2021年1月10日日曜日

銘柄を明かさない理由R388 本間の荒行(後編)

第388話 本間の荒行(後編)

東北地方の山奥。
長年、使われていなかった荒れ果てた神社には、5人の男がいた。
「三山」、「三川」、「三空」、「三兵」、「三法」、「これ、酒田の五法なり」
夜が明けるまで、神社からは、男たちが同じ言葉を繰り返す声が聞こえた。

夜が明けると、男たちは庭で火を起こし、暖をとりながら、食事をした。
食事を終えた男たちは、神社を清掃すると、帰り支度を始めた。
神社を後にする男たちの顔には、髭が生えており、野性味にあふれていた。
一睡もしていないにも関わらず、目は爛爛(らんらん)と輝いていた。

険しい山道を下った男たちは、麓にある大きな門構えのある和風家屋へ向かった。
和風家屋の門は開いており、男たちは敷地内へ入った。
玄関の引き戸を引いて、中に入った男たちは、履物を脱ぐと、上がり込んだ。
続き間の和室を通り抜けた男たちは、三部屋目の和室で正座した。

男たちが正座すると、横笛の一種、神楽笛(かぐらぶえ)の優雅な音色が聴こえてきた。
正座する男たちの前にある襖が、音を立てることなく、左右に開かれた。
開かれた襖の奥には、豪華な朱色の椅子に坐った艶やかな和服姿の1人の女性がいた。
年は若く、化粧をしていても、整った顔立ちであることがわかる女性だった。

「よい面構え(つらがまえ)になったな」、男たちの顔を見た女性がいった。
いわれた男たちは正座のまま、微動だにしなかった。
「この度は、"本間の荒行(ほんまのあらぎょう)"、ご苦労であった」
女性がいうと、男たちは平伏した。

女性は、右手に持っていた朱色の扇子を軽く振って開いた。
扇子で口元を隠した女性は、目を細めるといった。
「さて、そなたらに頼みがある。
東の本間にとって、西の淀屋は、長きにわたる因縁の相手。

かって、先代たちは、東に出てきた淀屋を、いくども追い返してきた。
にも拘わらず、淀屋は性懲りもなく、東にしゃしゃり出てくる。
なぜ、なぜ、なぜ淀屋は西でおとなしくしておらんのじゃ」
女性の扇子を持つ手に力が入ったのか、音を立てて扇子が壊れた。

「宗久翁(そうきゅうおう)が編み出し秘伝、"酒田の五法(さかたのごほう)"。
"本間の荒行"で"酒田の五法"を体得した、そなたらに命ず。
淀屋初代本家のヨドヤコウヘイ、二代目本家のヨドヤタエを手痛い目に遭わせい」
「承知いたしました」、平伏した男たちが答えた。

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