第361話 疾きこと風の如く(後編)
東京都中央区の日本橋のすぐ近くにある、日本一の株屋の本社。
早朝、取締役兼大阪支店長のムラノ キョウスケは、メールをチェックしていた。
ムラノは、創業者である野村徳七の血を継いでいる直系だった。
取締役とはいえ、ムラノは日本一の株屋の実質的な最高経営責任者だった。
メールチェックすると、"無敗のキング"こと、ジツオウジ コウゾウのメールがあった。
相場師から証券会社を興したジツオウジは、証券界で伝説になりつつある。
ムラノは、ジツオウジと会ったことがある。
とんでもない威圧感を持っている巨躯の男で、ムラノは小僧呼ばわりされていた。
何のメールや、ムラノはおそるおそるメールを開いた。
メールを読み終わったムラノは、銀縁眼鏡の奥にある目を閉じた。
多くの企業が協賛する謎の舞台「Nine dragon eyes(ナインドラゴンアイズ)」。
ジツオウジは、なぜ、このことをメールしてきた。
ジツオウジが「Nine dragon eyes」に、何らかの違和感をもったことは間違いない。
証券界で伝説になりつつある男の違和感か。
しゃあない、確認するか、ムラノは目を開くと、机の上にある内線を取り上げた。
「午後一で、緊急の取締役会を開くようにせい」、ムラノは内線に出た秘書に告げた。
同日、日本一の株屋の本社から徒歩圏のある証券会社。
その会社は、会長である"無敗のキング"、ジツオウジ コウゾウが興した証券会社だった。
ジツオウジの会社は、自社の資産運用を"アルカディア"という部署で行っていた。
連戦連勝の"アルカディア"の責任者は、"無敗のクイーン"こと、クジョウ レイコだった。
その日の相場が始まると、クジョウのデスクの内線が鳴った。
クジョウへの内線は、社長室秘書から、社長室へ来るようにとの内線だった。
「社長室へ行ってくる」
クジョウは、"無敗の天然"こと、テンマ リナへ告げると、社長室へ向かった。
社長室秘書の案内で、クジョウは社長室に入った。
クジョウを見た社長の速水は、向かいのソファーに座るよういった。
クジョウがソファーに座ると、速水はテーブルの上にある書面を滑らせた。
「今朝、会長から届いたメールだ」、速水がいう。
クジョウは、メールを読み終えると、目を閉じた。
しばらくしてから、クジョウはおもむろに目を開くといった。
「情報ありがとうございますと、会長にお伝えください」
「頼んだぞ」、速水がいうと、クジョウは口元に笑みを浮かべ、社長室を後にした。
0 件のコメント:
コメントを投稿