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2016年6月12日日曜日

銘柄を明かさない理由R84 パンドラの箱(後編)

第84話 パンドラの箱(後編)

「淀屋の一族が大手企業を乗っ取り、外資企業に売り渡すという計画は本当でしょうか」
いきなりの核心をついた質問に、場は静まり返った。
この男、いきなり直球をぶつけてきやがった、今の沈黙で認めたも同然や。
ワテとしたことが、すっかり油断してたわ、淀屋は思った。

「ワテは淀屋やけど分家ですわ、本家のことはようわかりまへんねん。
せやけど関西の相場師の間で、そういう噂があることは聞いたことがおます」、淀屋がいう。
「なるほど、噂レベルなんですね、安心しました」、秘書はいった。
秘書を装った調査会社の男は確信した、計画は本物だと。

「あとひとつだけ教えてください。
その噂で、難波の女帝が乗っ取ろうとしている会社のことです」
秘書は数日前から株価が下がり始めたある大手企業の名を告げ、間違いないかと聞いた。
どう答える、秘書は淀屋を見据えた。

この男、全て知った上で聞いてきとる。
全て知ったとしても、どないもできへんやろ。
「噂になっとるのは、今、いわはった会社ですわ」、淀屋はいった。
「そうなんですね、お教えいただき、ありがとうございます」、秘書は礼をいった。

新大阪駅の構内。
2人の女性は、すでに東京へ向かっている。
男は勤務先の調査会社へ電話した。
ワンコールで、女性社員が電話に出た。

男は名乗り、社長へ取り次ぐよう伝えた。
「危ないことは、していませんよね」、女性社員がいう。
「危ないことができるほど若くないよ、心配してくれてありがとう」、男はいった。
「安心しました、社長におつなぎいたします」、女性社員はいった。

「ご苦労だった、成果を教えてくれ」、社長はいった、
「調査した結果、計画は本物です」、男は標的の大手企業名も伝えた。
「わかった、お得意様に伝えておく」、社長がいう。
「あと、パンドラの箱だったと伝えておいてください」、男がいう。

「パンドラの箱?希望があるってことか」、社長がたずねる。
「今回の件、淀屋の一族はパンドラの箱を開けました。
だがパンドラの箱の中には、アルカディアという名の希望が残っていたのです」
男は報告を終えた。

銘柄を明かさない理由R83 パンドラの箱(前編)

第83話 パンドラの箱(前編)

パンドラの箱とは、この世の全ての災いを収めた箱のことである。
古代ギリシャの神ゼウスは、パンドラにこの世の災いを収めた箱を持たせた。
地上に降り立ったパンドラは、好奇心からこの箱を開けてしまう。
全ての災いが箱から飛び出し、慌てて蓋をしたが、残ったのは「希望」だけだった。

4人は食後の飲み物を飲みながら、世間話に興じていた。
淀屋は違和感をもった、この秘書とかいう男、本当に秘書なんやろか。
秘書なのに対等の立場で物言いしよる、秘書ならこんな物言いせんやろ。
カマかけてみよか。

やがて、無敗のクイーンがトイレに席を外した。
「ところで秘書さんは何年、秘書やってはるんでっか」、淀屋は秘書にたずねた、
「そうですね、かれこれ10年近くになりますね」、秘書の男は答えた。
「そうでっか、長いことやっておられるんや」、淀屋がいった。

無敗のクイーンがトイレから戻ってくると、淀屋が聞いた。
「ところで別嬪さんは何年前に秘書がついたんでっか」
無敗のクイーンは瞬時に気づいた。
この唐突な質問は罠だ、席を外している間に何かやりとりがあったに違いない。

「何年前だったかな」、無敗のクイーンは秘書を装った調査会社の男を見た。
調査会社の男の目は、任せろといっていた。
「テンが来てからだから、かれこれ3年になるかな」、無敗のクイーンは答えた。
淀屋の目が光った。

「社長の秘書からあなたの秘書になったのは4年前ですよ」、秘書がいった。
「そんなになるか」、無敗のクイーンがいう。
「ここだけの話、彼女は自己中ですが、誰よりも仕事ができる女性なんです。
だが、お目付け役がいないとまずいということで、私が秘書に任命されたのです」

「なるほど、そういう事情があったんでっか。
どうりで秘書らしからぬ物言いをしはるわけや」、淀屋は納得した。
「いやあ、本当に楽しい時間でした、ところで淀屋さん」、秘書がいう。
「何でっしゃろ」、淀屋が笑顔で聞く。

「淀屋の一族が大手企業を乗っ取り、外資企業に売り渡すという計画は本当でしょうか」
いきなりの核心をついた質問に、場は静まり返った。
この男、いきなり直球をぶつけてきやがった、今の沈黙で認めたも同然や。
ワテとしたことが、すっかり油断してたわ、淀屋は思った。

2016年6月11日土曜日

銘柄を明かさない理由R82 淀屋の憂鬱

第82話 淀屋の憂鬱

高級ブランドのスーツに身を包んだ男は淀屋だった。
今日は別嬪さんのために決めてきましたで、そろそろ、約束の時間や。
駅の方向から歩いてくる無敗のクイーンを見つけた淀屋は呆気にとられた。
な、なんで、モップちゃんがおんの、しかも隣には男もおるやんか。

「お待たせした」、無敗のクイーンが淀屋にいう。
「いえ、それより今日は3人でお越しやったんでっか」、淀屋がいう。
「この男は私の秘書だ」、無敗のクイーンが男を紹介した。
「はじめまして」、男は無敗のクイーンが用意した社員証を見せて挨拶した。

「そうでっか、秘書さんでっか、ちょっと待っといてや」
淀屋は3人に話し声が聞こえないところまでいくと、運転手に電話をかけた。
「変更や、店に電話して料理2人前追加しといてや。
あと花束を後ろのトランクに突っ込んでから、車回してんか」

「もうすぐ車がきますよって、ところで大阪は初めてでっか」、淀屋がいう。
「何度か来たことあります」、「私もです」、モップちゃんと秘書が答える。
あんたらには聞いてへんねん、心の中で淀屋は思ったが顔には出さなかった。
「私は初めてだ」、無敗のクイーンの答えを聞き、淀屋は安堵した。

黒塗りの高級車が到着し、淀屋は後部座席のドアを開けた。
座席に落ちていた花びらを慌てて拾うと、3人にいった。
「さあ乗っておくんなはれ、贔屓の店に案内させてもらいます」
淀屋と3人を乗せた黒塗りの高級車は流れるように走りだした。

やがて、黒塗りの高級車は立派な門構えの高級料亭に着いた。
淀屋は助手席から降り、後部座席のドアを開ける。
「ありがとうございます」、「すいません」、モップちゃんと秘書が降りてくる。
あんたらのためにしとるんやない、心の中で淀屋は思ったが顔には出さなかった。

ふと見ると、無敗のクイーンは運転手が開けた反対側のドアから降りていた。
何年、ワテの運転手やってんのや、心の中で淀屋は思ったが顔には出さなかった。
和室のテーブル席に通された4人の前に、次々と料理が運ばれてきた。
「お口に合うかどうかわかりまへんけど、召し上がっておくんなはれ」、淀屋がいう。

「美味しい、淀屋さんはいいお店を贔屓にされてるんですね」、モップちゃんがいう。
「確かに絶品ですね、やはり大阪の食文化はレベルが高い」、秘書がいう。
あんたらの感想はどうでもええねん、心の中で淀屋は思ったが顔には出さなかった。
「こんな美味いものは初めてだ」、無敗のクイーンの感想に淀屋は歓声をあげそうになった。

銘柄を明かさない理由R81 敵地へ

第81話 敵地へ

翌日、無敗のクイーンと無敗の天然ことテンは大坂へ向かう新幹線の中にいた。
昨夜、男から淀屋一族の計画を聞いた無敗のクイーンは即座に大阪行きを決めた。
その場で、無敗のクイーンは淀屋に電話した。
数コールで淀屋は出た、「はい、どちらはんでっか」

無敗のクイーンが名乗ると、淀屋はたちまち嬉しそうな声になった。
「こんな時間に別嬪さんから電話貰えるとは、まさかワテの声が聞きたかったんでっか」
単刀直入に無敗のクイーンは明日、大阪へ行くが会えるかと聞いた。
「ワテに会いに大阪へ来てくれるんでっか、何をおいても会いにいきますわ」

待ち合わせの時間と場所を決めると、無敗のクイーンは通話を終えた。
「明日の12時、場所は淀屋橋だ」、無敗のクイーンは男にいった。
「承知した、では現地集合で」、男は立ち去った。
展開の早さに、小柄な小動物を連想させる女性、テンは目を白黒させていた。

「初めて乗りましたけど、結構、混んでるんですね」、テンがいう。
「新幹線に乗るの、初めてなのか」、無敗のクイーンが驚きながらたずねる。
「普通車に乗るの初めてなんです、いつもグリーン車ばかりだったんで」、テンがいう。
聞くんじゃなかった、無敗のクイーンは寝ることにした。

別の車両には、調査会社の男がいた。
まさか小柄な小動物を連想させる女性が、アルカディアの一員だったとはな。
世の中、広いようで狭いもんだ。
男は売店で買った新聞の株式欄を開いた。

数日前から、男の保有する大手企業の株が下がり始めていた。
同業他社に比べて、下げが際立っていた。
しかも、今までにない大きな出来高を伴う下げだ。
まさか、この大手企業がターゲットなのか、男は嫌な予感がした。

大阪の淀屋橋。
時刻は正午になろうとしていた。
高級ブランドのスーツに身を包んだ1人の男が人を待っていた。
通りを行きかう人々は一様に男を見ていく。

高級ブランドのスーツに身を包んだ男は淀屋だった。
今日は別嬪さんのために決めてきましたで、そろそろ、約束の時間や。
駅の方向から歩いてくる無敗のクイーンを見つけた淀屋は呆気にとられた。
な、なんで、モップちゃんがおんの、しかも隣には男もおるやんか。

2016年6月10日金曜日

銘柄を明かさない理由R80 3枚のカードが揃うとき

第80話 3枚のカードが揃うとき

3日間で大手企業乗っ取り計画が本当なのか突き止めろか。
どうすれば、突き止めることができる。
キーワードは「淀屋」に「難波の女帝」か、男は考え始めた。
考えていても仕方がない、検索してみるか。

男が「淀屋」を検索すると、10万件を超える膨大な数がヒットした。
この中に何か手がかりになるヒントがあるはずだ。
男は、ヒットした記事を読み続けた。
やがて、ある個人ブログにたどりついた。

そのブログの管理人は、若い女性のようだった。
カテゴリは聞いたこともないゲームやアニメのタイトルばかりだった。
投稿は多くなかったが、ゲームやアニメの新作情報や感想が大半だった。
だが、「淀屋」というワードが出てくる投稿があった。

「今日、淀屋さんから電話がありました♪
淀屋さんは、イケメンの芸人さんに似ています。
淀屋さんはわたしのことを○○○ちゃんと呼んでくれました。
ひょっとして、これから何かが始まるかもしれません♪」

賭けてみるか、男はブログにあった連絡先のメールアドレスにメールした。
「はじめまして、訳あって淀屋さんの連絡先を至急、知りたいのです。
メールではお教え頂けないでしょうから、あなたの指定する場所に出向きます。
私の姿を見て教えたくないと思うなら、そのままお立ち去りください」

夜遅くに返信がきた。
「明日19時に東京証券取引所横のコンビニのイートインコーナーに来れますか。
もし、会ってもいいと思ったら、30分以内に声をかけます」
「新聞を読んでいるスーツ姿の男性が私です」、男はメールを返信した。

19時前から、男は東京証券取引所横のコンビニのイートインコーナーにいた。
新聞を読みながら、男は待ち続けた。
10分が経ち、15分、20分、25分と経過した、ダメだったか、男が諦めかけたときだった。
「あの~前にお会いしましたよね」

振り向くと、小柄な小動物を連想させる若い女性がいた。
覚えている、ここで自分を知り合いの誰かと間違えた女性だ。
小柄な小動物を連想させる女性の横にいる端正な顔立ちの女性にも見覚えがあった。
その女性は、ある証券会社の資産運用部署アルカディアを率いる女性だった。

2016年6月9日木曜日

銘柄を明かさない理由R79 至急の調査依頼

第79話 至急の調査依頼

都内のある調査会社。
オフィスで仕事をしていた男に、女性社員が声をかけた。
「社長がお呼びです、今すぐ社長室へ来てくださいって、また何かよくないことされました」
「前にもいったろ、心当たりは山ほどあると」、男は社長室へ向かった。

社長室に着いた男は、軽くノックをした。
「入りたまえ」、男が社長室に入ると、社長は窓の外を見て、しばらく黙っていた。
「遠慮は要らん、掛けたまえ」、太った貫禄ある社長が振り向きながらいう。
とっくに、男はソファに座っていた。

「す、座っていたのか、まあいい」、社長がバツがわるそうにいった。
「また仕事の依頼ですか」、男はたずねた。
「ああ、そうだ、我が社のお得意様からの依頼、しかも至急とのことだ」、社長がいう。
「調査する内容はどういったことでしょう」、男が聞いた。

「ある大手企業を乗っ取る計画があるらしい、本当なのかを調べて欲しい」、社長がいう。
「誰が乗っ取ろうとしているのですか」、男はいった。
「淀屋という一族で、首謀者は難波の女帝と呼ばれている相場師らしい」、社長がいう。
「ちょっと待ってください」、男はいった。

「我が社のお得意様は、世界有数の保険法人ですよね。
なぜ保険法人が日本企業の乗っ取りについて、調査を依頼するのですか」、男はたずねた。
「乗っ取ったあと、外資企業に売り渡すらしい。
大手企業が外資企業に売り渡されれば、何らかの影響があるのだろう」、社長はいった。

「調査に与えられた期間は」、男がたずねた。
「お得意様は3日後の報告を希望している、どうだ、できるか」、社長がたずねた。
「できなくても、やらざるをえないのでしょう」、男はいった。
「当たり前だ、お客様は神様だからな」、太った社長は笑いながらいった。

席へ戻った男に、女性社員が声をかけた。
「飲み物をお持ちしましょうか」
「ありがとう、だが今はいい」、男はいった、
「お役にたてることがあるなら、何なりと仰ってください」、女性社員がいった。

「自分のことは自分で何とかするよ。その気遣いだけで十分だよ」
3日間で大手企業乗っ取り計画が本当なのか突き止めろか。
どうすれば、突き止めることができる。
キーワードは「淀屋」に「難波の女帝」か、男は考え始めた。

2016年6月8日水曜日

銘柄を明かさない理由R78 関西の気高き相場師たち

尊敬する実在の相場師を、ご本人の承諾なしに登場させています。
もし不快な思いをされたのであれば、ご一報いただければ改稿いたします。

第78話 関西の気高き相場師たち

難波の女帝の計画は、恐ろしい計画だった。
業績が低迷している大手企業の株を売る。
株価が下がったところで、大量の買いを入れる。
過半数を超える株を入手したら、外資企業に売り渡すというものだった。

淀屋の一族の親族会議。
難波の女帝と呼ばれる女相場師はいった。
「この国は危機感が欠如しとります。
役人の天下り先の大手企業を外資企業に売り渡せば、少しは目が覚めるはずやわ。

この大手企業の株の時価総額は1兆円もおまへん。
ウチら一族の力を合わせれば、過半数の株を取得することは簡単や。
一気に売って、安値になったところを大量に買うんや。
気づいたときには、この大手企業は淀屋一族の会社になってるんよ。

これが成功すれば、関東のお偉方も目を覚ます。
本格的な景気対策に取り組むはずや。
今こそ、淀屋が表舞台に出るときや」
会場は盛大な拍手に包まれ、閉会した。

難波の女帝には抜かりがなかった。
親族会議で賛同を得た難波の女帝は、意図的に情報をリークした。
「えらく下がる株があるんやけど聞きたいでっしゃろ」
話を持ちかけられたほとんどの者が銘柄を知りたがり、事前に情報を手に入れた。

だが、中には毅然とした態度を貫く相場師たちもいた。
関西で名の知れた大物相場師である株銀もその1人だった。
「株は成長する企業に出資し、ともに利益を享受することだ。
売り方では参戦しない、わるいが他をあたってくれ」

古都京都でその名を知られた大物相場師である鳳凰堂も同じだった。
「私は私のやり方で相場に挑んできた。
人の意見に左右されることはない、お帰り願おう」
他にも難波の女帝の提案を一蹴した関西の相場師は少なからずいた。

せっかくの儲け話を断るなんて、何を考えてるんやろ。
あとで文句いうてきても知らんさかいな。
まあええわ、そろそろショータイムの始まりやで。
難波の女帝は、不敵な笑みを浮かべた。

2016年6月7日火曜日

銘柄を明かさない理由R77 恋するモップちゃん

第77話 恋するモップちゃん

ある日のこと、代表電話がある総務部からアルカディアに内線があった。
「淀屋と名乗る方からお電話です、おつなぎいたします」
無敗のクイーンが席を外していたので、無敗の天然ことテンが電話に出た。
「淀屋です、今から伝えることは大事なことでっさかい、きっちりメモっとくんなはれ」

「あの、リーダーは今、席を外しているんですけど」、テンがいう。
「何や、あの別嬪さんと違うんかいな、あんたは誰や、こないだおった女の子の1人か」
「はい、あのとき、後ろにいた1人です」、テンがいう。
「ワテから見て、何番目の女の子や」、淀屋が聞く。

「左からいうと3番目、右からだと・・・8番目でした」、テンが答える。
「あ~思い出したで、モップ持ってた子やんか」、淀屋が笑いながらいう。
「はい、あのときはすいませんでした」、テンは謝った。
「気にしてへんよ、それより大事なこと伝えるから、メモしてや」

淀屋は受話器越しにでもわかる真剣な口調でいった。
「近いうちに大きく下がる株があるけど、決して手出したらあかんで」、淀屋がいう。
「どうしてなんですか、手を出すか出さないかは私たちが決めることです」、テンがいう。
淀屋は少しの間、沈黙した、言葉を選んでいるようだった。

「確かに理不尽な忠告に聞こえるかもしれんな。
ワテがいわれても納得せんわ、けど訳あって詳しいことはいえんのや。
ええか、モップちゃん、近いうちに大きく下がる株には気いつけや。
あの別嬪さんにも伝えといてや、ほな」、淀屋はいいたいことをいうと電話を切った。

モップちゃんか、初めての呼び名だ。
小柄な小動物を連想させる女性は、入社以来、天然だと言われ続けてきた。
彼女は彼女なりに一生懸命やってきたつもりだ。
だが、いつもミスをして部署を転々とさせられてきた。

モップちゃんになるのもいいかもしれない。
いつも片手にモップを持つモップちゃん、テンはイスを滑らせる。
そこ綺麗にしといてやといわれて綺麗にするモップちゃん、テンはまたイスを滑らせる。
「何をしているんだ」、振り向くと無敗のクイーンが腕組みして見ていた。

一瞬、頭が真っ白になったテンは慌てていった「流行のオフィスエクササイズしていました」
テンは淀屋からの電話の内容を、無敗のクイーンに伝えた。
「面白い、相場で何かが起ころうとしている」、無敗のクイーンは不敵な笑みを浮かべた。
このとき2人は知らなかった、大きく下がる株がメイン株の1つであることを。

2016年6月6日月曜日

銘柄を明かさない理由R76 親族会議

第76話 親族会議

大阪の一流ホテルで、ある一族の親族会議が開かれていた。
数百名の出席者に、高齢の鶴のような体躯の男が張りのある声でいった。
「本日も無事、淀屋の一族が集うことができた。
誠に喜ばしいことである、これも一重に皆の頑張りの賜物じゃ、感謝する」

会場からは、どよめきと歓声があがる。
鶴のような体躯の男、現在の淀屋本家の当主は続けた。
「我らは同じ血の流れる一族じゃ。
一族の力を必要とする者は、遠慮なく申し出るがよい」

1人の女性が挙手をした。
発言権を与えられた女性は話し始めた。
「ここんとこ景気が低迷して、日本経済は元気がおまへん。
相場を使って景気よくしようと思うんやけど、皆さんご協力願えまへんやろか」

その女性は一族の中でも有名な女相場師で「難波の女帝」と呼ばれていた。
「関東のお偉方は、経済ちゅうもんをわかってはらへん。
ご先祖さまのように、相場を使って日本経済を元気にするべきときとちゃいまっか」
会場の賛同者から、拍手が起こった。

1人の男が挙手した。
発言権を与えられたイケメンの芸人に似た男は話し始めた。
「ご先祖さまは米市を作りはったんであって、相場を動かしたわけやおまへん。
株価操作は違法行為や、ワテは止めた方がよろしいかと思います」

難波の女帝は、反論した男を見据えるといった。
「誰かと思えば分家のあんたかいな、あんたのしてることこそ株価操作やで」
イケメンの芸人に似た男はいった。
「ワテは相場で儲けた金を、中小企業に無利息で融資してます」

難波の女帝は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「儲けるために何をしたんや、株価操作したんやろが。
分家のくせに淀屋の屋号を名乗れるのは、誰のおかげか、わかってんのか。
ホンマやったら、あんたはこの場におられへん人間なんやで、わかっとんのか、返事は」

「すんまへん」、男は引き下がった。
その後、難波の女帝が話し始めた計画は、恐ろしい内容だった。
聞きながら男は血の気が引いていくのを感じていた。
こんなん景気対策でも何でもないやん、男は思った。

2016年6月5日日曜日

銘柄を明かさない理由R75 大阪から来た男(後編)

第75話 大阪から来た男(後編)

無敗のクイーンが振り向くと、そこにはアルカディアメンバー10名全員が揃っていた。
テンはどこから持ってきたのか、掃除用のモップを持って、淀屋を睨んでいる。
どうやら受付の女性社員が、アルカディアメンバーに召集をかけたらしい。
「ワ、ワテは何も悪いことしてまへん、な、なんですの、この状況は」

総務部に勤める女性社員がいった。
「当社のIRについてお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」
経理部に勤める女性社員がいった。
「当社の詳細な財務内容をお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」

広報に勤める女性社員がいった。
「当社のマーケティング戦略をお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」
相変わらず、テンは掃除用のモップを持って、淀屋を睨み続けている。
頼もしい奴らだ、アルカディアメンバーを見ながら、無敗のクイーンは思った。

「ワテが聞きたいのは資産を運用する際の判断基準でんがな。
誰がいつ、どのように判断しとるかっちゅうことですわ」、淀屋がいった。
「ここにいる10名が判断している」、無敗のクイーンが答えた。
淀屋は目を見開きいった、「ウソでっしゃろ」

「ウソではない、ここにいる10名は我が社の精鋭トレーダーだ」、無敗のクイーンがいった。
「運用する際の判断基準はあるんでっか」、淀屋がいう。
「我々には独自の判断基準がある」、無敗のクイーンはいった。
「具体的な判断基準を教えてもらへまへんか」、淀屋がいう。

置かれた運転免許証を手にとり一瞥すると淀屋に返し、無敗のクイーンはいった。
「判断基準は、無敗の個人投資家たちの売買データだよ。
我々は彼らの売買データを元に、判断し運用を行っている」
最後に無敗のクイーンは淀屋を本名で呼び、回答に満足したか確認した。

淀屋は愛嬌のある笑顔になり、いった。
「おおきに、東京まで来た甲斐がありましたわ。
でも、なんで初対面のワテにそこまで教えてくれたんでっか」
「知られたところで、我々が無敗であることは変わらない」、無敗のクイーンはいった。

「おおきに、大阪へ来ることがあったら、いつでも連絡しとくんなはれ。
歓迎しますよってに」、淀屋は連絡先を書いたメモを残し帰っていった。
テンがいった、「あの人、イケメンの芸人さんに似てますね」
皆から、タイプなんですかと冷やかされ、テンは耳まで真っ赤になった。

2016年6月4日土曜日

銘柄を明かさない理由R74 大阪から来た男(中編)

第74話 大阪から来た男(中編)

無敗のクイーンはランチを終えて、会社に戻ってきた。
最近、テンは弁当を作ってくるようになった。
奴の家柄からして、いつまでも独身というわけにはいかないだろうからな。
奴には奴の人生がある、その時がくれば応援してやろう。

無敗のクイーンが、受付の前を通りがかったときだった。
受付カウンターの前に、身なりのさえない男がいた。
受付の女性社員は、アルカディアメンバーだ。
その彼女が困惑した様子で、身なりのさえない男とやり取りしている。

変な来客に対応するのも受付の仕事だ、頑張れよ。
心の中でエールを送ったとき、無敗のクイーンはあることに気づいた。
その男の身なりはさえないが、最高級の靴を履いていた。
あまりにもギャップのある男に、無敗のクイーンは関心をもった。

「そうやな、自社の資産を運用する際の判断基準を教えてもらおか」と男がいった。
「お待ちください」受付の女性社員は総務部への内線に手を掛けようとしていた。
「資産を運用する際の判断基準を聞きたいのか」
無敗のクイーンは男に声をかけた。

「その通りでんがな、それこそがワテが聞きたいことですねん。
えらい別嬪さんやけど、ワテが聞きたい判断基準をご存知なんでっか」と男がいう。
受付の女性社員が目で、大丈夫ですかと聞いてくる。
無敗のクイーンは目で、大丈夫だと返しておいた。

無敗のクイーンは、男を応接コーナーに案内した。
男は浪花の相場師で、皆から淀屋と呼ばれているといった。
淀屋か宿屋か知らないが、見たことも、聞いたこともない。
自己紹介ができるようになってから出直すよう、無敗のクイーンはいった。

「しゃあないな」、淀屋は懐から二つ折りの財布を取り出した。
財布から運転免許証を取り出すと、無敗のクイーンの前に置いた。
「ワテの身分証明ですわ、これで、どこのどいつかおわかり頂けますやろ」
ふと無敗のクイーンの背後を見た淀屋の顔が固まった。

無敗のクイーンが振り向くと、そこにはアルカディアメンバー10名全員が揃っていた。
テンはどこから持ってきたのか、掃除用のモップを持って、淀屋を睨んでいる。
どうやら受付の女性社員が、アルカディアメンバーに召集をかけたらしい。
「ワ、ワテは何も悪いことしてまへん、な、なんですの、この状況は」

2016年6月3日金曜日

銘柄を明かさない理由R73 大阪から来た男(前編)

第73話 大阪から来た男(前編)

都内にあるアルカディアを有する証券会社。
ある日の昼下がり、受付に身なりのさえない男が現れた。
「いらっしゃいませ、アポイントはおありでしょうか」
受付の女性社員がにこやかに応対する。

「アポイントなんて、あるわけおまへん。
この会社のことが気になったんで、わざわざ大阪から出向いてきたんですわ。
この会社のことについて、教えてくれまへんか」と男はいった。
受付の女性社員は咄嗟に思った、この男アブナイ奴かもしれないと。

「申し訳ございませんが、アポイントのないお客様のお取次ぎは致しかねます」
「なに、いうてんねん、ほな、あんたでええわ、この会社のこと教えてんか」
「どのようなことをお知りになりたいのでしょうか」
「そうやな、自社の資産を運用する際の判断基準を教えてもらおか」

このような来客があった際、総務部へ取り次ぐことになっている。
「お待ちください」受付の女性社員が内線に手を掛けようとしたときだった。
「資産を運用する際の判断基準を聞きたいのか」
通りがかった無敗のクイーンと呼ばれている女性社員が男に声をかけた。

「その通りでんがな、それこそがワテが聞きたいことですねん。
えらい別嬪さんやけど、ワテが聞きたい判断基準をご存知なんでっか」
「教えてやらんでもない、だが確認したいことがある」
「なんでも聞いてもらって、かましまへん」、男はいった。

無敗のクイーンは、男を応接コーナーへ案内した。
応接コーナーで2人になると、無敗のクイーンは社員証を提示、自己紹介した。
「すんません、今は名刺を切らしてまして、ワテは単なる一庶民ですわ」
「貴様は名無しなのか、自己紹介もまともにできないのか」無敗のクイーンがいう。

男の顔が一瞬、凍りついたが、すぐに元に戻った。
「はっきりいう別嬪さんでんな、ワテは浪花の相場師、皆からは淀屋と呼ばれとります」
「で、自己紹介は」、無敗のクイーンがいう。
「わからんお人やなあ、淀屋と名乗りましたやん」

「淀屋か宿屋か知らないが、まともに自己紹介も出来ない奴に話すことはない。
自己紹介ができるようになってから、出直すことだ」、無敗のクイーンは席を立った。
「気が短いお人やな、ほんまに淀屋をご存知ないんでっか」
「見たことも、聞いたこともない」、無敗のクイーンはいった。

2016年5月31日火曜日

銘柄を明かさない理由R72 難波の女帝

第72話 難波の女帝

そろそろ参戦しまひょか、淀屋が参戦しようとしたとき、それは起こった。
ストップ安だった株が、大幅な上昇を始めたのである。
なんや、これは、何が起こったんや、こんなんありえへんやろ。
ストップ安からストップ高となった株を、淀屋は信じられない面持ちで見ていた。

ほんまに危ないとこやったで、参戦してたら大損するとこやった。
ストップ安にした奴は、えらい損したんやろな。
出来高と取引値からすると、どえらい金が動いたんやな。
どこのどいつが、ストップ安だった株をストップ高にしたんやろ、気になるわ。

淀屋は独自の情報網を使って調べることにした。
やがて、ストップ高にしたのは、東京のある証券会社だとわかった。
その証券会社は、ある相場師が創業した会社だった。
しかも驚くべきことに、女性トレーダーがストップ高にしたことがわかった。

相場師が作った会社、しかも女がストップ高にしたやと。
おもろい会社や、全てにおいて型破りな会社や、今まで聞いたことあらへん。
東京にこんなおもろい会社があるとは、いつか話を聞きたいもんや。
淀屋は会ったこともない東京の証券会社に思いをはせた。

同じ頃、大阪の難波。
オフィスビルの1室で、1人の女が報告書を読んでいた。
その報告書は、ある株がストップ安からストップ高になった経緯をまとめていた。
なるほど、仕手戦やったんやね、しかし思い切った仕手戦しはるわ。

報告書には、コンビニで買い物する2人の女性を隠し撮りした写真もあった。
無敗のクイーンと無敗の天然と呼ばれている女性2人だった。
しかもストップ高にしたのは、ウチより若い女の子たちやんか。
ウチくらいの歳になったら、どんなトレードするんやろ、将来が楽しみやわ。

報告書の細部まで記憶した女は、報告書をシュレッダーにかけた。
女性2人の写真をシュレッダーにかけながら、女は思った。
かわいいお嬢ちゃんたちは、ウチの味方なんかな、それとも敵なんかな。
もし敵になるんやったら覚悟しときや、かっての幕府みたいに潰してあげるよってに。

その女は、淀屋の一族で本家だった。
淀屋の一族で本家だということは、公にはしていない。
女は代々、受け継いできた資産を管理する傍ら、相場を張ってきた。
相場で巨額の利益を叩き出してきた女は、「難波の女帝」と呼ばれていた。

2016年5月29日日曜日

銘柄を明かさない理由R71 淀屋の一族

第71話 淀屋の一族

江戸時代、大阪に淀屋と呼ばれた豪商がいた。
淀屋は、全国の米相場の基準となる米市を設立し、米市で莫大な富を得た。
淀屋の米市で行われた米取引は、世界の先物取引の起源とされている。
やがて淀屋の財力を恐れた幕府により、淀屋は財産を没収された。

だが、あらかじめ暖簾分けをしていたことで、大阪の地での再興に成功する。
幕末になると、淀屋は討幕運動に積極的に加担する。
その後、ほとんどの財産を自ら朝廷に献上して、淀屋は表舞台から姿を消した。
大阪にある淀屋橋は、淀屋に由来していることは広く知られている。

淀屋の一族は、明治、大正、昭和の激動の時代をひっそりと生き抜いてきた。
商才により莫大な富を得た一族は、全国の土地を買い付けた。
今や、淀屋の一族は全国の主要都市に多くの土地を所有していた。
一族が所有する土地の評価額は、日本の国家予算に匹敵するともいわれている。

その男は淀屋の一族だった。
本家ではなく分家だったが、この男も生まれつき商才に秀でていた。
男は、学生時代に会社を起業し、財をなした。
やがて会社経営に飽きた男は、同業他社に惜しげもなく売り渡した。

会社経営に飽きた男は、もっと楽に金を儲けることはできないかと考えた。
男が目をつけたのは、相場だった。
自分の資金力を持ってすれば、相場で儲けることは容易かった。
事実、面白いように儲かった。

やがて男は、資金繰りに困っている中小企業への融資を行うようになった。
自分には有り余る資金がある、世のため、人のために役立てるのも悪くないと思った。
貸し渋りする金融機関の株を売って得た利益で、中小企業に融資する。
大手企業や金融機関に媚びない男は、いつしか淀屋と呼ばれるようになった。

そんなある日、淀屋は面白い株を見つけた。
どこかのアホが株価を釣り上げていた、わかりやすい株価操作だった。
売りに転じたとき、ワテも売らしてもらいましょ、淀屋はそのときを待っていた。
ある日、その株は売り一色になり、ストップ安となった。

そろそろ参戦しまひょか、淀屋が参戦しようとしたとき、それは起こった。
ストップ安だった株が、大幅な上昇を始めたのである。
なんや、これは、何が起こったんや、こんなんありえへんやろ。
ストップ安からストップ高となった株を、淀屋は信じられない面持ちで見ていた。

2016年5月28日土曜日

銘柄を明かさない理由R70 浪花の相場師

江戸時代、大阪に淀屋と呼ばれた豪商がいた。
幕末になると、淀屋はほとんどの財産を朝廷に献上、歴史の表舞台から姿を消した。

第70話 浪花の相場師

大阪のある地方銀行の応接室。
身なりのさえない男が、必死に友人の会社への融資を頼み込んでいた。
「お願いしますわ、今月中に金が用意できへんかったら会社が回りまへんねん。
お宅とは長い付合いだと聞いとります、なんとか融資をしてくれまへんか」

地方銀行の担当と上司は、冷めた目で男をみていた。
「今がこの会社にとっての正念場なんです。
中小企業が困ったときの地銀さんでっしゃろ。
お願いしますわ、ワテがいうのもなんですけど、あの町工場はええ会社ですねん」

この田舎者がと心の中で思いながら、上司がいった。
「ご友人の会社のために、そこまでされる方はなかなかいらっしゃいません。
しかし、あの会社の財務内容は、融資するに足る条件を満たしていません。
ご友人の将来を思えばこそ、変に希望を持たせないことが必要です」

身なりのさえない男はいった。
「本当にどうにもなりまへんのか」
迷惑そうな雰囲気を露骨に出しながら、上司がいう。
「申し訳ないですが、いくらご友人の頼みであっても、お力にはなれませんね」

大手証券会社に勤務する男は、ランチを食べに通りへ出た。
今日は何にするかな、考えながら歩く男は、地方銀行から出てくる1人の男に気づいた。
あの男見たことがある、たしか狙った会社の株を徹底的に売り込む相場師の淀屋だ。
相場師の淀屋が、地方銀行に何の用だ。

男が見ていると、淀屋と呼ばれる男は裏通りに入っていった。
裏通りには黒塗りの高級車が待機しており、運転手が後部座席のドアを開けた。
淀屋が乗り込むと、車は静かに大通りへ出て、やがて見えなくなった。
まさか、あの地方銀行が奴の次のターゲットなのか、男は嫌な予感がした。

男の予感は的中した、翌日から、その地方銀行の株価は下がり始めた。
他の地方銀行の株価がボックス圏で推移している中、その地方銀行だけが下がり続けた。
「大株主が売っているに違いない」、「何か不祥事があるんじゃないか」
憶測による売りが売りを呼び、株価は下がり続け、やがて底を打った。

株価が底を打った数日後、ある町工場に黒塗りの高級車がやってきた。
降り立った身なりのさえない男、淀屋は重そうな紙袋を片手に社長室へ向かった。
平身低頭する社長に紙袋の中の札束を手渡すと、淀屋はいった。
「これはワテからの無利息の融資ですわ、返すのはいつでもよろし、応援してまっせ」

2016年5月27日金曜日

銘柄を明かさない理由R69 初めてのお見合い

第69話 初めてのお見合い

小柄な小動物を連想させる女性は、裕福な家に生まれ育った。
女性は3人姉妹の末っ子で、姉2人はとっくに結婚していた。
自分も結婚したいと思わないわけでもない。
だが、中学、高校、大学と女子校で、今まで男性と付き合ったことはなかった。

現実の男は、アニメやゲームの男と比べると見劣りし、付き合う気にはなれなかった。
休日は、家でアニメやゲームに没頭するだけで幸せだった。
どうして、アニメやゲームのヒーローみたいな男はいないのだろう。
私のヒーローはいずこに、小柄な小動物を連想させる女性はいつも思っていた。

休日、自室で新作ゲームに没頭していると、両親から呼ばれた。
両親から見合いをしないかといわれた。
どうせ、見合いの男なんて、たいした男じゃないと、釣書を手に取った。
そこには爽やかな笑顔の青年がいた、女性は即答でOKした。

見合いの当日、小柄な小動物を連想させる女性は、初のお見合いに緊張していた。
これはゲーム、焦らずにいつもどおりにやれば、勝てる。
大丈夫、私は負けたことがない。
そこまで考えたとき、見合いの相手が現れた。

釣書の写真どおりの爽やかな笑顔で、両親を伴い青年は現れた。
会食が始まった。
両親たちは当たりさわりのない会話をしている。
高価そうな料理だったが、ほとんど箸をつけずに残した。

「さあ、若い方同士、2人で話でもしてらっしゃい」といわれ、2人は散策した。
青年がいった、「もし一緒になったなら、君には金銭面では苦労をさせないよ。
同世代の中では、比較的、年収は恵まれているほうだと思っている」
私の方が収入が多い、と小柄な小動物を連想させる女性は思ったが、いわなかった。

青年がいった、「できれば、一緒になったら専業主婦になって欲しい。
子どもがいつ帰っても、母親がいる家庭が理想なんだ」
私の方が稼いでいるのに、専業主婦になれっていうの、ムリだわ。
小柄な小動物を連想させる女性は思ったが、いわなかった。

翌日、ある証券会社の資産運用を担当する部署、通称アルカディア。
小柄な小動物を連想させる女性社員は、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。
何があったのか知らないが、今日はこちらから話しかけない方がよさそうだな。
女性社員と目が合った無敗のクイーンは、さりげなく新聞で顔を隠した。

2016年5月24日火曜日

銘柄を明かさない理由R68 男と女のルール

第68話 男と女のルール

にぎやかな店内、女性店主は厨房で1人、思い返していた。
最初に、初詣に行かないかと誘ったのは女性店主だった。
「別に構わないが、そっちは大丈夫なのか」と、男はいった。
「大丈夫だから誘っているんじゃない」女性店主は笑って返した。

何かいいかけて、男は止めた。
女性店主は既婚者で、男も既婚者だった。
既婚者の男女が2人きりで初詣に行く。
互いの家族が知れば、決していい気はしないだろう。

だが、2人は自分たちの気持ちに抗わなかった。
家族には友達と会ってくるといい、初詣に行った。
やがて、女友達との旅行だと偽って、2人で旅行に行くようになった。
2人でいろんなところへ旅行した。

「さあ、お待たせ、今日のメインディッシュよ」女性店主が大皿を持ってきた。
下町の定食屋では、あり得ない大皿のパエリアだった。
「わあ、美味しそう」天使の笑顔をもつ男の彼女がいった。
「本当に美味しそうだ、ありがとうございます」天使の笑顔をもつ男が礼をいった。

男は女性店主を見ながら思った。
お互い独身のときに知り合えたら、よかったかもしれない。
でも、独身のときに知り合っていても、君には相手にされなかっただろう。
男には女性店主にはいえないことがあった。

2人がいろんなところへ旅行している頃だった。
女性店主の主人に、2人の関係が知られた。
ある日、男の元に女性店主の主人から電話がかかってきた。
この時にどのような会話があったかは、誰にもいわないし、いうつもりもない。

既婚者が恋愛して、何が悪いと男は思う。
だが、既婚者の恋愛の場合、互いの家庭を壊さないことがルールだ。
特に相手に子どもがいる場合、相手の家庭を壊すようなことは絶対にしてはならない。
そう思い、男は自ら女性店主と距離をおくことにした。

その夜、下町の定食屋はにぎやかだった。
天使の笑顔をもつ男の彼女は厨房に入り、愉しそうに調理を手伝い始めた。
男と天使の笑顔をもつ男は、熱心に相場について話をしている。
「あんたたち、相場だけをみていたら、大切なものを失うわよ」女性店主はいった。