔵は懐から書面を取り出すと、勝利に投げつけた。
大蔵が投げた書面は、勝利には届かず、地面に落ちた。
「ちゃんと届かさんかい」、勝利は地面に落ちた書面を拾った。
書面を広げ、一読した勝利は、笑みを浮かべた。

「東北のエロ坊主から、淀三証券への挑戦状、しかと受け取った。
せいぜい、頑張るんやで、エロ坊主」、勝利が愛嬌のある笑顔でいった。
「きさま、覚えとけよ」、怒りで顔を真っ赤にした大蔵がいう。
「用が済んだら、とっとと帰れや、エロ坊主」、勝利が大蔵にいう。

「帰ったらあ、絶対に叩き潰したるからな」
大蔵は、勝利に捨て台詞を残すと、淀三証券を後にした。
「社長、ありがとうございます」、山崎が勝利に駆け寄り、背後から抱きついていった。
あ、あかん、頼むから離れてくれ、ワテもエロになってまうやろ、勝利は思った。

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