2019年8月26日月曜日

銘柄を明かさない理由R270 自己超越者(後編)

第270話 自己超越者(後編)

株の指標の1つにBPS(Book-value Per Share)、1株当たり純資産がある。
計算式は純資産÷発行済み株式数で、株の評価価値、株の定価ともいわれる指標である。
バリュー投資理論の考案者であるベンジャミン・グレアム。
彼は著書「賢明なる投資家」で、投資の中心的概念について次のように述べている。

「割安銘柄は本質的に、株価がその株式の評価価値よりも安い状態にあるわけで、その差がすなわち安全域である。安全域は、計算ミスや運の悪さを十分に吸収する効果がある」
(第20章 投資の中心的概念「安全域」)
また、彼は株式の評価価値の3割以下の株を買いなさいと述べている。

都内のある証券会社の資産運用部署である「アルカディア」。
無敗のクイーンは、無敗のジャックの取引履歴を調べていた。
ま、まさか、無敗のクイーンは、いくつかのデータを確認すると、つぶやいた。
「なるほどな、見えたぞ、貴様の買いの手法」

無敗のクイーンが確認したのは、ジャックが買い増しした2銘柄の定価であるBPS。
あと、今回の買い増し前と買い増し後の平均取得単価だった。
ジャックが今回、買い増しした2銘柄は、いずれも過去に一度、タダ株にしている。
その後、買い増しをしているが、その平均取得単価は驚くほど低い。

ある銘柄は10,000株をタダ株にしていたため、10,000株の平均取得単価は0円。
同数の株を500円ほどで買い増ししているので、500万円÷20,000株=250円ほどだ。
今回の買い増し前の平均取得単価250円は、BPSの2割ほどだ。
今回の買い増しで、平均取得単価は上がったが、それでもBPSの3割に満たない。

バリュー投資理論の考案者であるベンジャミン・グレアム。
グレアムは株式の評価価値、すなわちBPSの3割の株を買えといっている。
だが、現在の相場で、大手優良企業の株価がBPSの3割以下になることはない。
奴は一度、タダ株にして買い増しすることで、平均取得単価をBPSの3割にしたのか。

もちろん、平均取得単価をBPSの3割にしても、まだ株価は下がるかもしれない。
だが、2銘柄の配当利回りは5%を超えている。
配当利回りが、さらに数%以上も上昇するほど、株価が下がるとは考えにくい。
万が一、株価が暴落しても、奴には無限ナンピンがある、無敗のクイーンは思った。

アメリカの心理学者アブラハム・マズロー。
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、自己超越の段階があると発表した。
彼は自己超越者の割合は、人口の2%ほどであるとしている。
全投資家の2%ほどは、無敗の個人投資家の割合とほぼ同じである。

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