その日、下がり続けていた株に、いくつかの新しい買いが入った。
最初に約定したのは、ある調査会社に勤務する男の買い注文だった。
指値での買い注文は、指値になった時点で全て約定した。
約定した株数は、その日の出来高からすると微々たるもので、株価は下がり続けた。
後場になり、ある買い注文が約定した。
天使の笑顔をもつ男の買い注文だった。
個人投資家としては比較的、多い株数が約定した。
だが約定後も、売り圧力が優勢の中、株価は下がり続けた。
取引終了時間までわずかとなったとき、まとまった大きな買いが入った。
ある証券会社の資産運用部署アルカディアの買い注文だった。
株価は前日比プラスとなったが、売り圧力の前に前日の取引終値を割り込んだ。
誰もが思った、今日も前日比マイナスだと。
取引時間終了間際、閃光の買いが入った。
終値を見て誰もが目を疑った、その株の取引終値は前日比プラスとなっていた。
終値を見て誰もが目を疑った、その株の取引終値は前日比プラスとなっていた。
それは、ある証券会社の会長である巨躯の男の買いによるものだった。
巨躯の男は取引時間終了に合わせて、大量の大引け成行買いを入れていたのである。
大阪難波
取引終値を見た難波の女帝は愕然とした。
なんや、これは、いったい誰が、こんなことしたんや。
取引終値を見た難波の女帝は愕然とした。
なんや、これは、いったい誰が、こんなことしたんや。
あれだけの売り注文を買いあがることはできへんはずや、誰や、誰の仕業や。
難波の女帝は、卓上の内線に手を伸ばした。
内線に出た相手に、難波の女帝は怒鳴るようにいった。
「ええか、今日、ふざけたことした奴を何としてでも探しだすんやで。
それと明日の売り注文は今日の倍や、ええか倍やで、わかったら返事せんか」
首都高を走行する車の中、助手席の男性秘書はノートPCを見ていた。
「本日の取引終値は、前日比プラスとなりました」、男性秘書がいう。
「たわいもない、明日の買いは今日の倍だ」、後部座席の巨躯の男がいう。
「かしこまりました」、男性秘書がいった。
昔から少しも変わっておらんな、相変わらず派手好きな女狐だ。
最初から手の内を見せてどうする。
仕手戦を仕掛けるなら、目立たぬようにすることだ。
巨躯の男は車窓の風景を眺めながら、笑みを浮かべた。