第269話 自己超越者(中編)
都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
無敗のクイーンは、無敗のジャックの取引履歴を調べていた。
奴が取引口座を開設し、株式取引を始めたのは2005年。
最初の取引は、数百万円で数銘柄を購入する何の変哲もない分散投資。
その後、数回、銘柄入れ替えをしているが、いずれも少額の利益しかあげていない。
2008年9月、大手投資会社リーマン・ブラザーズが経営破綻した。
経営破綻により、リーマンショックと呼ばれる暴落相場が起きた。
相場が暴落する中、奴は保有する仕手株の買い増しを行なっている。
高値掴みした株が半値になる度、同数の株を買い続ける無限ナンピンだ。
驚くべきことに、奴は仕手株への無限ナンピンを3回行っている。
購入時の株価が半値になったので1回、さらに半値になったので2回。
3回目の無限ナンピンは、購入時の株価の8分の1で行ったことになる。
この時点での奴の仕手株の含み損は数百万円、評価損益率はマイナス50%。
普通なら、ここまで株価が下がる前に、誰もが損切りをするところだ。
だが奴はナンピンした、しかも3回目の無限ナンピンは同数ではなく倍の株数だ。
そのまま株価が下がれば奴は再起不能だったろう、だが、そこが大底だった。
大底を打ったあと、仕手株の株価は上昇し、奴はいち早く含み益になった。
だが、奴は利益を確定せず、その後も仕手株を保有し続けた。
2011年3月、東日本大震災によって相場は急落した。
奴は他の含み益の株を全数売りに出し、今回、買い増しした銘柄の1つを仕込んだ。
2013年12月、株の軽減税率が終了、税金が約10%から約20%に引き上げられた。
多くの投資家が軽減税率終了前に手仕舞いする中、奴だけが保有し続けた。
軽減税率が終了、多くの投資家が買い戻しに向かい、多くの株が年初来高値となった。
多くの株が年初来高値の中、奴は元本引上げの売りを行い、全株をタダ株にした。
数年後、奴は今回、買い増ししたもう1つの銘柄を仕込んだあと、タダ株にしている。
購入時期が異なる銘柄を、なぜ、奴は今回、同時に買い増ししたのか。
何か重要なことを見落としているのかもしれない。
無敗のクイーンは、再び、ジャックの取引履歴を読み返した。
リーマンショック、無限ナンピン、元本引上げの売り、タダ株・・・。
ふと、無敗のクイーンは、自分がジャックならどう動くかを考えてみた。
ま、まさか、無敗のクイーンは、いくつかのデータを確認すると、つぶやいた。
「なるほどな、見えたぞ、貴様の買いの手法」
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