ラベル 銘柄を明かさない理由R(第11章 ジョーカー・ゲーム) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 銘柄を明かさない理由R(第11章 ジョーカー・ゲーム) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016年9月23日金曜日

銘柄を明かさない理由R138 You spin me round(後編)

第138話 You spin me round(後編)

その頃、淀屋と付き合っているモップちゃんこと無敗のテンは、1人考えていた。
リーダー、何かあったのかしら、社長室へ呼び出されるなんて。
もし運用成績のことで呼び出されたのなら、わたしにも責任がある。
いても立ってもいられなくなったテンは、席を立ち社長室へ向かった。

社長室のあるフロアへ着いたテンは、社長室に入る男を見た。
えっ、今のは淀屋さん、なぜ淀屋さんが社長室に。
淀屋さんが来るなんて聞いてない、テンの頭は混乱した。
しばらく考えた末に、テンはある結論を出した。

リーダーと淀屋さんが結婚することになり、偉い人に仲人をお願いしに来たんだわ。
そうだわ、そうとしか考えられない。
わたしというものがありながら、よりによってリーダーと二股かけていたのね。
こればかりはガマンできないわ、テンは意を決して社長室へ向かった。

「ちょっと、お待ちください、来客中です」
受付の前を、鬼のような形相で通り過ぎようとするテンに社長室秘書がいった。
「来客とは顔見知りよ、この花瓶借りるわよ」
テンは受付カウンターの花瓶を手に取ると、社長室のドアを開けた。

社長室に入ると、中にいた全員がテンを見た。
リーダーと淀屋は、並んでソファに座っていた。
2人の前のソファには、大きな男の人が座っている、おそらく仲人を頼んでいる人だ。
「やはり仲人を頼んでいたのね」、驚く淀屋の頭上でテンは花瓶を逆さにした。

1時間後、アルカディアにいる無敗のクイーンのところへ社長がやってきた。
「あの女性社員へのお咎めはなしだ、安心しろ」
無敗のクイーンは席を立ち、頭を下げていった。
「申し訳ありませんでした、わたしの管理不行届きでした」

「済んだことだ、会長は事情を聞くと、快く笑って許してくださったよ。
ところで、あの女性社員と淀屋氏はどこだ」、社長がたずねる。
「服を何とかするといって、淀屋氏を連れて早退しました」、無敗のクイーンがいう。
「浪花の相場師も、彼女の前ではただの男か」、社長は笑いながらいった。

同じ頃、都内の高級住宅地にあるテンの自宅。
「この娘が男の人を連れてきたのは初めてなんですよ、ゆっくりしていってくださいね」
料理本を見ながら悪戦苦闘しているテンの横で、テンの母親が笑いながらいう。
何でこうなんねん、タクシーで連れてこられた淀屋は居心地悪そうにソファに座っていた。

2016年9月22日木曜日

銘柄を明かさない理由R137 You spin me round(中編)

第137話 You spin me round(中編)

「元気そうだな」と会長がいい、「おかげさまで」、無敗のクイーンが答える。
「資産は順調に増えているようだな」、会長がいう。
「ヒマじゃないので、本題を仰ってもらえますか」、無敗のクイーンがいう。
「か、会長に向かって、その態度はなんだ」、いつもは温厚な社長がいう。

会長が片手を上げて、社長を制する。
「実績を上げているのだ、責めるな」、会長がいい、社長は口を閉じた。
そのとき、社長室のドアがノックされた。
「来客の方がお見えになりました」、社長室秘書がいい、「通せ」と会長がいう。

社長室に入ってきたのは、イケメンの芸人に似た男、浪花の相場師こと淀屋だった。
「よく来てくれた、かけたまえ」、会長がいい、淀屋は無敗のクイーンの横に座った。
「なぜ、きさまがここにきた」、無敗のクイーンが淀屋にいう。
「相変わらずでんな、面白い話があるって呼ばれたからですやん」、淀屋は笑みを浮かべた。

「なんだ、2人は知り合いだったのか」、社長が聞く。
「ワテの理想のタイプやったんやけど、振られましてん」、淀屋が泣きまねしながらいう。
「それ以上いうと、後で叩きのめすからな」、無敗のクイーンが淀屋を睨みながらいう。
「どうやら、紹介する必要はないようだな」、会長がいい、本題を話し始めた。

「大手の外資系証券会社が株式評論家を使って相場を作っている。
株式評論家の推奨した株を買いあがる古典的なやり方だ。
ワシは持てる力の全てを使って、ふざけた奴らを叩き潰すつもりだ。
貴様らに何かしろとはいわん、ただの情報提供だ」会長がいう。

「アルカディアには、理想郷という意味があります。
誕生した時点で、アルカディアは既に理想郷なのです。
我々は理想郷を侵略しようとする者は、誰であろうと排除します」
無敗のクイーンは毅然といった。

「情報おおきに。
ワテらは世界に先駆けて、先物取引市場を作らせていただきました。
外国人が国内の相場を作るのは面白いことおまへんな。
ワテらはワテらなりのやり方を取らしてもらいますよって」、淀屋は笑みを浮かべていった。

その頃、淀屋と付き合っているモップちゃんこと無敗のテンは、1人考えていた。
リーダー、何かあったのかしら、社長室へ呼び出されるなんて。
もし運用成績のことで呼び出されたのなら、わたしにも責任がある。
いても立ってもいられなくなったテンは、席を立ち社長室へ向かった。

2016年9月20日火曜日

銘柄を明かさない理由R136 You spin me round(前編)

第136話 You spin me round(前編)

江戸時代、大阪に淀屋と呼ばれた豪商がいた。
淀屋は、全国の米相場の基準となる米市を設立し、米市で莫大な富を得た。
淀屋の米市で行われた米取引は、世界の先物取引の起源とされている。
やがて淀屋の財力を恐れた幕府により、淀屋は財産を没収された。

だが、あらかじめ暖簾分けをしていたことで、大阪の地での再興に成功する。
幕末になると、淀屋は討幕運動に積極的に加担する。
その後、ほとんどの財産を自ら朝廷に献上して、淀屋は表舞台から姿を消した。
大阪にある淀屋橋は、淀屋に由来していることは広く知られている。

淀屋の一族は、明治、大正、昭和の激動の時代をひっそりと生き抜いてきた。
商才により莫大な富を得た一族は、全国の土地を買い付けた。
今や、淀屋の一族は全国の主要都市に多くの土地を所有していた。
一族が所有する土地の評価額は、日本の国家予算に匹敵するともいわれている。

その日、東京駅のホームに降り立ったのは、淀屋初代本家13代目当主の男だった。
数日前、当主の男はある証券会社の会長から招待状を貰っていた。
会長は業界なら知らんもんはおらへん有名人や、出てこん訳にはいかんやろ。
いきなり顔出したら、モップちゃん驚くやろな、淀屋は改札へと歩き出した。

都内のある証券会社の資産運用を担当するアルカディア。
責任者である無敗のクイーンの内線が鳴った。
社長室秘書から、社長室へお越しくださいとの内線だった。
「社長室へ行ってくる」、無敗のテンに告げ、無敗のクイーンは社長室へ向かった。

何か相場で動きがあったのか、無敗のクイーンは思った。
社長室秘書は無敗のクイーンを見ると、社長室のドアをノックした。
「お見えになりました」、ドアを開け、社長室秘書がいう。
「入れ」、聞き覚えのある声がした。

無敗のクイーンが社長室に入ると、ソファには巨躯の男、会長が座っていた。
ソファの横には社長が直立不動で立っていた。
「遠慮は要らん、座るがいい」、会長がいう。
「失礼します」、無敗のクイーンはソファに座った。

「元気そうだな」と会長がいい、「おかげさまで」、無敗のクイーンが答える。
「資産は順調に増えているようだな」、会長がいう。
「ヒマじゃないので、本題を仰ってもらえますか」、無敗のクイーンがいう。
「か、会長に向かって、その態度はなんだ」、いつもは温厚な社長がいう。

2016年9月19日月曜日

銘柄を明かさない理由R135 予知夢

第135話 予知夢

天使の笑顔をもつ男は、全焼した実家の焼け跡に立ち尽くしていた。
家族を全て失った、父も母も妹も。
都内の大学に進学せずに、自宅にいたなら助けられたかもしれない。
天使の笑顔をもつ男は地面に崩れ落ち、声を殺して泣き続けた。

「あら、誰かと思えば、お兄さま、何してらっしゃるの」、聞き覚えのある妹の声がした。
顔を上げると、制服姿の妹がにんまりした笑顔で立っていた。
「えっ、みんな、火事に巻き込まれたんじゃないのか」
天使の笑顔をもつ男は泣き濡れた顔でたずねた。

「ええっ、そんな話になっているの、ひどい誤報ね」、妹がいう。
「ということは」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「お父さんもお母さんも病院よ、命に別状はないって」、妹が笑顔でいう。
「そうか、よかった」、天使の笑顔をもつ男は安堵した。

「どこの病院だ、父さんや母さんに会いたい」、天使の笑顔をもつ男がいう。
妹の顔から笑みが消えた。
「おい、教えろよ、どこの病院だ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「大事なことを伝えるから、よく聞いて」、妹がいう。

「敵は、まだ手の内を明らかにしていない。
このままだと、お兄さまたちは壊滅するわ。
目に見えるものを信じちゃいけない。
勝利のカギは、1人の男の子の手にあるわ」、妹が真剣な顔でいった。

「ちょっと待て、いきなり何の話だ、父さんと母さんはどこにいるんだ」
天使の笑顔をもつ男はいった。
妹の周囲が闇に包まれ始めた。
漆黒の闇の中、赤く光る目が天使の笑顔をもつ男を見ていった。

「今、聞いたことは忘れろ、ルールを守れない奴の戯言だ」
その声は、地獄の底から響いてくるような声だった。
「きさま、何者だ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「我は死者を統べるもの」、赤い目がいい、闇が天使の笑顔をもつ男に襲いかかった。

天使の笑顔をもつ男は、大声をあげてベッドから飛び起きた。
「びっくりした、どうしたの」、ウィッグを外した女が驚いた顔で見ている。
「恐ろしい夢を見たような気がする」、天使の笑顔をもつ男はいった。
「忘れさせてあげる」、ウィッグを外した女は天使の笑顔をもつ男をベッドに押し倒した。

2016年9月18日日曜日

銘柄を明かさない理由R134 21世紀少年(後編)

第134話 21世紀少年(後編)

中学生になった男の子は、パソコン部に入部した。
プログラミングの基礎知識を身につけた男の子は、株取引のシステムを作った。
安く買って、高く売る、安く買えなければ、更に買って安くしてから売る。
ふだん、男の子が行なっている取引を自動で行なうシステムだった。

アルキメデスと名づけられたシステムは無敵だった。
株価が下がり一定の条件になる度、買い増す。
ひとたび上昇に転ずれば、決して買うことのないようプログラムされていた。
祖父名義の取引口座の残高は増え続けた。

ある日、祖父のメールアドレスに1通のメールが届いた。
「選ばれた方へ」と始まるそのメールは、ある研究会への招待メールだった。
贈り主は、祖父名義の取引口座のある証券会社だった。
好奇心から、男の子は研究会にいってみることにした。

研究会の会場は、あるホテルだった。
「君、ここは大人の集まる場所だよ」、受付の男にいわれた。
「招待メールをもらったので来ました」、男の子はプリントアウトしたメールを見せた。
「どこで手に入れたのか知らないけど、未成年は入れないよ」、受付の男がいった。

「どうした」、男の子が振り向くと大きな男がいた。
「いや、この男の子が招待されたといっていまして」、受付の男がいう。
「おい小僧、貴様の取引口座名を教えろ」、大きな男が男の子に聞く。
男の子は祖父名義の取引口座名を答えた。

「まさか、あの取引口座が貴様のような小僧のものとはな。
イマドキの小僧は恐ろしいな、いいだろう、研究会への出席を許可する。
呼び名はそうだな、21世紀少年にでもするかな」
大きな男が笑いながらいった。

研究会の大人たちは、僕に優しく接してくれる。
いつもにこやかに学校での出来事を聞いてくれる、受付のおじさん。
会うたびに彼女はできたかと聞いてくる、ウィッグのお姉さん。
舞台のことになると、目をキラキラさせながら熱く語るおじさん。

あの大きなキングこと先生は、どことなく僕の祖父に似ている。
教えてくれるときは常に真剣、でも僕を見る目は優しい。
世の中には、いい大人もいれば、わるい大人もいる。
僕が大人になるときは、あの研究会の大人たちのようになりたい、いや、なってみせる。

2016年9月17日土曜日

銘柄を明かさない理由R133 21世紀少年(中編)

第133話 21世紀少年(中編)

2階の自室で、中学生の男の子はPCを起動させた。
1通のメールが届いていた。
誰からのメールだろう、メール画面を立ち上げた。
メールの贈り主はキングことKだった。

メールの内容は、指令ともいえる内容だった。
男の子は、引き出しから1冊のノートを取り出した。
ノートを開くと、株に関する様々なことが達筆で記されていた。
こんなメールが来たのは初めてだな、メモしながら中学生の男の子は思った。

男の子は小学生のときに、祖父母に引き取られた。
祖父は、母親の再婚相手とは違って優しかった。
退職して家にいた祖父は、よく株の取引をしていた。
ある年の夏休み、祖父はPCの画面を指差しながら、株のことを教えてくれた。

「いいか、ほんの少し頭を使うだけで働かなくても、お金が手に入るんだ」
その夏、祖父は株に関するいろいろなことを教えてくれた。
秋になり、祖父は病気で倒れ、入院した。
病室で最後が近いと思ったのか、祖父は孫にいった。

「机の引き出しに、わしのノートがある。
何もしてやれなかった、お前への餞別だ、ばあさんをよろしくな」
数週間後、祖父は静かに息を引き取った。
祖父の葬儀に、母親の再婚相手の男は来ず、母親はほんの少し顔を見せただけだった。

葬儀が終わって数日度、男の子は祖父の残してくれたノートを読んだ。
取引口座へのログイン方法、株価チャートの読み方などなど。
祖父の取引口座にログインした男の子は目を見張った。
ふだんは目にすることのない金額が表示された。

これだけお金があれば、もっといいところに住めるのに、男の子は思った。
その日の夜、祖母になぜ、引っ越さないのか聞いてみた。
「この家には、いろいろ思い出があるのよ。おじいさんが初めて買ってくれた家だしね」
祖母は懐かしそうにいった。

やがて、男の子は祖父の取引口座を使って、株取引を始めた。
男の子にとって、株はゲームだった。
安く買って、高く売る、安く買えなければ、更に買って安くしてから売る。
祖父名義の取引口座の金額は増え続けた。

銘柄を明かさない理由R132 21世紀少年(前編)

「20th Century Boy」 T-REX
Friends say it's fine(友だちがいうんだ、それは素敵だねって)
Friends say it's good(友だちがいうんだ、それはいいねって)
Ev'rybody says it's just like rock'n'roll(皆いうんだ、まるでロックンロールみたいだって)

第132話  21世紀少年(前編)

都内の下町にある古びた木造の一軒家。
「ごちそうさま」、メガネをかけた中学生の男の子は手を合わせた。
「お代わりはいいのかい」、祖母がいう。
「もう、お腹いっぱいだよ、おばあちゃん」、男の子がおどけていう。

「明日は何が食べたい」、祖母が聞く。
「おばあちゃんの手料理」、男の子はそういうと、2階の自室へ駆け上がった。
男の子は祖母と2人暮らしだった。
孫が食べ終わった食器を片付けながら、祖母はあの日のことを思い出していた。

まだ主人が生きていた頃、ある雨の夜に玄関のインターホンが鳴った。
「誰だ、こんな時間に、お前が出て来い」、今は亡き夫がテレビを観ながらいう。
「はいはい、どちらさんですか」、わたしは玄関で返事を待っていた。
しばらくして声が聞こえた。

「お、おばあちゃん、あ、開けて」、聞き覚えのある孫の声がした。
慌てて、玄関の引き戸を開けると、近くに住む娘夫婦の1人息子がいた。
小学生の孫は、傘もなく薄着のまま、雨に打たれて震えていた。
顔には殴られたのか、痣があった。

わたしは自宅の玄関に孫を引き入れた。
「待ってて、タオルを持ってくるから」、孫はうなだれたまま、何もいわなかった。
濡れた体を拭いて、居間に連れて行くと、今は亡き主人がいった。
「何があったんだ、またあの男に暴力を振るわれたのか」

あなた、わかっていたでしょう、夫の遺影を見ながら祖母は思った。
娘が最初の結婚相手と別れて、再婚した相手。
定職に就かず、チャラチャラした敬語の使えない人。
どう見ても、まともな人じゃなかった。

娘が再婚相手を連れてきたとき、あなたはいったわよね、
「俺の娘を幸せにしなかったら、タダじゃおかないからな」
あのとき、この子がどんな顔をしていたか。
覚えていないでしょうね、あなたは孫を大事にしろとはいわなかった。

あの子は、わたしのかわいい孫です。
たとえ親であろうが、孫を傷つける者を決して許しません。
あの子だけが、わたしの生きがい。
わたしは生きている限り、あの子を守り続けます。

2016年9月16日金曜日

銘柄を明かさない理由R131 仮面の男(後編)

第131話 仮面の男(後編)

黙っている男に、コートを着た巨躯の男がいった。
「世界一の舞台俳優になる理由がわからないのか。
わからないのなら教えてやる。
世界一の舞台俳優は、金を手に入れるための手段であって目的ではない。

この世の中、全ての価値観を決めるのは金だ。
もし金を手に入れたいのなら、ここに来い」
コートを着た巨躯の男は、手帳にホテルの会場と日時を走り書きした。
走り書きしたページを破ると、横たわった男に渡した。

立ち去ろうとする巨躯の男に、横たわった男がいった。
「見捨てるのか、こちらは怪我人なんだぞ」
巨躯の男は立ち去りながらいった。
「甘えるな、助けが欲しいなら自分で助けを呼びにいけ」

何だ、あの男は、しかし身体が動かない。
このまま、朝までここに転がっているのか。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
救急車、こっちに来ねえかな、男の意識はそこで途切れた。

男が気づいたのは、病院のベッドの上だった。
「ここはどこだ」、男が聞く。
「あなたが運ばれてきた病院ですよ。
昨夜はあなたのおかげで大変だったんですよ」、ショートヘアの若い看護婦がいう。

あの救急車で、俺は運ばれたのか。
誰かが救急車を呼んでくれたのか。
いったい、誰が呼んでくれたのだろう。
ふと、ベッドサイドのテーブルを見ると、真っ白な封筒が眼にとまった。

「その封筒は」、男が看護婦に問う。
若い看護婦は真っ白な封筒を手に取り、中を改めた。
「昨夜、付き添いで来られた男の人が置いていかれた封筒ですよ。
カードが1枚だけ入っています、これって王様のカードかしら」

退院した男は、巨躯の男が指定したホテルでの研究会に出席した。
研究会に参加した男は思った、こんなに簡単に金を稼ぐことができるのか。
今や男の本業は相場師で、仮面の相場師と呼ばれていた。
久々のキングからの指令だ、思う存分、暴れてやる、男は凄みのある笑みを浮べた。

2016年9月15日木曜日

銘柄を明かさない理由R130 仮面の男(前編)

第130話 仮面の男(前編)

劇場の舞台で神の仮面をつけた男は、クライマックスのシーンを演じていた。
「愚かなる人間どもよ、神々の怒りを思い知るがいい。
泣き、喚き、叫ぶがよい、だが滅びの運命は誰にも止めることはできない」
観客は男の鬼気迫る演技を、固唾をのんで見守っていた。

「我らは常に警鐘を鳴らしてきた。
だが思い上がった人間どもは、己らの欲望のままに生きた。
この世界はいったん無にする、そして新世界を創造するのだ」
舞台は真っ暗になり閉幕したが、観客の拍手は鳴り止まなかった。

「お疲れ様でした」、舞台の袖で若い女性劇団員がタオルを差し出す。
「ありがとう」、男は仮面を外し、タオルで汗を拭った。
「ホント、先輩の演技には引き込まれます」、若い女性劇団員がいう。
「ありがとう」、男はタオルを若い女性劇団員に返すと楽屋へ向かった。

楽屋へ入ると、テーブルの上には高価そうな花束と真っ白な封筒が置いてあった。
男が封筒を開けると、トランプのキングのカードとある指令が入っていた。
顎鬚をたくわえた威厳のあるキングのカード。
舞台俳優の男は、贈り主である巨躯の男との出会いを思い出した。

数年前のある日、男は路地裏に横たわり、雨に打たれていた。
数時間前、飲み屋で若手の舞台俳優たち数人と演劇論を戦わせていた。
若手の舞台俳優に、時代遅れの演劇論だといわれた。
頭にきて先に1人で飲み屋を出た、誰かと肩がぶつかったところまでは覚えている。

気がつけば、路地裏に横たわって、雨に打たれていた。
身体の節々が痛むし、殴られたのか片方の眼は塞がっている。
たぶん、肩がぶつかった相手に殴られたのだろう。
地面に横たわって見上げる世界は、今まで見たことがない世界だと男は思った。

気づくと、コートを着た巨躯の男が傍に立っていた。
「夢は何だ」、コートの巨躯の男が見下ろしながら聞く。
「日本一、いや世界一の舞台俳優になりたい」、横たわった男が答える。
「なぜ、世界一の舞台俳優になりたい」、コートの巨躯の男が聞く。

なぜ、世界一の舞台俳優になりたいのかだと。
そんなこと決まっている、あれ、何でだ。
俺は何のために世界一の舞台俳優になろうとしていたんだ。
目的が思い出せない、そもそも目的があったのかさえもわからない。

2016年9月14日水曜日

銘柄を明かさない理由R129 ジョーカーとエース

第129話 ジョーカーとエース

年齢不詳の男と天使の笑顔をもつ男は、次の駅に着くと電車を降りた。
「ついてこい」、年齢不詳の男はそういうと改札の外へ出た。
年齢不詳の男は地上へ出ると、路地にある古びた立飲みの店に入った。
まだ早い時間にも関わらず、店には多くの客がいた。

「とりあえず、生でいいか」、年齢不詳の男が聞く。
天使の笑顔をもつ男がうなずくと、年齢不詳の男は生ビールとつまみを何品か注文した。
生ビールとつまみが運ばれてくると、2人は軽くジョッキを合わせ、飲み始めた。
「なぜ、尾行した」、年齢不詳の男がいう。

「あなたが意図的に情報をリークしてくれたからです」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「あのホステスの女が、そういったのか」、年齢不詳の男がいう。
「そうです、意図的としか考えられないと、なぜ情報をリークしてくれたのですか」
天使の笑顔をもつ男が聞く。

「もし聞けば、君は生涯、監視対象となる、それでも聞きたいか」
年齢不詳の男は、つまみをつつきながらいった。
「それって脅しですか、脅しは通用しませんよ」、天使の笑顔をもつ男がいう。
年齢不詳の男は、2杯目の生ビールを注文した。

そして、天使の笑顔をもつ男のことを話し始めた。
天使の笑顔をもつ男のフルネームと生年月日。
大学入学後、実家が全焼し、家族を全て亡くしたこと。
家族との思い出の品を、貸金庫に預けていること。

今は大学を中退し、大物相場師の家に住んでいること。
在学中から付き合っている交際相手がいること。
だが最近になって、銀座の高級クラブのホステスともいい仲になっていること。
最後に、現在の保有資産を正確に言い当てた。

天使の笑顔をもつ男は、驚きのあまり、何もいえなかった。
「大物相場師が監視対象になると、自動的に周囲の人物も監視対象となる。
わるいことはいわない、これ以上、深入りするな」
運ばれてきた2杯目の生ビールを飲みながら、年齢不詳の男はいった。

「わかりました、1つだけ教えてもらえませんか。
あなたは我々の味方ですか、敵ですか」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「味方でも敵でもない、はるかに高度な目的のために動いている」
年齢不詳の男はいい、2杯目のジョッキを飲み干した。

2016年9月13日火曜日

銘柄を明かさない理由R128 追跡(後編)

第128話 追跡(後編)

年齢不詳の男は、エレベーターホールを出た。
周囲に素早く目をやると、カフェに見覚えのある女がいた。
あの女はクラブホステスの女、なぜ、ここにいる。
目的は俺だな、年齢不詳の男は気づかないフリをして通り過ぎた。

オフィスビルのガラスに、クラブホステスの女が立ち上がる様子が映っていた。
あのカフェは前払い制だ、すぐに店を出て後をつけてくるだろう。
オフィスビルを出た年齢不詳の男は、特に急ぐこともなく歩き続けた。
地下鉄の駅へ降りる手前で、年齢不詳の男はスマホを取り出した。

スマホの表面には、角度によって鏡になる特殊フィルムがコーティングされている。
さりげなく背後を映すと、後をつけてくるクラブホステスの女がいた。
所詮、素人の尾行、年齢不詳の男は地下鉄への階段を降りはじめた。
地下鉄の改札を抜け、年齢不詳の男はホームに入った。

年齢不詳の男はスマホを取り出すと、背後の改札の様子を映した。
クラブホステスの女が、改札にICカードをタッチしようとしていた。
今だ、年齢不詳の男はスマホの特殊アプリの送信をタッチした。
クラブホステスの女がICカードをタッチした瞬間、エラー音が鳴った。

他の改札も全てエラー音が鳴り、乗客は改札の前で立ち往生している。
慌てた駅員が、自動改札機の点検を始めた。
電車がホームへ滑り込んできた。
発車する頃にはホームへ入れるよ、年齢不詳の男は開いたドアから電車に乗り込んだ。

発車のアナウンスが流れ、電車が動き出した。
改札もようやく人が通れるようになった。
クラブホステスの女が呆然とした顔で、こちらを見ている。
素人がプロを尾行するのは100年早い、年齢不詳の男は思った。

年齢不詳の男の耳元で、若い男がささやいた。
「自動改札を動かなくするとは、変わったスマホをお持ちですね。
お伺いしたいことがあるので、次の駅で降りていただけますか」
目の前の車窓を見ると、背後に寄り添うように立つ若い男と目が合った。

あのクラブホステスの女は、トラップだったのか。
クラブホステスの行動に目を向けさせ、俺の行動を別の場所から見ていたのか。
「返事がないということは、降りていただけるんですよね」
車窓に映る若い男はささやくと、天使のような笑みを浮べた。

2016年9月12日月曜日

銘柄を明かさない理由R127 追跡(前編)

第127話 追跡(前編)

都内にある立派な邸宅。
居間には3人の男がいた。
邸宅の主である巨躯の男、巨躯の男に仕える男性秘書。
そして、巨躯の男の後継者と目される天使の笑顔をもつ男だった。

天使の笑顔をもつ男からの報告を聞いた巨躯の男がいった。
「大手外資系証券会社が、相場を作っているのか」
「相場を作っているのは、間違いないと思われます。
株式評論家の推奨する株を買い、株価を操作しています」、天使の笑顔をもつ男が答える。

「ふざけた真似をすると、どういうことになるか思い知らせてやる。
ワシの持てる力、全てを使って叩き潰してやる。
関係各所に指示を出せ、完膚なきまでに叩き潰せ、手段は問わんとな」、巨躯の男がいう。
「かしこまりました」、男性秘書は居間を後にした。

「あることを調べたいので、しばらく留守にします」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「どういうことだ」、巨躯の男がたずねる。
「今回、協力してもらった女性から、ある男のことを聞きました。
その男が我々の味方なのか敵なのか、確かめたく思います」、天使の笑顔をもつ男がいう。

「その男は、どこのどいつだ」、巨躯の男がたずねる。
「その男が何者なのかはわかりません。
しかし正体を突き止める価値はありかと思います」、天使の笑顔をもつ男は答えた。
「わかった、その件は任せる」、巨躯の男はいった。

数日後の夕刻、ウィッグの女はあるオフィスビルのカフェにいた。
モデルのようなウィッグの女は、周囲の視線を集めていた。
そのオフィスビルには吹き抜けのアトリウムがあり、世界最高水準のオフィスビルだった。
意識が朦朧とした株式評論家が、読者がいるといったオフィスビル。

今回の黒幕、大手外資系証券会社が入居するオフィスビル。
わたしの推測が正しければ、あの男はこのオフィスビルにいる、ウィッグの女は思った。
そのときエレベーターホールから、年齢不詳の男が現れた。
年齢不詳の男は、ウィッグの女に気づくことなくカフェの横を通り過ぎた。

ウィッグの女は、スーツの襟に仕込んだマイクに話しかけた。
「店に株式評論家を連れてきた男が来たわ、今から追うわ」
ウィッグの女は席を立つと、年齢不詳の男の追跡を開始した。
「ムリはするなよ」、イヤホンから天使の笑顔をもつ男の声が聞こえた。

2016年9月9日金曜日

銘柄を明かさない理由R126 ジョーカーの正体

第126話  ジョーカーの正体

第二次世界大戦で、この国は敗戦国になったといわれている。
だが、一部の男たちにとっては勝利だった。
開戦前の彼らはある危機感を持っていた。
欧米列強による東南アジアとこの国の植民地化だった。

このままでは、この国は欧米列強に包囲され、やがて植民地となる。
彼らの出した結論は、植民地となっている東南アジア各国の独立だった。
最終的にこの国は敗れる、だが包囲網を崩すことはできる。
彼らはこの国のために、欧米列強に自由の戦いを挑んだ。

敗戦国にはなったが、彼らの当初の目標は達成された。
東南アジア各国は独立、包囲網はなくなった。
次は経済発展による国力の増強だ、彼らはある組織を作ることにした。
戦後の高度成長は、その組織によるものだったといっても過言ではない。

彼らは、有望な人材に目をつけると、次々と組織の一員とした。
国内における組織のネットワークは完璧だった。
ありとあらゆる官公庁や大手企業に、彼らの組織の人間がいた。
この国に進出してくる外資系企業も例外ではなかった。

大手の外資系証券会社に勤める年齢不詳の男も組織の一員だった。
男は大手外資系証券会社に新卒で入社した。
男がその組織の一員になったのは、入社数年後のことだった。
組織は数年間、男の行動を観察した上で採用を決定したのである。

大手外資系証券会社の動向を報告することが、男の主要なミッションだった。
ある日、男は大手外資系証券会社が相場を作ろうとしていると報告した。
数日後、男にあるミッションが与えられた。
「国内の相場師に情報をリークしろ、ただし決して正体は悟られるな」

ストレートに情報をリークしても、人は信用しない。
あえて不自然な点を気づかせることによって、人は情報を信用する。
男は会社から、ある大物相場師にGPIF職員を装い、コンタクトを取るよう命じられた。
男が用意したのは、GPIFの職員名簿にない氏名の名刺だった。

組織は国内のあらゆる通話記録を入手することができる。
男は、大物相場師の家にいる若い男がクラブホステスへ真相究明を依頼したのを知った。
あとはクラブホステスの店で、情報をリークするだけでよかった。
ミッション完了、誰もいない部屋で、年齢不詳の男は不敵な笑みを浮べた。

2016年9月7日水曜日

銘柄を明かさない理由R125 ジョーカー・ゲーム

第125話  ジョーカー・ゲーム

都内にある高級マンション。
天使の笑顔をもつ男を見送ったウィッグの女は1人くつろいでいた。
結局、GPIFを名乗った男はGPIFではなかった。
GPIFではなく、大手の外資系証券会社だった。

天使の笑顔をもつ男から依頼のあった数週間後のこと。
女は偶然にも、隣のテーブルの客の話を聞いた。
「あの株式評論家の勧めた株が騰がるのには理由があるらしい。
噂では、大手の外資系証券会社が買っているらしい」

なぜ外資系がと聞く連れに、男は答えていた。
「GPIFが保有株の公開を決めただろう。
いくら大手の彼らでも、世界最大の機関投資家であるGPIFには敵わない。
よって、自分たちで相場を作ることにしたという噂だ」

数日後、偶然にも株式評論家の男が店にやって来た。
連れの男が席を外した隙に、女は自白効果のあるカクテルを作った。
株式評論家の男は、あるオフィスの所在地をいい、意識を失った。
調べると、その所在地には大手の外資系証券会社のオフィスがあった。

今回は運がよかったわ、女はワイングラス片手に思った。
ふと女は思った。
何かおかしい、あまりにも偶然が続いた。
まさか、そんなことはあり得ない。

もし、隣のテーブルの客の話が偶然でなかったとしたら。
もし、株式評論家の男が店にやって来たのが偶然でなかったとしたら。
隣のテーブルで話していた客は、どんな男だった。
思い出せない、どこにでもいる会社員だったような気がする。

株式評論家の男を連れてきた男。
特徴のない年齢不詳の男だった。
あとで確認すると、男は常連客ではなかったらしい。
高額で予約してきたので、入店間もないボーイはすっかり店の常連だと思ったらしい。

まさか、隣のテーブルの客と、株式評論家の男を連れてきた男は同じ男。
もし、そうだとすると、変幻自在のジョーカーの男。
考えるのよ、いったい、何が起きているのかを。
静かな夜のなか、頭脳明晰なウィッグの女の思考はフル回転を始めた。