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2020年11月7日土曜日

銘柄を明かさない理由R361 疾きこと風の如く(後編)

第361話 疾きこと風の如く(後編)

東京都中央区の日本橋のすぐ近くにある、日本一の株屋の本社。
早朝、取締役兼大阪支店長のムラノ キョウスケは、メールをチェックしていた。
ムラノは、創業者である野村徳七の血を継いでいる直系だった。
取締役とはいえ、ムラノは日本一の株屋の実質的な最高経営責任者だった。

メールチェックすると、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウのメールがあった。
相場師から証券会社を興したジツオウジは、証券界で伝説になりつつある。
ムラノは、ジツオウジと会ったことがある。
とんでもない威圧感を持っている巨躯の男で、ムラノは小僧呼ばわりされていた。

何のメールや、ムラノはおそるおそるメールを開いた。
メールを読み終わったムラノは、銀縁眼鏡の奥にある目を閉じた。
多くの企業が協賛する謎の舞台「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」。
ジツオウジは、なぜ、このことをメールしてきた。

ジツオウジが「Nine dragon eyes」に、何らかの違和感をもったことは間違いない。
証券界で伝説になりつつある男の違和感か。
しゃあない、確認するか、ムラノは目を開くと、机の上にある内線を取り上げた。
「午後一で、緊急の取締役会を開くようにせい」、ムラノは内線に出た秘書に告げた。

同日、日本一の株屋の本社から徒歩圏のある証券会社。
その会社は、会長である"無敗のキング"、ジツオウジ コウゾウが興した証券会社だった。
ジツオウジの会社は、自社の資産運用を"アルカディア"という部署で行っていた。
連戦連勝の"アルカディア"の責任者は、"無敗のクイーン"こと、クジョウ レイコだった。

その日の相場が始まると、クジョウのデスクの内線が鳴った。
クジョウへの内線は、社長室秘書から、社長室へ来るようにとの内線だった。
「社長室へ行ってくる」
クジョウは、"無敗の天然"こと、テンマ リナへ告げると、社長室へ向かった。

社長室秘書の案内で、クジョウは社長室に入った。
クジョウを見た社長の速水は、向かいのソファーに座るよういった。
クジョウがソファーに座ると、速水はテーブルの上にある書面を滑らせた。
「今朝、会長から届いたメールだ」、速水がいう。

クジョウは、メールを読み終えると、目を閉じた。
しばらくしてから、クジョウはおもむろに目を開くといった。
「情報ありがとうございますと、会長にお伝えください」
「頼んだぞ」、速水がいうと、クジョウは口元に笑みを浮かべ、社長室を後にした。

2020年10月22日木曜日

銘柄を明かさない理由R360 疾きこと風の如く(中編)

第360話 疾きこと風の如く(中編)

大阪難波のタワーマンションの一室。
早朝、自宅兼オフィスのリビングで、1人の男がPCで相場の確認をしていた。
相場の確認をしていたのは、淀屋の初代本家第13代目当主。
"浪花の相場師"こと、ヨドヤ コウヘイだった。

なんや、ニューヨークもたいした動きなかったんやな。
暴落してから、ぱっとせん相場やで、ほんまに困ったモンや。
そのとき、PCが新しいメールの着信を知らせた。
誰からのメールかと思えば、ジツオウジはんやんけ、久しぶりやな。

ヨドヤ コウヘイは、淀屋の初代本家第13代目として生まれた。
だが、ヨドヤ コウヘイが生まれた当時、二代目本家が淀屋一族の中で勢力を誇っていた。
二代目本家の"難波の女帝"こと、ヨドヤ タエが多大なる影響力をもっていた。
お家騒動ともいえる状況を打破すべく、1人の男がヨドヤ コウヘイの元に現れた。

現れたのは、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウだった。
大学生だったヨドヤに、ジツオウジは時には優しく、時には厳しく相場を教えた。
その後、ヨドヤは初代本家第13代目として、一族を掌握することになった。
ヨドヤが一族を掌握すると、ジツオウジとはメールでやりとりすることが多くなった。

ヨドヤは、ジツオウジからのメールを開くと読み始めた。
舞台のタイトルが"ないんどらごんあいず"やからって、どうしてん。
別に不思議でも何でもないやろうに、気にしすぎちゃうか。
けど、万が一ってこともあるさかいな、姐さんには教えとくか。

ヨドヤはスマホを手に取ると、ある番号に電話をかけた。
「朝っぱらから何の用や」、電話が繋がった瞬間、相手がいった。
「まあまあ姐さん、落ち着いてえな」、ヨドヤがいう。
「ウチはいつでも落ちついとるがな」、電話の相手、"難波の女帝"ことヨドヤ タエがいう。

「実は、"無敗のキング"って呼ばれとるジツオウジはんから、メールがきたんや。
ニューヨークで行われる舞台"ないんどらごんあいず"が、変らしいって」
「そのメールなら、ウチのとこにもきてるわ」、"難波の女帝"ことヨドヤ タエがいう。
「えっ、姐さんのとこにも、何で姐さんのとこにもきてんの」、ヨドヤが驚いて聞く。

「あんたにはいうてなかったかな、ウチとジツオウジは旧知の仲や。
ジツオウジは"最後の相場師"に指導を受けた同期で、腐れ縁の仲や。
あの男は好かんが、情報の精度は高い、今回の情報も無視できへんで」
"難波の女帝"こと、ヨドヤ タエは一方的にいうと、電話を終えた。

2020年10月21日水曜日

銘柄を明かさない理由R359 疾きこと風の如く(前編)

第359話 疾きこと風の如く(前編)

"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマはジツオウジにメールを送信した。
都内にある重厚な門構えの木造家屋の居間。
"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウは朝食を終え、経済新聞を読んでいた。
居間のドアをノックする音がした。

ジツオウジが「入れ」というと、ドアを開けて、男性秘書が入ってきた。
「おはようございます、朝早くから申し訳ありません」、男性秘書がいう。
「構わん、用件は何だ」、ジツオウジが聞く。
「先ほど、米国にいるアンザイ様から、このようなメールが届きました」

男性秘書はプリントアウトしたメールを、ジツオウジに手渡した。
ジツオウジは経済新聞を傍らに置くと、メールを読み始めた。
男性秘書は、直立不動のまま、ジツオウジが読み終わるのを待っていた。
「確かに妙だな」、読み終えたジツオウジがつぶやいた。

「いつものメンバーに、このことを伝えろ」、ジツオウジは男性秘書に命じた。
「会長である証券会社にも、お伝えした方がよろしいでしょうか」、男性秘書がいう。
「そうだな、アルカディアの連中にも伝えておいてくれ」、ジツオウジがいう。
「かしこまりました」、男性秘書は頭を下げると、居間から退室した。

同日の午後、都内のある大学の学生寮の一室。
"21世紀少年"こと、キミシマ ユウトは、午前の講義を受けて帰ってきた。
キミシマは大学生だが、無料の株式投資セミナーを主催する個人投資家でもあった。
午後は講義がないので、次回のセミナーの準備をするため、PCを起動させた。

受信トレイに、師である"無敗のキング"こと、ジツオウジからのメールが届いていた。
珍しいな、何だろう、キミシマはメールを開くと、読み始めた。
メールを読み進めるキミシマの、メガネの奥の眼が輝き始めた。
多くの企業が協賛する謎の舞台「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」か。

これは調べてみる価値がありそうだな。
キミシマは、自作の解析プログラム"ペーガサス(天馬)"を起動した。
起動すると、検索ワードに「Nine dragon eyes」と打ち込んだ。
検索条件を、関連する全ての情報を検索する「高度」に設定した。

「行け、ペーガサス」、キミシマはネット世界に"ペーガサス"を放った。
不意に、キミシマは、以前、同じような検索をしたことを思い出した。
確か・・・そのときに検索したワードは・・・「クーロンズ・アイ」。
「クーロンズ・アイ」は、九龍の眼・・・「Nine dragon eyes」じゃないか。

2020年10月19日月曜日

銘柄を明かさない理由R358 怪物たちの創造主(後編)

第358話 怪物たちの創造主(後編)

ニューヨークのマンハッタンにある高級アパートメントの一室。
"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマは、舞台俳優の傍ら、相場を張る相場師だった。
アンザイは、リビングのソファで新しい舞台の台本「Nine dragon eyes」を読み終えた。
「Nine dragon eyes」は、1960年代からのドイツを舞台にしていた。

1945年5月8日、第二次世界大戦でドイツは無条件降伏した。
同年7月、ベルリン郊外のポツダムで、戦勝国による会談が行われた。
このときのポツダム協定で、ドイツは戦勝国により分割占領されることになった。
首都ベルリンも戦勝国により、それぞれの管理地区に分割されることが決まった。

だが、戦勝国であるソ連と米英仏の対立は、深まっていった。
1948年6月24日、ソ連が、米英仏のベルリンの管理地区と西ドイツとの陸路を封鎖した。
ソ連の「ベルリン封鎖」に対し、米国は生活物資の空輸「ベルリン大空輸」で対抗した。
1949年5月12日、ソ連はベルリン封鎖を解除、「ベルリン封鎖」は失敗に終わった。

この対立で、ドイツは、ドイツ民主共和国とドイツ連邦共和国の東西ドイツに別れた。
冷戦時代に入ってから、東ベルリンから西ベルリンへの人口流出が後を絶たなかった。
危機感を抱いたソ連と東ドイツは、1961年8月13日午前0時に、西ベルリンを包囲した。
西ベルリンと東ドイツの境界線に、巨大な「ベルリンの壁」を建設した。

以後、東ベルリン市民の西ベルリンへの通行は不可能となった。
多くの人々が、家族や友人たちと、不意に引き裂かれることになった。
そして、「ベルリンの壁」を越えようとした人が、射殺されるなどの悲劇が生まれた。
「Nine dragon eyes」は、「ベルリンの壁」に翻弄された人々の物語だった。

「ベルリンの壁」を越えようとした人々と、それを支援した人々が主人公だった。
アンザイの役は、支援の中心的な役割を担った日系2世の米国軍人役だった。
アクションあり、ロマンスありの、万人受けしそうな話だと、アンザイは思った。
だが、「Nine dragon eyes」には、違和感があった。

なぜ、この物語が「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」なんだ。
確かに、登場人物の1人が「ナインドラゴンアイズのように!」と叫ぶ場面はある。
だが、「Nine dragon eyes」が出てくるのは、その場面だけだ。
通常なら、「ベルリンの壁」に関連したタイトルにすべきだ。

誰かが、何らかの目的で「Nine dragon eyes」のタイトルにしたとしか思えない。
「Nine dragon eyes」に、多くの企業が協賛していることも腑に落ちない。
アンザイは、テーブルにあるノートPCを引き寄せると、起動させた。
アンザイは、自分を怪物にしたジツオウジ コウゾウへ向けたメールを打ち始めた。

2020年10月14日水曜日

銘柄を明かさない理由R357 怪物たちの創造主(中編)

第357話 怪物たちの創造主(中編)

ニューヨークのマンハッタンにある高級アパートメントの一室。
"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマは、舞台俳優の傍ら、相場を張る相場師だった。
アンザイは、自分を相場師にした、ある男との出会いを思い返していた。
ある男とは、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウだった。

ある日の夜、アンザイは、下北沢の路地裏に横たわって、雨に打たれていた。
身体の節々が痛むし、ぶつかった相手に殴られたのか、片方の眼は塞がっていた。
地面に横たわって見上げる世界は、今まで見たことがない世界だと、アンザイは思った。
気づくと、傘を差し、コートを着た巨躯の男が、傍に立っていた。

「夢は何だ」、コート姿の巨躯の男が、アンザイを見下ろしながら聞く。
「日本一、いや、世界一の舞台俳優になりたい」、アンザイが答える。
「なぜ、世界一の舞台俳優になりたい」
コート姿の巨躯の男、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウが聞いた。

なぜ、世界一の舞台俳優になりたいかだと、アンザイは思った。
だが、すぐに理由が思い浮かばなかった。
若手たちから尊敬されたいからか、いや、違う。
なぜ、世界一の舞台俳優になりたいなんて、いったんだ。

黙っているアンザイに、ジツオウジがいった。
「世界一の舞台俳優になりたい理由は、金が欲しいからだ。
もし、金が欲しいのなら、ここに来い」
ジツオウジは手帳に走り書きすると、ページを破り、アンザイに渡した。

後日、アンザイは、渡されたメモの日時に、指定されたホテルの会場に行った。
そこには、様々な世代の20名ほどの男女がいた。
その中には、当時は中学生で、"21世紀少年"と呼ばれていたキミシマ ユウト。
銀座のクラブホステスで、"ウィッグの女"と呼ばれていたキサラギ ミレイなどがいた。

やがて、ジツオウジが姿を現すと、相場で勝ち続けるための講義が始まった。
その後、数ヶ月にわたって行われた講義は、経済から心理学まで多岐に及んだ。
講義が終わったとき、アンザイは相場で勝ち続ける知識を身につけていた。
おそらく、ジツオウジの講義を受けた全員が同じ知識を身につけた怪物になったはずだ。

ジツオウジからは、ときおり連絡が来ることがある。
他の者たちの消息は知らないが、おそらく、ジツオウジからの連絡は来ているだろう。
いかんな、雨の夜は、ジツオウジと出会った日のことを思い出してしまう。
アンザイは、新しい舞台の台本「Nine dragon eyes」を手に取ると、読み始めた。

2020年10月12日月曜日

銘柄を明かさない理由R356 怪物たちの創造主(前編)

第356話 怪物たちの創造主(前編)

ニューヨークのマンハッタンにある高級アパートメントの一室。
"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマはシャワーを終えた。
アンザイは、舞台で鍛えたスリムで筋肉質な身体に残った水滴を、バスタオルで拭った。
全裸の上に、高級なバスローブを羽織ると、アンザイはキッチンでカクテルを作った。

アンザイはカクテルを手に、マンハッタンの夜景を一望できるリビングのソファに座った。
カクテルを飲みながら、窓越しにマンハッタンの夜景を見ると、雨が降っていた。
街のネオンはぼやけて、色の塊にしか見えない。
アンザイは、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウと出会った日のことを思い出した。

アンザイの家は、父親は地方都市の会社員、母親は専業主婦、弟が1人の平凡な家庭だった。
何不自由なく育てられたアンザイは、都内の大学に入学、演劇サークルに入った。
演劇サークルに入った理由は、先輩たちに美男美女が多かったという単純なものだった。
だが、その演劇サークルで、アンザイは演劇の虜(とりこ)になった。

アンザイが、演技で怒りを露(あらわ)にしたり、悲しむと、観客が感情移入してくれた。
やがて、先輩たちは演劇以外の道を選択、演劇サークルを卒業していった。
同期生の就職先が次々と決まる中、就職先が決まっていないのは、アンザイだけだった。
俺は演劇で生きていく、卒業したアンザイは、親の反対を押し切り、小さな劇団に入った。

小さな劇団だったので、すぐに役を与えられたが、劇団での収入は少なかった。
バイトで生活費を稼ぐ日々だったが、好きな演劇ができるだけで、幸せだった。
気づくと、小さな劇団で古株になっており、団長以外は年下ばかりになっていた。
ある日のこと、アンザイは、下北沢の居酒屋で、劇団の若手数人と飲んでいた。

演劇論を語るアンザイに、若手の1人が「あんたの演劇論は古いんだよ」といって笑った。
頭にきたアンザイは、自分の飲み代をテーブルに叩きつけると、居酒屋を後にした。
誰かと肩がぶつかったところまでは覚えている。
気がつけば、路地裏に横たわって、雨に打たれていた。

身体の節々が痛むし、殴られたのか片方の眼は塞がっている。
たぶん、肩がぶつかった相手に殴られたのだろう。
地面に横たわって見上げる世界は、今まで見たことがない世界だと、アンザイは思った。
気づくと、傘を差し、コートを着た巨躯の男が、傍に立っていた。

「夢は何だ」、コート姿の巨躯の男が、アンザイを見下ろしながら聞く。
「日本一、いや、世界一の舞台俳優になりたい」、アンザイが答える。
「なぜ、世界一の舞台俳優になりたい」
コート姿の巨躯の男、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウが聞いた。

2020年10月4日日曜日

銘柄を明かさない理由R355 反撃の狼煙(後編)

第355話 反撃の狼煙(後編)

内海が"名のない組織"のWEBサイトに、"反撃の狼煙"について入力した数週間後。
スイスで最も美しい教会があるといわれる街。
街の外れには、スプリングベルが所有する豪邸があった。
豪邸には多くの執事がおり、彼らを取り仕切っているのが、秘書のアレックスだった。

アレックスは、ドイツのケルンで生まれ育った金髪で青い眼を持つアーリア人だった。
また、はるか昔から聖杯を守る「ケルンの騎士団」の一員でもあった。
アレックスが、スプリングベルの秘書になったのには理由があった。
「ケルンの騎士団」から、聖杯とスプリングベルを守るよう指示を受けていたからだった。

休日の夜、豪邸内にある自室で、アレックスはPCに向かっていた。
PCの受信トレイに、「ケルンの騎士団」からのメールが届いていた。
「ケルンの騎士団」は、聖杯を守るだけでなく、ドイツを守る活動も行っていた。
メールには、近日中に「ケルンの騎士団」が起こす、ある奇妙な行動が記されていた。

歴史ある「ケルンの騎士団」は、各国の組織とつながりを持っていた。
特に親しい関係にあるのは、第二次大戦の同盟国だった日本とイタリアの組織だった。
今回の行動の依頼主は、日本の組織である"名のない組織"らしかった。
この奇妙な行動の目的は何なんだろう、アレックスには目的がわからなかった。

同時刻、アメリカ合衆国ニューヨーク州を南北に走るブロードウェイ(Broadway)。
ブロードウェイのタイムズスクエア付近では、その周辺に劇場街が広がっている。
日本人舞台俳優でスリムな長髪の男は、その日の公演を終え、楽屋に戻ってきた。
男は、"仮面の相場師"こと、アンザイ カズマだった。

アンザイは"無敗のキング"ことジツオウジ コウゾウから、相場の英才教育を受けていた。
舞台俳優の収入よりも、相場での稼ぎの方が多い兼業相場師でもあった。
楽屋に戻ってきたアンザイを、マネージャーであるエリックが待っていた。
エリックは、アンザイをねぎらうと、次の作品のオファーがあったと伝えた。

エリックは、次の作品のアンザイの出演料が、過去最高額であること。
近日中に、大々的な宣伝活動が行われることを伝えた。
俺の出演料が過去最高ということは、エリックに入る金も過去最高なんだろ・・・。
嬉しそうに話すエリックを見て、アンザイは笑みを浮かべた。

「多くの企業が協賛してくれるらしい、新作らしいが成功間違いなしだ」
エリックは、次の台本をテーブルに置くと、笑いながら退室した。
多くの企業が協賛する新作って、どんな作品なんだ、アンザイは台本を手に取った。
手に取った台本のタイトルは「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」だった。

2020年10月3日土曜日

銘柄を明かさない理由R354 反撃の狼煙(中編)

第354話 反撃の狼煙(中編)

休日の夜、家族が寝静まった都内のマンション。
書斎部屋で、内海はPCに向かい、メールの受信トレイを確認していた。
"反撃の狼煙(のろし)"か、内海はわずかに笑みを浮かべた。
内海は、どのように劉宋明への"反撃の狼煙"をあげるべきか、思考をめぐらせた。

目には目を、歯には歯を・・・、アナログにはアナログ、だな。
内海は、受信トレイにある1通のダイレクトメールを開いた。
開いたメールは、あるファーストフード店からのダイレクトメールだった。
内容は、今だけ限定の新商品や、割引クーポンのお知らせなどだった。

一見すると、ファーストフード店からのメールに見える。
だが、メールの本文中に、内海が属する、ある組織を表す言葉があった。
組織の暗号表を使って読めば、メールから、あるWEBサイトのアドレスが解読できる。
内海は、机の引き出しから暗号表を取り出すと、複合暗号の解読に取り掛かった。

暗号の起源は古く、数千年の歴史を持つ。
戦時下においては軍事技術の一つとして発達してきた。
1900年代、エニグマ暗号機のような複雑な電気機械式の暗号が発明された。
ついで電子式機械による、より複雑な暗号機が導入された。

第二次世界大戦中、日本の外務省や海軍は、エニグマ暗号機を過信していた。
だが、コードブックの秘匿維持を怠ったため、連合国に早期に破られてしまった。
対して、陸軍は換字式暗号を併用した複合暗号を使用した。
これら複合暗号の完全な解読は終戦まで出来なかった。

ほどなく、内海は、あるWEBサイトのアドレスの解読を終えた。
内海は、WEBサイトのアドレスを打ち込むと、WEBサイトにアクセスした。
真っ白な画面の中央に、ログインIDとパスワードの入力欄があった。
内海は、ログインIDを入力すると、ENTERキーを押した

すぐに、内海のスマホにメールの着信があった。
内海が、スマホのメールを開くと、パスワードが届いていた。
内海はスマホに届いたパスワードを、WEBサイトのパスワード欄に打ち込んだ。
内海が、ENTERキーを押すと、WEBサイトの画面が切り替わった。

内海は、日本一の株屋のチーフトレーダーだが、財務省にも属している。
だが、内海には、あと一つ、属している組織があった。
組織は、年齢不詳の男"JOKER"も属している、日本を守り続けてきた"名のない組織"。
内海は"名のない組織"のWEBサイトに、"反撃の狼煙"についての入力を始めた。

2020年10月1日木曜日

銘柄を明かさない理由R353 反撃の狼煙(前編)

第353話 反撃の狼煙(前編)

休日の夜、家族が寝静まった都内のマンション。
書斎部屋で、1人の男がPCに向かい、メールの受信トレイを確認していた。
男の名は内海、日本一の株屋のチーフトレーダー。
だが、財務省にも属している日本証券界の守護者(ガーディアン)でもあった。

内海の受信トレイに、いくつかの新しいメールがあった。
新規メールの大半は、ダイレクトメールだったが、1通はダイレクトメールではなかった。
内海は、ダイレクトメールではないメールを開いた。
送信者は、"無敗のジャック"こと、ジョウシマ ユウイチだった。

先日、内海はジョウシマにあることを依頼しており、メールはその回答だった。
劉宋明(りゅうそうめい)が、何らかの方法を用いて、全市場を暴落させた。
方法がわからなかった内海は、ジョウシマに方法を調べるよう依頼していた。
メールには、劉宋明が暴落させた方法が書かれており、証拠の画像が添付されていた。

劉宋明は、自らのネットワークを用いて、各国の証券取引所にドラゴンの絵を描かせた。
描かせたドラゴンの絵は、"SELL(売れ)"という英単語で描かれていた。
カリスマトレーダーのニック・ライアンを含む各国のトレーダーは、その絵を見た。
絵を見たトレーダーたちは、無意識の内に売らされ、全市場が暴落した・・・。

内海は、ジョウシマのメールに添付されていた画像を確認した。
画像は、各国の証券取引所に黒で描かれていた9匹のドラゴンの絵だった。
9匹のドラゴンは、こちらを睨みつけており、迫力のある構図だった。
画像を拡大すると、たしかに絵は、"SELL"という英単語で描かれていた。

デジタルな情報化社会に、あえてアナログな手段を使った訳か、内海は思った。
米国にある証券取引を監督・監視する証券取引委員会(SEC)。
今回の暴落後、SECを含む各国機関は、暴落の原因を調査したが、いまだに掴めていない。
このようなアナログな手段では、どこの機関もわからないはずだ。

ジョウシマからのメールの最後には、あるお願いが書いてあった。
今回の真相を突き止めたのは、ジョウシマではないこと。
突き止めたのは、"無敗のクイーン"と呼ばれる女性で、彼女にお礼をしたいこと。
"反撃の狼煙(のろし)"があがったら、知らせて欲しいという内容だった。

"反撃の狼煙"か、内海はわずかに笑みを浮かべた。
内海は、どのように劉宋明への"反撃の狼煙"をあげるべきか、思考をめぐらせた。
目には目を、歯には歯を・・・、アナログにはアナログ、だな。
内海は、受信トレイにある1通のダイレクトメールを開いた。

2020年9月27日日曜日

銘柄を明かさない理由R352 Nine dragon eyes(後編)

第352話 Nine dragon eyes(後編)

休日の都内にあるマンションの一室。
"無敗のジャック"ことジョウシマ ユウイチは、河川敷から帰宅していた。
ジョウシマはPCを起動すると、あることを調べていた。
ニューヨーク証券取引所を暴落させた、9匹のドラゴンの絵、"Nine dragon eyes"。

ニューヨーク証券取引所暴落の日。
"Nine dragon eyes"は、東京証券取引所に描かれていた。
他の証券取引所にも描かれていたのか、ジョウシマは検索を開始した。
証券取引所は、株式や債券の売買取引を行う施設で、世界中にある。

ニューヨークにある世界最大の証券取引所である、ニューヨーク証券取引所。
ロンドンのセント・ポール大聖堂近くにある、ロンドン証券取引所。
アジアで東京証券取引所に続く第二の規模である、上海証券取引所。
香港で唯一の証券取引所である、香港証券取引所など。

最初にヒットしたのは、ニューヨーク証券取引所だった。
現地メディアが、暴落の朝、9匹のドラゴンの絵が描かれていたことを伝えていた。
絵を拡大して確認すると、東京証券取引所と同じく"SELL"で描かれていた。
現地メディアは、流行の覆面アーティストの作品かもしれない、としていた。

次にヒットしたのは、ロンドン証券取引所だった。
複数の男女が「ドラゴン発見」のタイトルで、ドラゴンの画像を投稿していた。
ドラゴンの画像は9匹で、拡大すると、ドラゴンは"SELL"で描かれていた。
上海証券取引所や香港証券取引所でも、9匹の"SELL"ドラゴンが描かれていた。

ジョウシマは、劉宋明(りゅうそうめい)の恐ろしさを、垣間見たような気がした。
劉宋明は、自らのネットワークを用いて、各国の証券取引所にドラゴンの絵を描かせた。
描かせたドラゴンの絵には、"SELL(売れ)"という"サブリミナル効果"があった。
カリスマトレーダーのニック・ライアンを含む各国のトレーダーは、その絵を見た。

絵を見たトレーダーたちは、無意識の内に売らされ、全市場が暴落した。
劉宋明は、暴落するタイミングにあわせて、空売りを仕掛けた。
劉宋明は底で買い戻すことで、巨額の利益を手にしたことになる。
ジョウシマは、財務省に属する内海へ報告するため、メールを起動させた。

同じ頃、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコは、ジョギングで帰宅中だった。
クジョウのスマホが、その日、20通を超えているテンマからのメール着信を知らせた。
またか、クジョウは立ち止まると、"無敗の天然"ことテンマ リナからのメールを開いた。
開いたメールには、暴落当日のテンマの夕食らしき料理画像が複数、添付されていた。

2020年9月26日土曜日

銘柄を明かさない理由R351 Nine dragon eyes(中編)

第351話 Nine dragon eyes(中編)

休日、都内の河川敷。
"無敗のジャック"ことジョウシマと、"無敗のクイーン"ことクジョウがいた。
「届いたぞ」、クジョウは寝転んだまま、ジョウシマにスマホを掲げてみせた。
ジョウシマは身を乗り出して、クジョウが掲げるスマホを覗き込んだ。

たしかに、東京証券取引所にドラゴンが黒で描かれていた。
ドラゴンの数は9匹、全てのドラゴンがこちらを睨みつけている。
睨みつけている眼は白抜きになっており、迫力のある絵だった。
「近い、離れろ」、真下からクジョウの声がした。

身を乗り出したジョウシマは、クジョウに覆いかぶさるような姿勢になっていた。
ジョウシマは、慌ててクジョウの身体の上から身をそらせるといった。
「すまない、あまりにも迫力ある画像だったので見入ってしまった」
クジョウも上半身を起こすと、スマホの画像を見つめた。

「なるほどな」、しばらく、ドラゴンの画像を見ていたクジョウがつぶやいた。
「どうした」、ジョウシマがクジョウにいう。
「このドラゴンの絵は、単語で描かれている」、クジョウがいう。
「どうやって、単語で絵を描くんだ」、ジョウシマがいう。

「このドラゴンの絵は、いくつもの線で描かれている。
だが、よく見ると、線は長さや太さを変えたりして、変形させた4文字の英単語だ」
クジョウは、ジョウシマにスマホを手渡した。
ジョウシマは、受け取ったスマホのドラゴン画像を注意深く見始めた。

「こ、これは・・・」、クジョウの指摘に気づいたジョウシマが驚きの声をあげた。
驚きの声をあげたジョウシマに、クジョウがいう。
「そうだ、ドラゴンの絵は、いくつもの"SELL"という単語で描かれている。
このドラゴンの絵には、"サブリミナル効果"がある。

"サブリミナル"は、"潜在意識の"という意味がある。
"サブリミナル効果"は、意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで現れる。
このドラゴンの絵を見た者は、自覚のないまま、"SELL"という刺激を与えられる。
"SELL"の意味は"売れ"、この絵を見た者が、無意識に"売り"をしても不思議ではない」

ジョウシマはクジョウにスマホを返すと、立ち上がりいった。
「RがNに売りを指示した方法を教えてくれて、ありがとう」
「これから、貴様はどうするつもりだ」、クジョウも立ち上がるとジョウシマにいう。
「他の証券取引所にも同じ絵が描かれていなかったか確認だよ」、ジョウシマがいった。

2020年9月25日金曜日

銘柄を明かさない理由R350 Nine dragon eyes(前編)

第350話 Nine dragon eyes(前編)

休日、都内の河川敷。
"無敗のジャック"ことジョウシマ ユウイチは、空を見上げたまま話を聞いていた。
話しているのは、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコ。
クジョウが話しているのは、ニューヨーク証券取引所の暴落が起きた日の出来事だった。

ジョウシマは、クジョウの話の中の、ある言葉が気になった。
暴落当日、東京証券取引所の壁に描かれていた9匹のドラゴン・・・。
たしか、劉宋明(りゅうそうめい)のネットワーク名は、"クーロンズ・アイ"。
クーロンズ・アイ(九龍の眼)・・・Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)。

ジョウシマは上半身を起こすと、クジョウにいった。
「暴落当日、東京証券取引所に、9匹のドラゴンが描かれていたのは本当か」
クジョウは寝転んだまま、ジョウシマを見るといった。
「自分は見ていないが、メンバーによると、9匹のドラゴンが描いてあったそうだ」

「メンバーにドラゴンの画像を送るよう頼んでくれないか」、ジョウシマがいう。
「わかった」、クジョウは寝転んだまま、スマホを取り出した。
ニューヨーク証券取引所の暴落が起きた日に撮った画像を送れ」
クジョウは、メンバーである"無敗の天然"ことテンマ リナに、メールを送信した。

「9匹のドラゴンの絵が、ニューヨーク証券取引所暴落の"デッドクロス"なのか」
寝転んだままのクジョウが、ジョウシマに聞く。
「わからないが、"デッドクロス"だったかもしれない」
ジョウシマが答えたとき、クジョウのスマホがメール着信を知らせた。

クジョウがスマホを見ると、テンマからのメールだった。
メールを開くと、複数の画像が添付されていた。
添付されていたのは、テンマの朝食らしい手の込んだ洋食を撮影した画像だった。
違う、これじゃない、クジョウが声に出しそうになったとき、次のメールが届いた。

次のメールにも、複数の画像が添付されていた。
添付されていたのは、街中にある新作ゲームの告知看板を撮影した画像だった。
通勤途中に撮影したらしく、ご丁寧に角度を変えて撮影した画像もあった。
これも違う、あの画像を送れ、とクジョウが思ったとき、次のメールが届いた。

次のメールにも、複数の画像が添付されていた。
最初の画像は、東京証券取引所を背景にしたテンマの自撮り画像だった。
それ以外の画像は、東京証券取引所に黒で描かれたドラゴンを撮影した画像だった。
「届いたぞ」、クジョウは寝転んだまま、ジョウシマにスマホを掲げてみせた。

2020年9月24日木曜日

銘柄を明かさない理由R349 クーロンズ・アイ(後編)

第349話 クーロンズ・アイ(後編)

休日、都内の河川敷、クジョウ レイコは、静かに目を開けると、話し始めた。
クジョウが話したのは、ニューヨーク証券取引所の暴落が起きた日の出来事だった。
クジョウは、東京都中央区日本橋兜町にある証券会社に勤務している。
職住近接こそが合理的という考えのクジョウは、中央区で1人暮らしをしている。

夜明け前に起床、区内をジョギングしてからの出社が、クジョウの日課だった。
その日も、クジョウは起床すると、トレーニングウェアに着替え、ジョギングを始めた。
ジョギングしていると、コンビニの前に1台の黒塗りの乗用車が停車していた。
やがて、コンビニから黒いコートを着てリュックを背負った男が、店員に連れ出された。

黒いコートを着た男が、黒塗りの乗用車に乗り込むと、乗用車は走り去った。
気になったクジョウは、車を見送る店員に近づいた。
「何かあったんですか」、クジョウが声をかけると、茶髪の若い男性店員が振り返った。
振り返った店員は、胸に「上杉」というネームプレートをつけていた。

クジョウを見た「上杉」という店員は、無表情な顔でいった。
「黒いコートを着た男は、東京証券取引所に落書きをしたそうです。
これから、警察に連れていかれて、取り調べを受けるんだと思います」
「上杉」という店員は、クジョウにいうと、コンビニの中へ戻っていった。

黒塗りの乗用車は、警察の車両だったのか。
クジョウはジョギングを続けたが、いくつかの違和感があった。
なぜ、黒いコートを着た男は、コンビニ店員に素直に従ったのか。
なぜ、黒いコートを着た男は、東京証券取引所に落書きしたのか・・・。

ジョギングを終えたクジョウは帰宅、身支度を終えると、いつも通り早朝出社した。
早朝出社したクジョウは、ニューヨーク証券取引所の暴落を確認した。
クジョウは、自社の資産運用部署である"アルカディア"の創設者であり責任者だった。
"アルカディア"メンバーは10名で、全員が女性社員だった。

平時の"アルカディア"は、クジョウと、"無敗の天然"ことテンマ リナの2名体制。
だが、必要に応じて、社長室秘書が他の9名に召集をかける体制だった。
暴落を確認したクジョウは、社長室秘書に"アルカディア"メンバーの招集を依頼した。
社長室秘書の招集に応じて、"アルカディア"メンバーが続々と集まってきた。

"アルカディア"メンバーがざわつく中、テンマ リナがメンバーの1人に話していた。
「出勤途中にある東京証券取引所の壁に、落書きがあったんですよ。
すっご~くリアルなドラゴンが描いてあったんですよ、しかも9匹も、ほら」
テンマはスマホの画像を、メンバーの1人に見せていた。

2020年9月23日水曜日

銘柄を明かさない理由R348 クーロンズ・アイ(中編)

第348話 クーロンズ・アイ(中編)

休日、都内の河川敷に寝転び、考えに耽っていたジョウシマは声をかけられた。
「昼寝かと思ったら、難しい顔して考え事か」
ジョウシマが目を開けると、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコが見下ろしていた。
クジョウは髪を後ろで束ね、トレーニングウェアを着たアスリートスタイルだった。

「悩みがあるなら、聞いてやってもいいぞ」
クジョウはいうと、ジョウシマの横に座り、同じように寝転んだ。
ジョウシマはクジョウに、ニューヨーク証券取引所の暴落について話した。
Rという男が、Nという男に売りを指示したようだが、指示した方法がわからないと。

クジョウは空を見上げたまま、黙って聞いていた。
ジョウシマが話し終わると、クジョウが空を見上げたまま、つぶやいた。
「テクニカルで売りのサインとされている"デッドクロス"。
"デッドクロス"は、中長期の移動平均線が短期の移動平均線を突き抜けた状態・・・」

ジョウシマが、空を見上げたままいう。
「ニューヨーク証券取引所が暴落したときの指標は確認済だ。
NYダウ、日経平均、上海総合指数など、いずれの指標も"デッドクロス"は現れていない。
むしろ、"デッドクロス"が現れていなかったので、あれだけの暴落になったともいえる」

クジョウが、空を見上げたまま続けた。
「Rという男が目的を達成するには、2つの課題があったはずだ。
1つは、Nという男に売りを指示すること、1つは、N以外には売りを指示しないこと。
つまり、Rは、Nにしかわからない"デッドクロス"、を使った・・・」

「Nにしかわからない"デッドクロス"って何だ」、ジョウシマが空を見上げたまま聞く。
クジョウは目を閉じると、沈黙した。
ジョウシマにはわからなかったが、クジョウは明晰な頭脳をフル回転させていた。
クジョウは、ニューヨーク証券取引所が暴落する以前からの出来事を思い返していた。

"AI"ベイビーのブラックフライデー(暗黒の金曜日)による世界恐慌の危機が起きた。
だが、全世界の勇気ある投資家が買い向かったことで、世界恐慌は回避された。
その後、世界経済に波はあったが、概ね順調に市場は推移していた。
ところが、Rの指示でNが売り、ニューヨーク証券取引所は暴落した・・・。

そのとき、クジョウはある出来事を思い出した。
当時は些細に思った出来事だったが、今、思うとあまりにもタイミングがよすぎる。
もし、あれが"デッドクロス"なら、確かに限られた者にしかわからない。
クジョウは、静かに目を開けると、話し始めた。

2020年9月22日火曜日

銘柄を明かさない理由R347 クーロンズ・アイ(前編)

本ブログには、自身が初めて書いた小説「銘柄を明かさない理由R」がある。
5人の無敗の相場師、ロイヤルストレートフラッシュの物語である。
もちろん、素人が書いた小説なので、プロの方が書いた小説の足元にも及ばない。

5人の無敗の相場師は、無敗の天然(10)こと、テンマ リナ。
無敗のジャック(J)こと、ジョウシマ ユウイチ。
無敗のクイーン(Q)こと、クジョウ レイコ。
無敗のキング(K)こと、ジツオウジ コウゾウ。
無敗のエース(A)こと、アマネ オトヤである。

「銘柄を明かさない理由R」は、将来、自費出版したいと考えている。
男友達には高値で販売して、女友達には無償で配布する予定だ。
もちろん、今まで拍手をいただいた読者の方にも、無償で配布したいと考えている。
それでは、「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw

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第347話 クーロンズ・アイ(前編)

休日の都内にあるマンションの一室。
"無敗のジャック"ことジョウシマ ユウイチは、あることを調べていた。
ニューヨーク証券取引所を暴落させたのは、ニック・ライアンの売り。
だが、ニック・ライアンは、売りを指示されただけらしい。

ニック・ライアンに売りを指示したのは、劉宋明(りゅうそうめい)。
いったい、劉は、どのようにして、ニックに売りを指示したのか。
ジョウシマは、劉宋明とニック・ライアンの接点を検索していた。
だめだ、2人には何も接点はない、ジョウシマは諦め、PCをシャットダウンした。

PCをシャットダウンしたジョウシマは、気分転換に出かけることにした。
晴れていたので、ジョウシマは近くの河川敷を散策することにした。
ジョウシマは、マンションのエントランスを通り、近くの河川敷に向かった。
河川敷には、ランニングやサイクリングをしている人がいた。

ジョウシマは河川敷に寝転ぶと、空を見ながら、考えに耽った。
ニック・ライアンは、"レッドブル(赤い雄牛)ファンド"を率いるカリスマトレーダー。
かたや、劉宋明は、東南アジアの金融施策に影響力を持つ男。
ニックはニューヨーク、劉は上海在住にも関わらず、劉はニックに売りを指示した。

内海さんは日本一の株屋のチーフトレーダーだが、日本の財務省にも属している。
米国には、証券取引を監督・監視する証券取引委員会(SEC)がある。
SECは政府機関なので、SECの情報は、日本の財務省も把握できるはずだ。
日本の財務省が掴めていないということは、SECも掴めていないということになる。

電話や電子メールなどであれば、SECは容易に証拠を入手できたはずだ。
SECが掴めていないということは、電話や電子メールなどではない。
第三者を介したとしても、SECならニックの行動記録から、第三者を特定したはずだ。
いったい、劉は、どのようにして、ニックに売りを指示したのか。

ジョウシマは目を閉じると、それぞれの要素について考え始めた。
ニック・ライアン・・・レッドブルファンド・・・ニューヨーク・・・。
劉宋明・・・東南アジア・・・上海・・・。
もし、自分が劉なら、どのようにしてニックに売りを指示するだろうか・・・。

どうすれば、証拠を残さず、的確に売り内容を指示できる・・・。
わからない・・・劉は、どのようにして、ニックに売りを指示したのか・・・。
「昼寝かと思ったら、難しい顔して考え事か」
ジョウシマが目を開けると、"無敗のクイーン"ことクジョウ レイコが見下ろしていた。