大阪の一流ホテルで、ある一族の親族会議が開かれていた。
数百名の出席者に、高齢の鶴のような体躯の男が張りのある声でいった。
「本日も無事、淀屋の一族が集うことができた。
誠に喜ばしいことである、これも一重に皆の頑張りの賜物じゃ、感謝する」
会場からは、どよめきと歓声があがる。
鶴のような体躯の男、現在の淀屋本家の当主は続けた。
「我らは同じ血の流れる一族じゃ。
一族の力を必要とする者は、遠慮なく申し出るがよい」
1人の女性が挙手をした。
発言権を与えられた女性は話し始めた。
「ここんとこ景気が低迷して、日本経済は元気がおまへん。
相場を使って景気よくしようと思うんやけど、皆さんご協力願えまへんやろか」
その女性は一族の中でも有名な女相場師で「難波の女帝」と呼ばれていた。
「関東のお偉方は、経済ちゅうもんをわかってはらへん。
ご先祖さまのように、相場を使って日本経済を元気にするべきときとちゃいまっか」
会場の賛同者から、拍手が起こった。
1人の男が挙手した。
発言権を与えられたイケメンの芸人に似た男は話し始めた。
「ご先祖さまは米市を作りはったんであって、相場を動かしたわけやおまへん。
株価操作は違法行為や、ワテは止めた方がよろしいかと思います」
難波の女帝は、反論した男を見据えるといった。
「誰かと思えば分家のあんたかいな、あんたのしてることこそ株価操作やで」
イケメンの芸人に似た男はいった。
「ワテは相場で儲けた金を、中小企業に無利息で融資してます」
難波の女帝は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「儲けるために何をしたんや、株価操作したんやろが。
分家のくせに淀屋の屋号を名乗れるのは、誰のおかげか、わかってんのか。
ホンマやったら、あんたはこの場におられへん人間なんやで、わかっとんのか、返事は」
「すんまへん」、男は引き下がった。
その後、難波の女帝が話し始めた計画は、恐ろしい内容だった。
聞きながら男は血の気が引いていくのを感じていた。
こんなん景気対策でも何でもないやん、男は思った。
