第270話 自己超越者(後編)
株の指標の1つにBPS(Book-value Per Share)、1株当たり純資産がある。
計算式は純資産÷発行済み株式数で、株の評価価値、株の定価ともいわれる指標である。
バリュー投資理論の考案者であるベンジャミン・グレアム。
彼は著書「賢明なる投資家」で、投資の中心的概念について次のように述べている。
「割安銘柄は本質的に、株価がその株式の評価価値よりも安い状態にあるわけで、その差がすなわち安全域である。安全域は、計算ミスや運の悪さを十分に吸収する効果がある」
(第20章 投資の中心的概念「安全域」)
また、彼は株式の評価価値の3割以下の株を買いなさいと述べている。
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
無敗のクイーンは、無敗のジャックの取引履歴を調べていた。
ま、まさか、無敗のクイーンは、いくつかのデータを確認すると、つぶやいた。
「なるほどな、見えたぞ、貴様の買いの手法」
無敗のクイーンが確認したのは、ジャックが買い増しした2銘柄の定価であるBPS。
あと、今回の買い増し前と買い増し後の平均取得単価だった。
ジャックが今回、買い増しした2銘柄は、いずれも過去に一度、タダ株にしている。
その後、買い増しをしているが、その平均取得単価は驚くほど低い。
ある銘柄は10,000株をタダ株にしていたため、10,000株の平均取得単価は0円。
同数の株を500円ほどで買い増ししているので、500万円÷20,000株=250円ほどだ。
今回の買い増し前の平均取得単価250円は、BPSの2割ほどだ。
今回の買い増しで、平均取得単価は上がったが、それでもBPSの3割に満たない。
バリュー投資理論の考案者であるベンジャミン・グレアム。
グレアムは株式の評価価値、すなわちBPSの3割の株を買えといっている。
だが、現在の相場で、大手優良企業の株価がBPSの3割以下になることはない。
奴は一度、タダ株にして買い増しすることで、平均取得単価をBPSの3割にしたのか。
もちろん、平均取得単価をBPSの3割にしても、まだ株価は下がるかもしれない。
だが、2銘柄の配当利回りは5%を超えている。
配当利回りが、さらに数%以上も上昇するほど、株価が下がるとは考えにくい。
万が一、株価が暴落しても、奴には無限ナンピンがある、無敗のクイーンは思った。
アメリカの心理学者アブラハム・マズロー。
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、自己超越の段階があると発表した。
彼は自己超越者の割合は、人口の2%ほどであるとしている。
全投資家の2%ほどは、無敗の個人投資家の割合とほぼ同じである。
株式投資で得た利益を元手に資産運用中の個人投資家。資産運用の状況や日々の生活を忘れないように記録している極めて私的なブログです。右下のカテゴリにオリジナル小説「神崎教授とAIの事件ファイル」、「銘柄を明かさない理由R」、「まとめ屋(暴走している株ブログに思うこと)」のリンクがあります。
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2019年8月26日月曜日
2019年8月25日日曜日
銘柄を明かさない理由R269 自己超越者(中編)
第269話 自己超越者(中編)
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
無敗のクイーンは、無敗のジャックの取引履歴を調べていた。
奴が取引口座を開設し、株式取引を始めたのは2005年。
最初の取引は、数百万円で数銘柄を購入する何の変哲もない分散投資。
その後、数回、銘柄入れ替えをしているが、いずれも少額の利益しかあげていない。
2008年9月、大手投資会社リーマン・ブラザーズが経営破綻した。
経営破綻により、リーマンショックと呼ばれる暴落相場が起きた。
相場が暴落する中、奴は保有する仕手株の買い増しを行なっている。
高値掴みした株が半値になる度、同数の株を買い続ける無限ナンピンだ。
驚くべきことに、奴は仕手株への無限ナンピンを3回行っている。
購入時の株価が半値になったので1回、さらに半値になったので2回。
3回目の無限ナンピンは、購入時の株価の8分の1で行ったことになる。
この時点での奴の仕手株の含み損は数百万円、評価損益率はマイナス50%。
普通なら、ここまで株価が下がる前に、誰もが損切りをするところだ。
だが奴はナンピンした、しかも3回目の無限ナンピンは同数ではなく倍の株数だ。
そのまま株価が下がれば奴は再起不能だったろう、だが、そこが大底だった。
大底を打ったあと、仕手株の株価は上昇し、奴はいち早く含み益になった。
だが、奴は利益を確定せず、その後も仕手株を保有し続けた。
2011年3月、東日本大震災によって相場は急落した。
奴は他の含み益の株を全数売りに出し、今回、買い増しした銘柄の1つを仕込んだ。
2013年12月、株の軽減税率が終了、税金が約10%から約20%に引き上げられた。
多くの投資家が軽減税率終了前に手仕舞いする中、奴だけが保有し続けた。
軽減税率が終了、多くの投資家が買い戻しに向かい、多くの株が年初来高値となった。
多くの株が年初来高値の中、奴は元本引上げの売りを行い、全株をタダ株にした。
数年後、奴は今回、買い増ししたもう1つの銘柄を仕込んだあと、タダ株にしている。
購入時期が異なる銘柄を、なぜ、奴は今回、同時に買い増ししたのか。
何か重要なことを見落としているのかもしれない。
無敗のクイーンは、再び、ジャックの取引履歴を読み返した。
リーマンショック、無限ナンピン、元本引上げの売り、タダ株・・・。
ふと、無敗のクイーンは、自分がジャックならどう動くかを考えてみた。
ま、まさか、無敗のクイーンは、いくつかのデータを確認すると、つぶやいた。
「なるほどな、見えたぞ、貴様の買いの手法」
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
無敗のクイーンは、無敗のジャックの取引履歴を調べていた。
奴が取引口座を開設し、株式取引を始めたのは2005年。
最初の取引は、数百万円で数銘柄を購入する何の変哲もない分散投資。
その後、数回、銘柄入れ替えをしているが、いずれも少額の利益しかあげていない。
2008年9月、大手投資会社リーマン・ブラザーズが経営破綻した。
経営破綻により、リーマンショックと呼ばれる暴落相場が起きた。
相場が暴落する中、奴は保有する仕手株の買い増しを行なっている。
高値掴みした株が半値になる度、同数の株を買い続ける無限ナンピンだ。
驚くべきことに、奴は仕手株への無限ナンピンを3回行っている。
購入時の株価が半値になったので1回、さらに半値になったので2回。
3回目の無限ナンピンは、購入時の株価の8分の1で行ったことになる。
この時点での奴の仕手株の含み損は数百万円、評価損益率はマイナス50%。
普通なら、ここまで株価が下がる前に、誰もが損切りをするところだ。
だが奴はナンピンした、しかも3回目の無限ナンピンは同数ではなく倍の株数だ。
そのまま株価が下がれば奴は再起不能だったろう、だが、そこが大底だった。
大底を打ったあと、仕手株の株価は上昇し、奴はいち早く含み益になった。
だが、奴は利益を確定せず、その後も仕手株を保有し続けた。
2011年3月、東日本大震災によって相場は急落した。
奴は他の含み益の株を全数売りに出し、今回、買い増しした銘柄の1つを仕込んだ。
2013年12月、株の軽減税率が終了、税金が約10%から約20%に引き上げられた。
多くの投資家が軽減税率終了前に手仕舞いする中、奴だけが保有し続けた。
軽減税率が終了、多くの投資家が買い戻しに向かい、多くの株が年初来高値となった。
多くの株が年初来高値の中、奴は元本引上げの売りを行い、全株をタダ株にした。
数年後、奴は今回、買い増ししたもう1つの銘柄を仕込んだあと、タダ株にしている。
購入時期が異なる銘柄を、なぜ、奴は今回、同時に買い増ししたのか。
何か重要なことを見落としているのかもしれない。
無敗のクイーンは、再び、ジャックの取引履歴を読み返した。
リーマンショック、無限ナンピン、元本引上げの売り、タダ株・・・。
ふと、無敗のクイーンは、自分がジャックならどう動くかを考えてみた。
ま、まさか、無敗のクイーンは、いくつかのデータを確認すると、つぶやいた。
「なるほどな、見えたぞ、貴様の買いの手法」
2019年8月24日土曜日
銘柄を明かさない理由R268 自己超越者(前編)
第268話 自己超越者(前編)
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが理論化した「自己実現理論」。
マズローは人間の欲求を5段階の階層で理論化した。
マズローが提唱した人間の基本的欲求を、高次の欲求から並べると以下になる。
自己実現の欲求、承認の欲求、社会的欲求 / 所属と愛の欲求、安全の欲求、生理的欲求。
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表した。
それは自己超越 (Self-transcendence) の段階である。
さらに、自己超越者 (Transcenders) の特徴は以下だとしている。
・「在ること」 (Being) の世界について、よく知っている
・「在ること」 (Being) のレベルにおいて生きている
・統合された意識を持つ
・落ち着いていて、瞑想的な認知をする
・深い洞察を得た経験が、今までにある
・他者の不幸に罪悪感を抱く
・創造的である
・謙虚である
・聡明である
・多視点的な思考ができる
・外見は普通である (Very normal on the outside)
マズローによると、このレベルに達している人は人口の2%ほどであり、子供でこの段階に達することは不可能だとしている。(wikipediaより)
元号が変って初めての夏。
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
「アルカディア」の責任者である、無敗のクイーンは考えていた。
東京証券取引所の取引は、少し前に終わっていた。
今朝、無敗のジャックが2銘柄への買い注文を入れた。
昨日のNYダウは、今年最大の下落幅だった。
東京証券取引所の取引開始前、NYダウの大幅下落により、売り注文が殺到していた。
ジャックの買い注文は、指値を下回る取引開始値で約定していた。
2銘柄の配当利回りは5%を超えている。
だが、配当狙いなら、他に高配当の株はいくらでもある。
にも関わらず、ジャックは保有している2銘柄を買い増ししている。
なぜ、ジャックは保有している2銘柄を買い増したんだ。
奴が編み出した投資手法、無限ナンピン。
無限ナンピンでは、株価が半値になる度に同数の株を買い続ける。
無限ナンピンのように、今回の買い増しには必ず何かしらの法則があるはずだ。
無敗のクイーンは、ジャックの取引履歴を調べることにした。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが理論化した「自己実現理論」。
マズローは人間の欲求を5段階の階層で理論化した。
マズローが提唱した人間の基本的欲求を、高次の欲求から並べると以下になる。
自己実現の欲求、承認の欲求、社会的欲求 / 所属と愛の欲求、安全の欲求、生理的欲求。
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表した。
それは自己超越 (Self-transcendence) の段階である。
さらに、自己超越者 (Transcenders) の特徴は以下だとしている。
・「在ること」 (Being) の世界について、よく知っている
・「在ること」 (Being) のレベルにおいて生きている
・統合された意識を持つ
・落ち着いていて、瞑想的な認知をする
・深い洞察を得た経験が、今までにある
・他者の不幸に罪悪感を抱く
・創造的である
・謙虚である
・聡明である
・多視点的な思考ができる
・外見は普通である (Very normal on the outside)
マズローによると、このレベルに達している人は人口の2%ほどであり、子供でこの段階に達することは不可能だとしている。(wikipediaより)
元号が変って初めての夏。
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
「アルカディア」の責任者である、無敗のクイーンは考えていた。
東京証券取引所の取引は、少し前に終わっていた。
今朝、無敗のジャックが2銘柄への買い注文を入れた。
昨日のNYダウは、今年最大の下落幅だった。
東京証券取引所の取引開始前、NYダウの大幅下落により、売り注文が殺到していた。
ジャックの買い注文は、指値を下回る取引開始値で約定していた。
2銘柄の配当利回りは5%を超えている。
だが、配当狙いなら、他に高配当の株はいくらでもある。
にも関わらず、ジャックは保有している2銘柄を買い増ししている。
なぜ、ジャックは保有している2銘柄を買い増したんだ。
奴が編み出した投資手法、無限ナンピン。
無限ナンピンでは、株価が半値になる度に同数の株を買い続ける。
無限ナンピンのように、今回の買い増しには必ず何かしらの法則があるはずだ。
無敗のクイーンは、ジャックの取引履歴を調べることにした。
2019年8月23日金曜日
銘柄を明かさない理由R267 買いの奥義(後編)
第267話 買いの奥義(後編)
都内のある証券会社には、自社の資産を運用する部署があった。
資産運用部署は理想郷を意味する「アルカディア」と呼ばれていた。
「アルカディア」の責任者は女性で、無敗のクイーンと呼ばれていた。
無敗のクイーンは、無敗の個人投資家たちの売買を参考に資産運用していた。
元号が変って初めての夏。
早朝のアルカディアで、無敗のクイーンはある男の買い注文を待っていた。
待っていたのは無敗の個人投資家の1人、無敗のジャックの買い注文だった。
無敗のクイーンは、無敗のジャックとの昨年末の会話を思い返した。
休日の河川敷、無敗のジャックは暇そうに寝そべっていた。
たわいもない会話の中で、奴がいった。
「今の相場は、3年前の相場にそっくりだよな」
それ以上、奴は何もいわなかったが、奴の考えていることはわかる。
奴は3年前と同じ相場で、最も効率よく儲けようとするはずだ。
3年前の相場は、2月、6月、8月に底を打った。
3年前の奴は、2月、6月、8月に的確に買い向かった。
この8月も、おそらく奴は買い向かうはずだ、だが、いつ何を買うのか。
そのとき、システムのアラートが無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、無敗のジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する2,000株を3,000株にする買い注文だった。
確か、この株は年初来安値で推移している。
いつも通りの割安株狙いか、芸のない奴だ、無敗のクイーンは笑みを浮かべた。
無敗のクイーンは、ジャックに追随すべく買い注文を入れようとした。
そのとき、システムのアラートが再び、無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、またしてもジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する別の株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する20,000株を30,000株にする買い注文だった。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れるのは初めてだ、無敗のクイーンは思った。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れたのには、何か理由があるはずだ。
無敗のクイーンは、3年前の2銘柄の株価データを調べて気づいた。
3年前の8月、2銘柄の配当利回りは5%を超えていた。
3年ぶりに、2銘柄そろって配当利回りが5%を超えた日が昨日だったことに。
都内のある証券会社には、自社の資産を運用する部署があった。
資産運用部署は理想郷を意味する「アルカディア」と呼ばれていた。
「アルカディア」の責任者は女性で、無敗のクイーンと呼ばれていた。
無敗のクイーンは、無敗の個人投資家たちの売買を参考に資産運用していた。
元号が変って初めての夏。
早朝のアルカディアで、無敗のクイーンはある男の買い注文を待っていた。
待っていたのは無敗の個人投資家の1人、無敗のジャックの買い注文だった。
無敗のクイーンは、無敗のジャックとの昨年末の会話を思い返した。
休日の河川敷、無敗のジャックは暇そうに寝そべっていた。
たわいもない会話の中で、奴がいった。
「今の相場は、3年前の相場にそっくりだよな」
それ以上、奴は何もいわなかったが、奴の考えていることはわかる。
奴は3年前と同じ相場で、最も効率よく儲けようとするはずだ。
3年前の相場は、2月、6月、8月に底を打った。
3年前の奴は、2月、6月、8月に的確に買い向かった。
この8月も、おそらく奴は買い向かうはずだ、だが、いつ何を買うのか。
そのとき、システムのアラートが無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、無敗のジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する2,000株を3,000株にする買い注文だった。
確か、この株は年初来安値で推移している。
いつも通りの割安株狙いか、芸のない奴だ、無敗のクイーンは笑みを浮かべた。
無敗のクイーンは、ジャックに追随すべく買い注文を入れようとした。
そのとき、システムのアラートが再び、無敗の個人投資家の買い注文を知らせた。
無敗のクイーンが確認すると、またしてもジャックの買い注文、Jアラートだった。
Jアラートは、ジャックが保有する別の株の買い増しだった。
現在、ジャックが保有する20,000株を30,000株にする買い注文だった。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れるのは初めてだ、無敗のクイーンは思った。
奴が同日に2銘柄の買い注文を入れたのには、何か理由があるはずだ。
無敗のクイーンは、3年前の2銘柄の株価データを調べて気づいた。
3年前の8月、2銘柄の配当利回りは5%を超えていた。
3年ぶりに、2銘柄そろって配当利回りが5%を超えた日が昨日だったことに。
2019年8月22日木曜日
銘柄を明かさない理由R266 買いの奥義(中編)
第266話 買いの奥義(中編)
福澤桃介という偉大なる相場師がいた。
彼こそは眉目秀麗にして大胆不敵、「黄金の化身」と称された天才相場師である。
1868年(明治元年)に貧農の家に生まれ、苦学の末、慶応義塾へ入学する。
若くして米国へ留学した彼は、帰国後、福澤諭吉の娘と結婚する。
1895年、肺結核の療養中に数冊の投資本と仲間の手ほどきを元に、株式投資を始める。
1906年、日露戦争後の国内株式市場に伝説となる大相場が始まる。
当時165円だった東京証券取引所株が800円近くまで値上り、世間は熱狂に包まれる。
翌1907年1月に相場は下落相場に転じ、東京証券取引所株は230円まで下落する。
彼はこの相場に買いで参戦、ピーク前に売り抜けた後、売りを仕掛けて巨万の富を得る。
その後、株式投資で得た資金を元手に実業界へ進出、「電力王」と呼ばれるまでになる。
晩年は慶応義塾在学中に知り合った日本人女優第1号とされる貞奴と静かに余生を送った。
彼の葬儀には妻、妹、貞奴の姿があったという。
彼は、株式投資において注意すべきこととして、以下の言葉を残している。
「第一は、預金利子を標準として売買し、理屈外に相場が上がって世の中が馬鹿騒ぎをしているときには決して手を出さないこと、第二に、株は会社が安全な物のみを選ぶこと、第三に、決して借金までして株を買わないことの三点である」
元号が変った年。
国内相場は、昨年から下がり続けていた。
下がり続ける相場の中、驚くべきことに1人の男は利益を出していた。
利益を出している男は無敗の個人投資家で、無敗のジャックと呼ばれていた。
下がり続ける相場の中、ジャックは10年来の安値水準にあった株を仕込んだ。
仕込んでから二割以上の益が出ると、ジャックは元本引上げ売りを行った。
タダ株を手に入れたジャックは思った。
3年前と同じ値動きの相場、仕込みの本番はこれからだ。
ある夏の日、ジャックが待っていたときがついに来た。
狙っていた2銘柄の配当利回りが、場中に5%を超えたのである。
翌日の早朝、起床したジャックはPCを起動、昨日のNYダウを確認した。
確認すると、昨日のNYダウは今年最大の下落幅を記録していた。
「いざ、参ろうか」ジャックは不敵な笑みを浮かべるとつぶやいた。
ジャックは狙っていた2銘柄へ過去最高額となる買い注文を入れた。
会社へ向かうべく、身支度を始めたジャックはつぶやいた。
「2銘柄への集中投資、これぞ、まさしく二刀流の買いの奥義なり」
福澤桃介という偉大なる相場師がいた。
彼こそは眉目秀麗にして大胆不敵、「黄金の化身」と称された天才相場師である。
1868年(明治元年)に貧農の家に生まれ、苦学の末、慶応義塾へ入学する。
若くして米国へ留学した彼は、帰国後、福澤諭吉の娘と結婚する。
1895年、肺結核の療養中に数冊の投資本と仲間の手ほどきを元に、株式投資を始める。
1906年、日露戦争後の国内株式市場に伝説となる大相場が始まる。
当時165円だった東京証券取引所株が800円近くまで値上り、世間は熱狂に包まれる。
翌1907年1月に相場は下落相場に転じ、東京証券取引所株は230円まで下落する。
彼はこの相場に買いで参戦、ピーク前に売り抜けた後、売りを仕掛けて巨万の富を得る。
その後、株式投資で得た資金を元手に実業界へ進出、「電力王」と呼ばれるまでになる。
晩年は慶応義塾在学中に知り合った日本人女優第1号とされる貞奴と静かに余生を送った。
彼の葬儀には妻、妹、貞奴の姿があったという。
彼は、株式投資において注意すべきこととして、以下の言葉を残している。
「第一は、預金利子を標準として売買し、理屈外に相場が上がって世の中が馬鹿騒ぎをしているときには決して手を出さないこと、第二に、株は会社が安全な物のみを選ぶこと、第三に、決して借金までして株を買わないことの三点である」
元号が変った年。
国内相場は、昨年から下がり続けていた。
下がり続ける相場の中、驚くべきことに1人の男は利益を出していた。
利益を出している男は無敗の個人投資家で、無敗のジャックと呼ばれていた。
下がり続ける相場の中、ジャックは10年来の安値水準にあった株を仕込んだ。
仕込んでから二割以上の益が出ると、ジャックは元本引上げ売りを行った。
タダ株を手に入れたジャックは思った。
3年前と同じ値動きの相場、仕込みの本番はこれからだ。
ある夏の日、ジャックが待っていたときがついに来た。
狙っていた2銘柄の配当利回りが、場中に5%を超えたのである。
翌日の早朝、起床したジャックはPCを起動、昨日のNYダウを確認した。
確認すると、昨日のNYダウは今年最大の下落幅を記録していた。
「いざ、参ろうか」ジャックは不敵な笑みを浮かべるとつぶやいた。
ジャックは狙っていた2銘柄へ過去最高額となる買い注文を入れた。
会社へ向かうべく、身支度を始めたジャックはつぶやいた。
「2銘柄への集中投資、これぞ、まさしく二刀流の買いの奥義なり」
2019年8月21日水曜日
銘柄を明かさない理由R265 買いの奥義(前編)
本ブログには、自身が初めて書いた小説「銘柄を明かさない理由R」がある。
5人の無敗の相場師、ロイヤルストレートフラッシュの物語である。
そして彼らを取り巻く人々の物語でもある。
もちろん、素人が書いた小説なので、プロの方が書いた小説の足元にも及ばないw
主要登場人物は、無敗の天然こと10(テン)、無敗の相場師J、無敗のクイーンことQ。
無敗の大物相場師キングことK、無敗の若き相場師エースことAである。
しばらく、連載が止まっていたが、仕込みを終えたので再開することにする。
今までの舞台は過去だったが、これからは現代が舞台になるw
「銘柄を明かさない理由R」はフィクションだ。
だが、自身は可能な限り、現在進行形の相場とリンクさせたいと考えている。
なぜなら、現在進行形の相場とリンクさせたほうが、書いていて楽しいからだ。
それでは、「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第265話 買いの奥義(前編)
元号が変る前の年。
年の瀬の休日、東京証券取引所の横にある兜神社に1人の男がいた。
スーツ姿にコートを羽織った男は、どこにでもいそうな会社員だった。
男は会社員だが無敗の個人投資家でもあり、無敗のジャックと呼ばれていた。
ジャックは右手で柄杓を取ると、水盤の水で左手を洗った。
左手を洗うと、柄杓を左手に持ち替え、右手を洗った。
右手を洗うと、柄杓を右手に持ちかえ、左手に水を受け、口をすすいだ。
静かにすすぎ終わると、水をもう一度左手に流した。
手水の作法を終えたジャックは神前に進んだ。
日の光を受けて輝く賽銭箱に、ジャックは賽銭を投じた。
ジャックは今年の相場での勝利にお礼を告げ、来年の相場での勝利を祈願した。
拝礼を終えたジャックは、兜神社を出ようとした。
ジャックが前を見ると、兜神社の入口に中折れ帽をかぶったスーツ姿の男がいた。
男は目深に中折れ帽をかぶっていたので、口元しか見えなかった。
中折れ帽の男は兜神社に入ると、ジャックの横を抜け、神前に向かった。
自分以外にも兜神社へ来る奴がいるとは、ジャックは思った。
そのとき、ジャックの背後から声がした。
「株はいくら下がっても配当の利息が生じ、その品質は下がらない。
つまり株は利息がつくから、いつまで持っていても損はない」
ジャックは振り返ろうとしたが、身体がいうことを聞かず、振り向けなかった。
神前にいる中折れ帽の男は続けていった。
「株の売買をする際には株の利子、配当を注視せよ。
下落相場では、あり得ない配当の株が往々にして出現する」
ジャックは声を出そうとしたが、声すらも発することができなかった。
身動きの取れないジャックに、神前にいる中折れ帽の男がいった。
「第一は、株は配当を注視して売買すること。
第二に、株は会社が安全な物のみを選ぶこと。
第三に、決して借金してまで株を買わないこと」
一息つくと、神前にいる中折れ帽の男がいった。
「これ、すなわち桃介流の買いの奥義なり」
桃介流だと、奴は「黄金の化身」と称された相場師、福澤桃介なのか。
身体が自由になったジャックが振り向いたとき、神前には誰もいなかった。
5人の無敗の相場師、ロイヤルストレートフラッシュの物語である。
そして彼らを取り巻く人々の物語でもある。
もちろん、素人が書いた小説なので、プロの方が書いた小説の足元にも及ばないw
主要登場人物は、無敗の天然こと10(テン)、無敗の相場師J、無敗のクイーンことQ。
無敗の大物相場師キングことK、無敗の若き相場師エースことAである。
しばらく、連載が止まっていたが、仕込みを終えたので再開することにする。
今までの舞台は過去だったが、これからは現代が舞台になるw
「銘柄を明かさない理由R」はフィクションだ。
だが、自身は可能な限り、現在進行形の相場とリンクさせたいと考えている。
なぜなら、現在進行形の相場とリンクさせたほうが、書いていて楽しいからだ。
それでは、「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第265話 買いの奥義(前編)
元号が変る前の年。
年の瀬の休日、東京証券取引所の横にある兜神社に1人の男がいた。
スーツ姿にコートを羽織った男は、どこにでもいそうな会社員だった。
男は会社員だが無敗の個人投資家でもあり、無敗のジャックと呼ばれていた。
ジャックは右手で柄杓を取ると、水盤の水で左手を洗った。
左手を洗うと、柄杓を左手に持ち替え、右手を洗った。
右手を洗うと、柄杓を右手に持ちかえ、左手に水を受け、口をすすいだ。
静かにすすぎ終わると、水をもう一度左手に流した。
手水の作法を終えたジャックは神前に進んだ。
日の光を受けて輝く賽銭箱に、ジャックは賽銭を投じた。
ジャックは今年の相場での勝利にお礼を告げ、来年の相場での勝利を祈願した。
拝礼を終えたジャックは、兜神社を出ようとした。
ジャックが前を見ると、兜神社の入口に中折れ帽をかぶったスーツ姿の男がいた。
男は目深に中折れ帽をかぶっていたので、口元しか見えなかった。
中折れ帽の男は兜神社に入ると、ジャックの横を抜け、神前に向かった。
自分以外にも兜神社へ来る奴がいるとは、ジャックは思った。
そのとき、ジャックの背後から声がした。
「株はいくら下がっても配当の利息が生じ、その品質は下がらない。
つまり株は利息がつくから、いつまで持っていても損はない」
ジャックは振り返ろうとしたが、身体がいうことを聞かず、振り向けなかった。
神前にいる中折れ帽の男は続けていった。
「株の売買をする際には株の利子、配当を注視せよ。
下落相場では、あり得ない配当の株が往々にして出現する」
ジャックは声を出そうとしたが、声すらも発することができなかった。
身動きの取れないジャックに、神前にいる中折れ帽の男がいった。
「第一は、株は配当を注視して売買すること。
第二に、株は会社が安全な物のみを選ぶこと。
第三に、決して借金してまで株を買わないこと」
一息つくと、神前にいる中折れ帽の男がいった。
「これ、すなわち桃介流の買いの奥義なり」
桃介流だと、奴は「黄金の化身」と称された相場師、福澤桃介なのか。
身体が自由になったジャックが振り向いたとき、神前には誰もいなかった。
2019年6月4日火曜日
銘柄を明かさない理由R264 或る組織の誕生(後編)
第264話 或る組織の誕生(後編)
神尾司令官と一緒に御用商人の張(チャン)と面談した数ヵ月後。
結城中佐を青島守備軍司令部から、日本の軍事教練学校へ転属させる人事が発令された。
着任初日のこと、結城中佐は軍事教練学校の応接室で、新しい上官を待っていた。
しばらくすると、静かに応接室のドアが開き、1人の男が入ってきた。
入ってきた男を見た瞬間、結城中佐は驚きのあまり、目を見張った。
入ってきた男は、青島守備軍司令部の神尾司令官だった。
「か、神尾司令官、なぜ、ここに」、結城中佐が立ち上がりながらいう。
入ってきた男は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「青島守備軍司令部にいる神尾の双子の兄、予備役の神尾だ」
結城中佐に「楽にしろ」といいながら、神尾は向かいのソファに腰掛けた。
結城中佐がソファに座ると、神尾はいった。
「弟から君の評判は聞いている。情報収集に秀でた極めて優秀な男だとね」
「恐れ入ります」、結城中佐がいう。
「弟から聞いていると思うが、日本を守り続けることができる組織が必要だ。
貴様には、我々と同じように組織を作ることができる素質がある。
貴様は、我々と同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者だ。
結城中佐、日本を守り続けることができる組織を作れ。
だが、決して、その組織の存在を知られるな」、神尾がいう。
「ですが、すでに組織は作られているんですよね。
ならば、新たに私が組織を作る必要はないのではありませんか」、結城中佐がいう。
予備役の神尾は、不思議そうな顔をしていった。
「どこのどいつが、すでに組織は作られているといったんだ」
はっ、と気づいた結城中佐はいった。
「失礼しました、私の思い違いでした」
第二次世界大戦前、日本に或る組織が誕生した。
その組織は、日本を守り続けることを目的とし、誕生した組織だった。
当時、欧米列強による東南アジアの植民地化が進んでいた。
このままでは、日本は欧米列強に包囲され、やがて植民地となる。
組織の出した結論は、植民地となっている東南アジア各国の独立だった。
最終的に日本は敗れる、だが欧米列強の包囲網を崩すことはできる。
組織は日本のために、欧米列強に自由の戦いを挑んだ。
戦いを挑んだ結果、日本は敗れたが、独立国として存続することに成功したのである。
神尾司令官と一緒に御用商人の張(チャン)と面談した数ヵ月後。
結城中佐を青島守備軍司令部から、日本の軍事教練学校へ転属させる人事が発令された。
着任初日のこと、結城中佐は軍事教練学校の応接室で、新しい上官を待っていた。
しばらくすると、静かに応接室のドアが開き、1人の男が入ってきた。
入ってきた男を見た瞬間、結城中佐は驚きのあまり、目を見張った。
入ってきた男は、青島守備軍司令部の神尾司令官だった。
「か、神尾司令官、なぜ、ここに」、結城中佐が立ち上がりながらいう。
入ってきた男は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「青島守備軍司令部にいる神尾の双子の兄、予備役の神尾だ」
結城中佐に「楽にしろ」といいながら、神尾は向かいのソファに腰掛けた。
結城中佐がソファに座ると、神尾はいった。
「弟から君の評判は聞いている。情報収集に秀でた極めて優秀な男だとね」
「恐れ入ります」、結城中佐がいう。
「弟から聞いていると思うが、日本を守り続けることができる組織が必要だ。
貴様には、我々と同じように組織を作ることができる素質がある。
貴様は、我々と同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者だ。
結城中佐、日本を守り続けることができる組織を作れ。
だが、決して、その組織の存在を知られるな」、神尾がいう。
「ですが、すでに組織は作られているんですよね。
ならば、新たに私が組織を作る必要はないのではありませんか」、結城中佐がいう。
予備役の神尾は、不思議そうな顔をしていった。
「どこのどいつが、すでに組織は作られているといったんだ」
はっ、と気づいた結城中佐はいった。
「失礼しました、私の思い違いでした」
第二次世界大戦前、日本に或る組織が誕生した。
その組織は、日本を守り続けることを目的とし、誕生した組織だった。
当時、欧米列強による東南アジアの植民地化が進んでいた。
このままでは、日本は欧米列強に包囲され、やがて植民地となる。
組織の出した結論は、植民地となっている東南アジア各国の独立だった。
最終的に日本は敗れる、だが欧米列強の包囲網を崩すことはできる。
組織は日本のために、欧米列強に自由の戦いを挑んだ。
戦いを挑んだ結果、日本は敗れたが、独立国として存続することに成功したのである。
銘柄を明かさない理由R263 或る組織の誕生(中編)
第263話 或る組織の誕生(中編)
1918年(大正7年)、ドイツ人高級将校の邸宅を使用した青島守備軍司令部。
御用商人の張が帰った後の応接室で、神尾司令官が部下の結城中佐にいう。
「日本最強の師団、第十八師団でも、遊興に耽る軍人がいるとはな。
所詮、己を律することのできる人間は、少ないのかもしれんのう」
「誠に仰るとおりです」、結城中佐がいう。
「結城中佐、これからの日本に必要なものは何だと思う」、神尾司令官が尋ねる。
「植民地から外国人を一掃、人々を解放することかと」、結城中佐が答える。
「これからの日本には、もっと必要なものがある」、神尾司令官がいう。
「もっと必要なこととは何でしょうか」、結城中佐が答える。
「これからの日本を守り続けることができる組織だ。
何年、何十年、何百年まで先の日本を守り続けることができる組織。
たとえ、国の指導者が変ろうが、日本を守り続ける組織があれば、日本は安泰だ」
何もいえない結城中佐に神尾司令官が尋ねる。
「国への反逆なんぞは考えておらんので安心しろ。
結城中佐、日本を守り続ける組織に必要なことは何だと思う」
「恐れながら、私には思いつきません」、結城中佐が答える。
「誰にも、そのような組織は存在しないと思わせることだ。
組織を維持するためには金が必要だ、金の動きにより組織の存在は明らかになる。
だが、同じ志を持つ者が金を自分で工面すれば、組織の存在を知られることはない。
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちが集まれば、最強の組織になる」
言葉を発することができない結城中佐に、神尾司令官は続けた。
「結城中佐、貴様が同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない奴なのかは知らん。
もし、貴様がそうであるのなら、自分で行動を起こせ」
「司令官はどうされるおつもりなのでしょうか」、結城中佐が尋ねる。
神尾司令官は結城中佐に笑みを浮かべるといった。
「おいおい、今、話したのは冗談だよ、
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちがいる訳がない。
そんな、夢物語みたいな組織を作れる訳がなかろう。
冗談はこの位にして、接待を強要している軍人を調べ上げた方法を聞かせてもらおうか」
報告するための資料を鞄から取り出しながら、結城中佐は思った。
さっきの話は神尾司令官の本音だ、冗談を装いつつも、俺に組織を作れといっている。
軍の記録によると、神尾司令官は東京衛戍総督に就任しているはずだ。
目の前にいる神尾司令官は本物なのか、もし本物なら青島にいる目的は何なんだ。
1918年(大正7年)、ドイツ人高級将校の邸宅を使用した青島守備軍司令部。
御用商人の張が帰った後の応接室で、神尾司令官が部下の結城中佐にいう。
「日本最強の師団、第十八師団でも、遊興に耽る軍人がいるとはな。
所詮、己を律することのできる人間は、少ないのかもしれんのう」
「誠に仰るとおりです」、結城中佐がいう。
「結城中佐、これからの日本に必要なものは何だと思う」、神尾司令官が尋ねる。
「植民地から外国人を一掃、人々を解放することかと」、結城中佐が答える。
「これからの日本には、もっと必要なものがある」、神尾司令官がいう。
「もっと必要なこととは何でしょうか」、結城中佐が答える。
「これからの日本を守り続けることができる組織だ。
何年、何十年、何百年まで先の日本を守り続けることができる組織。
たとえ、国の指導者が変ろうが、日本を守り続ける組織があれば、日本は安泰だ」
何もいえない結城中佐に神尾司令官が尋ねる。
「国への反逆なんぞは考えておらんので安心しろ。
結城中佐、日本を守り続ける組織に必要なことは何だと思う」
「恐れながら、私には思いつきません」、結城中佐が答える。
「誰にも、そのような組織は存在しないと思わせることだ。
組織を維持するためには金が必要だ、金の動きにより組織の存在は明らかになる。
だが、同じ志を持つ者が金を自分で工面すれば、組織の存在を知られることはない。
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちが集まれば、最強の組織になる」
言葉を発することができない結城中佐に、神尾司令官は続けた。
「結城中佐、貴様が同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない奴なのかは知らん。
もし、貴様がそうであるのなら、自分で行動を起こせ」
「司令官はどうされるおつもりなのでしょうか」、結城中佐が尋ねる。
神尾司令官は結城中佐に笑みを浮かべるといった。
「おいおい、今、話したのは冗談だよ、
同じ志を持ち、自己犠牲をも省みない者たちがいる訳がない。
そんな、夢物語みたいな組織を作れる訳がなかろう。
冗談はこの位にして、接待を強要している軍人を調べ上げた方法を聞かせてもらおうか」
報告するための資料を鞄から取り出しながら、結城中佐は思った。
さっきの話は神尾司令官の本音だ、冗談を装いつつも、俺に組織を作れといっている。
軍の記録によると、神尾司令官は東京衛戍総督に就任しているはずだ。
目の前にいる神尾司令官は本物なのか、もし本物なら青島にいる目的は何なんだ。
2019年6月3日月曜日
銘柄を明かさない理由R262 或る組織の誕生(前編)
自身のオリジナル小説である「銘柄を明かさない理由R」。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
自身が愛読している小説に、柳広司氏の「ジョーカー・ゲーム」シリーズがある。
短編ミステリー・スパイ小説で、日本の諜報組織が主役だ。
本稿を含む3稿は、愛読する「ジョーカー・ゲーム」シリーズに捧げたい。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第262話 或る組織の誕生(前編)
神尾司令官は、信濃国諏訪郡岡谷村に諏訪藩士・神尾平三郎の次男として生まれた。
1874年(明治7年)10月、陸軍教導団に入隊。
1876年(明治9年)2月、教導団を卒業し陸軍歩兵軍曹に任官。
1877年(明治10年)1月から西南戦争に従軍し、7月曹長、10月少尉試補に進級する。
1879年(明治12年)2月1日、西南戦争の戦功により陸軍少尉に昇進。
1882年(明治15年)4月には陸軍中尉を命ぜられる。
同年7月から参謀本部出仕の身分で清国に渡る。
1885年(明治18年)8月、陸軍大尉に進級し、翌年2月に帰国する。
同年4月、歩兵第11連隊中隊長を拝命。
1888年(明治21年)5月、参謀本部出仕に移り、翌12月から参謀本部第2局員となる。
1891年(明治24年)12月、陸軍少佐に昇進し、歩兵第1連隊付となる。
1892年(明治25年)4月28日から後の駐在武官にあたる清国公使館付を拝命する。
1894年(明治27年)に帰国するも、第2軍情報主任参謀として日清戦争に出征する。
1895年(明治28年)1月、陸軍中佐に進級し、同年6月2日から再び清国公使館付となる。
1897年(明治30年)10月11日、陸軍大佐進級と共に近衛歩兵第3連隊長を命ぜられる。
1899年(明治32年)2月には参謀本部出仕の身分でヨーロッパに出張する。
1900年(明治33年)4月、第1師団参謀長に就任。
同年7月の参謀本部付を経て、1901年(明治34年)2月、第10師団参謀長を命ぜられる。
1902年(明治35年)5月、陸軍少将に進級し歩兵第22旅団長を命ぜられる。
1904年(明治37年)8月、遼東守備軍参謀長に就任する。
1905年(明治38年)6月から大本営附を命ぜられ、清国駐屯軍司令官を拝命する。
1906年(明治39年)11月、関東都督府参謀長に移る。
1907年(明治40年)11月、近衛歩兵第1旅団長に就任。
1908年(明治41年)12月、陸軍中将に進級、第9師団長に親補される。
1912年(大正元年)12月、第18師団長に就任。
1914年(大正3年)に青島攻略を指揮し攻略する。
同年11月から青島守備軍司令官となる。
1915年(大正4年)5月、東京衛戍総督に就任。(Wikipediaより)
歴史では、1915年5月、神尾司令官は東京衛戍総督に就任したことになっている。
本当に、青島守備軍司令官となってから、半年あまりで帰国したのだろうか。
戦果を上げていないならわかるが、神尾司令官は青島を攻略し戦果を上げている。
神尾司令官の東京衛戍総督就任は、作られた歴史かもしれない。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
自身が愛読している小説に、柳広司氏の「ジョーカー・ゲーム」シリーズがある。
短編ミステリー・スパイ小説で、日本の諜報組織が主役だ。
本稿を含む3稿は、愛読する「ジョーカー・ゲーム」シリーズに捧げたい。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第262話 或る組織の誕生(前編)
神尾司令官は、信濃国諏訪郡岡谷村に諏訪藩士・神尾平三郎の次男として生まれた。
1874年(明治7年)10月、陸軍教導団に入隊。
1876年(明治9年)2月、教導団を卒業し陸軍歩兵軍曹に任官。
1877年(明治10年)1月から西南戦争に従軍し、7月曹長、10月少尉試補に進級する。
1879年(明治12年)2月1日、西南戦争の戦功により陸軍少尉に昇進。
1882年(明治15年)4月には陸軍中尉を命ぜられる。
同年7月から参謀本部出仕の身分で清国に渡る。
1885年(明治18年)8月、陸軍大尉に進級し、翌年2月に帰国する。
同年4月、歩兵第11連隊中隊長を拝命。
1888年(明治21年)5月、参謀本部出仕に移り、翌12月から参謀本部第2局員となる。
1891年(明治24年)12月、陸軍少佐に昇進し、歩兵第1連隊付となる。
1892年(明治25年)4月28日から後の駐在武官にあたる清国公使館付を拝命する。
1894年(明治27年)に帰国するも、第2軍情報主任参謀として日清戦争に出征する。
1895年(明治28年)1月、陸軍中佐に進級し、同年6月2日から再び清国公使館付となる。
1897年(明治30年)10月11日、陸軍大佐進級と共に近衛歩兵第3連隊長を命ぜられる。
1899年(明治32年)2月には参謀本部出仕の身分でヨーロッパに出張する。
1900年(明治33年)4月、第1師団参謀長に就任。
同年7月の参謀本部付を経て、1901年(明治34年)2月、第10師団参謀長を命ぜられる。
1902年(明治35年)5月、陸軍少将に進級し歩兵第22旅団長を命ぜられる。
1904年(明治37年)8月、遼東守備軍参謀長に就任する。
1905年(明治38年)6月から大本営附を命ぜられ、清国駐屯軍司令官を拝命する。
1906年(明治39年)11月、関東都督府参謀長に移る。
1907年(明治40年)11月、近衛歩兵第1旅団長に就任。
1908年(明治41年)12月、陸軍中将に進級、第9師団長に親補される。
1912年(大正元年)12月、第18師団長に就任。
1914年(大正3年)に青島攻略を指揮し攻略する。
同年11月から青島守備軍司令官となる。
1915年(大正4年)5月、東京衛戍総督に就任。(Wikipediaより)
歴史では、1915年5月、神尾司令官は東京衛戍総督に就任したことになっている。
本当に、青島守備軍司令官となってから、半年あまりで帰国したのだろうか。
戦果を上げていないならわかるが、神尾司令官は青島を攻略し戦果を上げている。
神尾司令官の東京衛戍総督就任は、作られた歴史かもしれない。
2019年5月30日木曜日
銘柄を明かさない理由R261 青島の戦い(後編)
第261話 青島の戦い(後編)
「楽にしてくれ」、神尾司令官は張(チャン)にソファに座るよう促した。
張がソファに座ると、神尾司令官が話し始めた。
「平素は、我が軍のため、物資を調達してくれて、助かっておる。
今日、来てもらったのは他でもない。
近頃、我が軍によくない噂があり、事実なのか確認するために来てもらった。
我が軍の一部の将校が、君たち御用商人に接待を強要しているという噂だ。
接待を強要する軍人などいないと信じているのだが、あまりにも噂が多くてね」
神尾司令官は、困ったような顔をしながら続けた。
「第十八師団は、皇室の紋章『菊』を与えられている日本最強の師団だ。
日本最強の師団に、御用商人に接待を強要する軍人など、いないはずだ」
神尾司令官は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
背後に立っていた部下らしき男が持っていた紙を、テーブルの上に置いた。
紙には、張に接待を強要する軍人全員の名前が書かれていた。
「この紙に、接待を強要している噂がある軍人の名前が書いてある。
もし、君に接待を強要していない軍人の名前があれば、教えてもらえるかな」
張にたずねる神尾司令官の顔からは、すっかり笑みが消えていた。
張は背筋に寒気を感じ、何もいうことができなかった。
何もいえない張に、神尾司令官は笑みを浮かべていった。
「どうやら何も知らないようだな、わざわざ呼んですまなかった」
張は帰ることを許された。
張が帰った後の応接室で、神尾司令官が部下の男に命じた。
「結城中佐、噂がある奴ら全員、内地(日本)へ送り返せ。
理由を聞かれたら、戦争中であるにも関わらず、遊興に耽る恥さらしだと伝えろ」
「かしこまりました」、部下の結城中佐が答える。
「あと、あの張とかいう男への物資の発注は続けろ」、神尾司令官がいう。
「張に発注を続けるのは、いかなる理由からでしょうか」、結城中佐が尋ねる。
「張に発注を続ける目的がわからんのか。
張に発注を続ければ、張が我が軍が規律のある軍であることを広めてくれる。
青島を陥落させても、青島の人々から信頼を得なくては勝ったとはいえない。
そういう意味で、我が軍にとって、青島の戦いはまだ終わってはいない。
植民地から外国人を一掃し、諸外国の支配から人々を解放すること。
これこそが我ら日本軍の大義に他ならない」、神尾司令官がいった。
「楽にしてくれ」、神尾司令官は張(チャン)にソファに座るよう促した。
張がソファに座ると、神尾司令官が話し始めた。
「平素は、我が軍のため、物資を調達してくれて、助かっておる。
今日、来てもらったのは他でもない。
近頃、我が軍によくない噂があり、事実なのか確認するために来てもらった。
我が軍の一部の将校が、君たち御用商人に接待を強要しているという噂だ。
接待を強要する軍人などいないと信じているのだが、あまりにも噂が多くてね」
神尾司令官は、困ったような顔をしながら続けた。
「第十八師団は、皇室の紋章『菊』を与えられている日本最強の師団だ。
日本最強の師団に、御用商人に接待を強要する軍人など、いないはずだ」
神尾司令官は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
背後に立っていた部下らしき男が持っていた紙を、テーブルの上に置いた。
紙には、張に接待を強要する軍人全員の名前が書かれていた。
「この紙に、接待を強要している噂がある軍人の名前が書いてある。
もし、君に接待を強要していない軍人の名前があれば、教えてもらえるかな」
張にたずねる神尾司令官の顔からは、すっかり笑みが消えていた。
張は背筋に寒気を感じ、何もいうことができなかった。
何もいえない張に、神尾司令官は笑みを浮かべていった。
「どうやら何も知らないようだな、わざわざ呼んですまなかった」
張は帰ることを許された。
張が帰った後の応接室で、神尾司令官が部下の男に命じた。
「結城中佐、噂がある奴ら全員、内地(日本)へ送り返せ。
理由を聞かれたら、戦争中であるにも関わらず、遊興に耽る恥さらしだと伝えろ」
「かしこまりました」、部下の結城中佐が答える。
「あと、あの張とかいう男への物資の発注は続けろ」、神尾司令官がいう。
「張に発注を続けるのは、いかなる理由からでしょうか」、結城中佐が尋ねる。
「張に発注を続ける目的がわからんのか。
張に発注を続ければ、張が我が軍が規律のある軍であることを広めてくれる。
青島を陥落させても、青島の人々から信頼を得なくては勝ったとはいえない。
そういう意味で、我が軍にとって、青島の戦いはまだ終わってはいない。
植民地から外国人を一掃し、諸外国の支配から人々を解放すること。
これこそが我ら日本軍の大義に他ならない」、神尾司令官がいった。
2019年5月29日水曜日
銘柄を明かさない理由R260 青島の戦い(前編)
自身のオリジナル小説である「銘柄を明かさない理由R」。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
前回の「ベイビーワールドエンド編」は、世界を舞台にした。
今回の「クーロンズ・アイ編」では、歴史という要素を加味したいと考えている。
だが、この先の展開がどうなるか、自身にも予測不能だ。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第260話 青島の戦い(前編)
青島の戦いは、第一次世界大戦中の1914年(大正3年)の戦闘である。
1914年9月1日、山東半島北側の龍口に、日本軍の先発隊が上陸。
9月11日、師団長である神尾中将指揮する第十八師団は、龍口に上陸した。
9月27日、日本軍は龍口から青島に向け、偵察を繰り返しつつ、前進を開始した。
翌9月28日には、青島市背後の生命線である浮山と孤山のドイツ軍前線に到達した。
ドイツ軍の反撃が予想されたが、あえなく陥落。
日本軍は、労山湾から上陸させた榴弾砲、加農砲、山砲を運び入れた。
ドイツの青島要塞攻略にあたり、日本軍は砲撃戦を作戦の要としたのである。
10月31日、日本軍の第十八師団と第二艦隊による攻撃が始まった。
日本軍の重火器による砲撃により、ドイツ軍の要塞は無力化された。
10月31日夜半には、ドイツ軍の第一攻撃陣地が陥落。
明治天皇誕生日の11月3日には、ドイツ軍の第二攻撃陣地が陥落した。
青島要塞の前面には保塁が南北に並び、その背後の山々には砲台が作られていた。
初日から日本軍の砲弾を浴びせられ、11月1日には砲台は戦闘力を喪失した。
11月5日、「砲台を爆破し撤退せよ」との命令を受け、砲台のドイツ軍は退却した。
11月7日、両軍は青島開城規約書に調印し、青島要塞は陥落した。
1918年9月、駐留する日本軍の高官に贈賄したという容疑で、ある男が捕まった。
男は、4万人からなる青島軍司令部に出入りする日本人の御用商人だった。
だが、証拠不十分で、男は無罪釈放となり、帰国することにした。
男は帰国する際、店や預金、その他一切の財産を番頭である張(チャン)に譲った。
番頭の張は泣いて別れを惜しんだが、3日後の船便で男は日本に帰国した。
男から譲り受けた店や預金、その他一切の財産を前に、張は思った。
中国人である自分と日本軍は取引してくれるのか、張は途方にくれた。
だが、張の元には日本軍からの注文が相次いだ。
「兵糧が不足している、精米を明日までに都合しろ」
「缶詰肉はまだか、あと、食塩が必要だ、大至急、都合しろ」
張はこれらの注文に必死で対応していたが、中にはこんな注文もあった。
「いつになったら、内地の芸者で接待してくれるんだ」
そんなある日、張は青島守備軍司令部から呼び出しを受けた。
呼び出したのは、第十八師団の師団長から青島守備軍司令官となった神尾司令官だった。
司令部に行くと、張は応接室へ通された。
通された応接室には、威厳ある軍服姿の神尾司令官と部下らしき男がいた。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
前回の「ベイビーワールドエンド編」は、世界を舞台にした。
今回の「クーロンズ・アイ編」では、歴史という要素を加味したいと考えている。
だが、この先の展開がどうなるか、自身にも予測不能だ。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第260話 青島の戦い(前編)
青島の戦いは、第一次世界大戦中の1914年(大正3年)の戦闘である。
1914年9月1日、山東半島北側の龍口に、日本軍の先発隊が上陸。
9月11日、師団長である神尾中将指揮する第十八師団は、龍口に上陸した。
9月27日、日本軍は龍口から青島に向け、偵察を繰り返しつつ、前進を開始した。
翌9月28日には、青島市背後の生命線である浮山と孤山のドイツ軍前線に到達した。
ドイツ軍の反撃が予想されたが、あえなく陥落。
日本軍は、労山湾から上陸させた榴弾砲、加農砲、山砲を運び入れた。
ドイツの青島要塞攻略にあたり、日本軍は砲撃戦を作戦の要としたのである。
10月31日、日本軍の第十八師団と第二艦隊による攻撃が始まった。
日本軍の重火器による砲撃により、ドイツ軍の要塞は無力化された。
10月31日夜半には、ドイツ軍の第一攻撃陣地が陥落。
明治天皇誕生日の11月3日には、ドイツ軍の第二攻撃陣地が陥落した。
青島要塞の前面には保塁が南北に並び、その背後の山々には砲台が作られていた。
初日から日本軍の砲弾を浴びせられ、11月1日には砲台は戦闘力を喪失した。
11月5日、「砲台を爆破し撤退せよ」との命令を受け、砲台のドイツ軍は退却した。
11月7日、両軍は青島開城規約書に調印し、青島要塞は陥落した。
1918年9月、駐留する日本軍の高官に贈賄したという容疑で、ある男が捕まった。
男は、4万人からなる青島軍司令部に出入りする日本人の御用商人だった。
だが、証拠不十分で、男は無罪釈放となり、帰国することにした。
男は帰国する際、店や預金、その他一切の財産を番頭である張(チャン)に譲った。
番頭の張は泣いて別れを惜しんだが、3日後の船便で男は日本に帰国した。
男から譲り受けた店や預金、その他一切の財産を前に、張は思った。
中国人である自分と日本軍は取引してくれるのか、張は途方にくれた。
だが、張の元には日本軍からの注文が相次いだ。
「兵糧が不足している、精米を明日までに都合しろ」
「缶詰肉はまだか、あと、食塩が必要だ、大至急、都合しろ」
張はこれらの注文に必死で対応していたが、中にはこんな注文もあった。
「いつになったら、内地の芸者で接待してくれるんだ」
そんなある日、張は青島守備軍司令部から呼び出しを受けた。
呼び出したのは、第十八師団の師団長から青島守備軍司令官となった神尾司令官だった。
司令部に行くと、張は応接室へ通された。
通された応接室には、威厳ある軍服姿の神尾司令官と部下らしき男がいた。
2019年5月23日木曜日
銘柄を明かさない理由R259 人の行く裏に道あり花の山(後編)
第259話 人の行く裏に道あり花の山(後編)
男は、信頼する番頭の張(チャン)と話していた。
「違う、士農工商になるなら、人と同じ道を行くことになる。
士農工商以外になることが、人の行く裏に道あり花の山なんだ」、男はいった。
「シノウコウショウイガイ?」、張がたずねる。
「そうだ、士農工商以外だ。
士農工商の連中は、労働によってでしか金を手に入れることができない。
社長であっても労働で金を手に入れているのは同じだ。
士農工商のはるか上、日本一の金持ちになるんだ。
例えば、ワシらが今やっている日本軍の御用商人。
普通の者であれば、軍隊相手に商売しても儲からないと思う。
無理難題をいわれ、納期どおりに物資を納めても値切られる。
確かに、戦争がなければ、軍隊相手に商売しても儲けは出ないだろう。
だが、戦線が拡大するにつれ、ワシらが調達する物資は増え続ける。
やがて、求められる物資が、調達できる物資を上回るようになる。
そうなれば、値切られることや、高級料亭で将校連中を接待する必要もなくなる。
ワシらの言い値で取引できるので、大きく儲けることができる」、男はいった。
「ゴヨウショウニンガ、ヒトノウラヲイクトイウコトカ」、張がたずねる。
「御用商人を続けるだけではダメだ。
御用商人で儲けた金を使って、金を殖やすんだ」、男はいった。
「アタラシイショウバイスルノカ」、張がいう。
「ああ、商売は商売だが、人相手の商売ではなく、金相手の商売、すなわち株だ。
ワシは日本人なので、いつかは日本へ帰るときが来るだろう。
日本へ帰国することになっても、儲けた金で、日本一になってやる。
張、おまえも儲けた金で、中国一の金持ちになってやれ」、男はいった。
1918年(大正7年)9月、日本軍の高官に贈賄したという容疑で男は捕まった。
だが、証拠不十分で、男は無罪釈放となった。
男は帰国する際、店や預金、その他一切の財産を番頭である張に譲った。
番頭の張は泣いて別れを惜しんだが、3日後の船便で男は日本に帰国した。
帰国した男は、人が気づかぬところに目を配り、誰よりも早く行動した。
男はいくつかの事業を興し、儲けた金を元手に株を始めた。
1982年(昭和57年)分の高額所得者番付で、男が日本一となったことが報道された。
後に最後の相場師と呼ばれた是川銀蔵、84歳の快挙だった。
男は、信頼する番頭の張(チャン)と話していた。
「違う、士農工商になるなら、人と同じ道を行くことになる。
士農工商以外になることが、人の行く裏に道あり花の山なんだ」、男はいった。
「シノウコウショウイガイ?」、張がたずねる。
「そうだ、士農工商以外だ。
士農工商の連中は、労働によってでしか金を手に入れることができない。
社長であっても労働で金を手に入れているのは同じだ。
士農工商のはるか上、日本一の金持ちになるんだ。
例えば、ワシらが今やっている日本軍の御用商人。
普通の者であれば、軍隊相手に商売しても儲からないと思う。
無理難題をいわれ、納期どおりに物資を納めても値切られる。
確かに、戦争がなければ、軍隊相手に商売しても儲けは出ないだろう。
だが、戦線が拡大するにつれ、ワシらが調達する物資は増え続ける。
やがて、求められる物資が、調達できる物資を上回るようになる。
そうなれば、値切られることや、高級料亭で将校連中を接待する必要もなくなる。
ワシらの言い値で取引できるので、大きく儲けることができる」、男はいった。
「ゴヨウショウニンガ、ヒトノウラヲイクトイウコトカ」、張がたずねる。
「御用商人を続けるだけではダメだ。
御用商人で儲けた金を使って、金を殖やすんだ」、男はいった。
「アタラシイショウバイスルノカ」、張がいう。
「ああ、商売は商売だが、人相手の商売ではなく、金相手の商売、すなわち株だ。
ワシは日本人なので、いつかは日本へ帰るときが来るだろう。
日本へ帰国することになっても、儲けた金で、日本一になってやる。
張、おまえも儲けた金で、中国一の金持ちになってやれ」、男はいった。
1918年(大正7年)9月、日本軍の高官に贈賄したという容疑で男は捕まった。
だが、証拠不十分で、男は無罪釈放となった。
男は帰国する際、店や預金、その他一切の財産を番頭である張に譲った。
番頭の張は泣いて別れを惜しんだが、3日後の船便で男は日本に帰国した。
帰国した男は、人が気づかぬところに目を配り、誰よりも早く行動した。
男はいくつかの事業を興し、儲けた金を元手に株を始めた。
1982年(昭和57年)分の高額所得者番付で、男が日本一となったことが報道された。
後に最後の相場師と呼ばれた是川銀蔵、84歳の快挙だった。
2019年5月22日水曜日
銘柄を明かさない理由R258 人の行く裏に道あり花の山(前編)
自身のオリジナル小説である「銘柄を明かさない理由R」。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
タイトルのみ決めて書き始めた「クーロンズ・アイ編」。
1914年(大正3年)6月、1人の男が大連港に降り立った。
この男は実在の人物で、「クーロンズ・アイ編」のキーマンになる予定だ。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第258話 人の行く裏に道あり花の山(前編)
「お前のことを調べたら、実にこれまで努力してやってきたことがわかる。
せっかくの才能があるんだ、お前の頭を正道に使え、決して邪道を歩むな。
邪道によって金儲けしようとか、出世しようとか考えるな、正道を歩け」
男は裸一貫から再出発するため、日本に帰国することにした。
男には、最も信頼していた番頭がいた。
番頭は、現地で雇った中国籍の男で、名を張(チャン)といった。
張は、男と同じく学はなかったが、仕事ぶりは真面目だった。
男は、自分と同じ年の張を番頭に抜擢、贔屓にしていた。
男は張と、朝まで語り明かしたことがあった。
「張、どんなに頭がよくても、儲けることができるとは限らない」、男がいう。
「ドウシテカ」、張がカタコトの日本語でたずねた。
「人の行く裏に道あり花の山、という言葉を知っているか」、男がいう。
「キイタコトナイデス」、張がカタコトの日本語でいう。
「頭がよい奴は、最もよさそうな道を選ぼうとする。
だが、その道は誰もがよいなと思う道だ」、男がいう。
「ソレデイイノデハアリマセンカ」、張がカタコトの日本語でいう。
「頭がよい奴は、最もよさそうな道を選ぼうとする。
すると、人と同じ道しか選べないことになる。
人と同じことをやっていたのでは、人と同じ儲けしか得られない」、男がいう。
「ムズカシクテ、ワカリマセン」、張がカタコトの日本語でいう。
「人より儲けたければ、大勢の人と同じ道を選ばないことだ。
10人中9人がやっていることがあれば、残り1人がやっていることをする。
10人中10人がやっていることがあれば、誰もやっていないことをする」、男がいう。
「ヤハリ、ムズカシクテ、ヨクワカリマセン」、張がカタコトの日本語でいう。
「かっての日本には、士農工商という身分制度があった」、男がいう。
「シノウコウショウ?」、張がカタコトの日本語でいう。
「士は武士、農は農家、工は工業、商は商人(あきんど)だよ。
最も金儲けの才能に秀でている商人が、最も低い身分にあった」、男がいう。
「ヒクイミブンノ、アキンドヤメロ。
タカイミブンノブシニ、ナレトイウカ」、張がカタコトの日本語でいう。
「違う、士農工商になるなら、人と同じ道を行くことになる。
士農工商以外になることが、人の行く裏に道あり花の山なんだ」、男はいった。
いつか、自費出版しようと考えている。
女友達には無償で配布、要らないといっても送りつける。
もちろん、男友達には高額で売りつける予定だw
タイトルのみ決めて書き始めた「クーロンズ・アイ編」。
1914年(大正3年)6月、1人の男が大連港に降り立った。
この男は実在の人物で、「クーロンズ・アイ編」のキーマンになる予定だ。
それでは「銘柄を明かさない理由R クーロンズ・アイ編」をお届けするw
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第258話 人の行く裏に道あり花の山(前編)
「お前のことを調べたら、実にこれまで努力してやってきたことがわかる。
せっかくの才能があるんだ、お前の頭を正道に使え、決して邪道を歩むな。
邪道によって金儲けしようとか、出世しようとか考えるな、正道を歩け」
男は裸一貫から再出発するため、日本に帰国することにした。
男には、最も信頼していた番頭がいた。
番頭は、現地で雇った中国籍の男で、名を張(チャン)といった。
張は、男と同じく学はなかったが、仕事ぶりは真面目だった。
男は、自分と同じ年の張を番頭に抜擢、贔屓にしていた。
男は張と、朝まで語り明かしたことがあった。
「張、どんなに頭がよくても、儲けることができるとは限らない」、男がいう。
「ドウシテカ」、張がカタコトの日本語でたずねた。
「人の行く裏に道あり花の山、という言葉を知っているか」、男がいう。
「キイタコトナイデス」、張がカタコトの日本語でいう。
「頭がよい奴は、最もよさそうな道を選ぼうとする。
だが、その道は誰もがよいなと思う道だ」、男がいう。
「ソレデイイノデハアリマセンカ」、張がカタコトの日本語でいう。
「頭がよい奴は、最もよさそうな道を選ぼうとする。
すると、人と同じ道しか選べないことになる。
人と同じことをやっていたのでは、人と同じ儲けしか得られない」、男がいう。
「ムズカシクテ、ワカリマセン」、張がカタコトの日本語でいう。
「人より儲けたければ、大勢の人と同じ道を選ばないことだ。
10人中9人がやっていることがあれば、残り1人がやっていることをする。
10人中10人がやっていることがあれば、誰もやっていないことをする」、男がいう。
「ヤハリ、ムズカシクテ、ヨクワカリマセン」、張がカタコトの日本語でいう。
「かっての日本には、士農工商という身分制度があった」、男がいう。
「シノウコウショウ?」、張がカタコトの日本語でいう。
「士は武士、農は農家、工は工業、商は商人(あきんど)だよ。
最も金儲けの才能に秀でている商人が、最も低い身分にあった」、男がいう。
「ヒクイミブンノ、アキンドヤメロ。
タカイミブンノブシニ、ナレトイウカ」、張がカタコトの日本語でいう。
「違う、士農工商になるなら、人と同じ道を行くことになる。
士農工商以外になることが、人の行く裏に道あり花の山なんだ」、男はいった。
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