第406話 伝説の仕手戦(後編)
1953年(昭和28年)の大発会。
東京証券取引所の立会場では、熾烈な仕手戦が繰り広げられていた。
「三助、今の情勢はどうや」、勝利が、双眼鏡で黒板を見ている三助の横に来て聞く。
「売り方と買い方、五分五分です」、三助が双眼鏡から目を離さずいう。
「年明け早々、えらい相場やな」、汗を拭きながら勝利がいう。
「兜証券の社員はんたちが、頑張ってくれてます。
九代目、このままいけば、今日は勝てるかもしれまへん」、三助がいう。
「ほな、もう一踏ん張りしてくるわ」、勝利がポストへ駆け出した。
昨年から、東京証券取引所の立会場では、かってない規模の仕手戦が行われていた。
買い方は、淀三証券、犬神が率いる兜証券などだった。
売り方は、本間大蔵が率いる本間商会、大手証券会社の山井証券、栄証券などがいた。
3銘柄を対象とした大規模な仕手戦に、東京証券取引所は熱気に包まれていた。
1953年(昭和28年)1月28日。
売り買いの均衡が崩れ、売り方による怒涛の売りが始まった。
「なんや、この売りは」、勝利と三助は下落する株価を見ていた。
勝利と三助が見ている中、3銘柄の取引終値は大幅に下がった。
翌朝、東京証券取引所の立会場に、黒の眼帯をした犬神が現れた。
「"鬼神"が出てきた」、「旭日硝子みたいにやられるぞ」、売り方の間に不安が広がった。
「成り行きで全部買え」、犬神は自社の社員に激を飛ばした。
"鬼神"こと犬神が現れたことにより、3銘柄の株価は騰がり始めた。
「買って買って買いまくれ」、犬神は自社の社員に激を飛ばし続けた。
犬神に恐れをなした、山井証券と栄証券は、早々に手仕舞いすることを決めた。
「根性なしが」、本間大蔵は手仕舞いする山井証券と栄証券を見ていった。
犬神のくそがあ、本間大蔵が率いる本間商会は、売りを続けた。
「九代目、犬神はんの陣頭指揮でとんでもないことになってます」、三助がいう。
「さすが、犬神はんや、三助、淀三も全力で買いや」、勝利がいう。
「承知しました、淀三も全力で買い向かいます」
三助は両手を上げ、白井と板垣に買いの合図を送った。
"鬼神"こと犬神が率いる兜証券と淀三証券による、怒涛の買いが始まった。
株価急騰と出来高激増のため、東京証券取引所は、その日の立会時間を短縮した。
同年2月9日、過熱相場を危惧した東京証券取引所は、臨時立会の停止を決定した。
同年2月11日、臨時立会の停止により、3銘柄の株価は急落した。
0 件のコメント:
コメントを投稿